間章 生徒会長 神楽坂刹那①　作：はにわ

　
「はは、惜しかったな。
でも楽しいデュエルだったぜ！
また次もやろうぜ！」

「ーーくっ！」

「勝負前の事なんか気にすんな。
土下座しろなんて言わねぇよ。
ただ千鶴や他のレッドをいじめたりすんなよ。
同じアカデミアなんだからさ」

透矢は屈託のない笑顔で、対戦相手の凌斗を励ますように声をかける。
しかし凌斗自身はそれをそうと素直に受けられない。
勝者の余裕が、敗者の自分をなじっているように思うのだろう。

また、ギャラリーは透矢の勝利に驚く者もいれば、負けた凌斗を悪く言う者もいる。
そういった声が悔しさに溢れる感情を更にコントロール出来なくさせる。

加えて凌斗はさっきのデュエルで納得のいかないことが１つあったのだ。

「ーーなぜだ！」

「へ？なんだよ」

「なぜ、お前のモンスターは破壊されなかった！」

「・・・？」

「俺の罠カードの効果で、何故お前のモンスターは破壊されなかった！」

断片的な凌斗の言葉に透矢はすぐには意味が掴めないが、そこまで言われてようやく理解する。

「ああ、それか。
あれはーー」

『ーーＴ・Ｆ（トライ・フォース）モンスターの共有効果よ』

透矢が質問に答えようとしたその時。
不意にどこからか聞こえてきたその女の声に透矢の声が遮られる。

透矢と凌斗が声の方向を向くと、そこには生徒たちが自ら身を引いて、作られた道を歩く女子生徒たちの姿。
四人の中で先頭を歩くのは、フランス人形のような金髪が目を引くオベリスク・ブルーの生徒。
制服の上には赤い厚手のジャケットを羽織っている。

「このモンスターが『フィールドを離れる』効果、またはその効果を含むカードの発動に対して、素材モンスターをデッキに戻す事で破壊を無効にする、だったかしら」

まるでカードテキストをそのまま読み上げたかのような説明。
もちろん、彼女は何も見ていない。

「破壊、バウンスなどあらゆる除去効果を無力化する万能な効果だけど、Ｔ・Ｆモンスターは墓地に素材モンスターが１体以上いなければフィールドに留まれない。
そうだったわね？遊戦名透矢くん」

「えっ？」

透矢が説明するはずだったことを代わりにしてくれたその女子生徒。
突然現れ、しかも自分の名前を知るこの女子生徒は一体ーー？
透矢は見開いた目で女子生徒を視界に捉え続ける。

「ーー会長・・・、神楽坂会長」

「会・・・長？」

凌斗が何かに恐れ入ったかのような表情でその女子生徒の名を呼ぶ。
会長と呼ばれたその女子生徒。
転入したばかりの透矢はその正体を知るべくもない。

「ほらっ！
とっとと散りなっ！
こんなところで固まってたら邪魔だよっ！」

そんな女子生徒の後ろでは、別の女子生徒が豪放な声かけで、生徒たちを解散させようとしている。
別の女子生徒がそのフォローに回り、最後の小さな女子生徒はただ会長という女子生徒の横に連れ添っている。

すると会長なる女子生徒が、凌斗の横に立つと、視線だけが凌斗を見下ろす。

「・・・Ｔ・Ｆモンスターは最近、実装されたばかりのカテゴリー。
でもその特徴を知らないとは、勉強不足と言わざるを得ないわ」

「か、会長・・・。
今のデュエル、見ていて・・・」

「もし、それを知っていたならーー今の勝負、分からなかったのよ？」

「えっ？」

会長が指摘した凌斗のプレイングミス。
それは凌斗が最後に使用した罠カードを、ヴァルバレアにではなく、白銀の盾に撃つべきだったと。
すなわちヴァルバレアの攻撃を敢えて見過ごし、いざ白銀の盾が追撃を仕掛けてくれば、そこであの罠カードを発動することで、
白銀の盾を破壊し透矢のライフも削れていた。
勝負はもちろんどう転ぶか分からないが、少なくともそのターンを凌ぐことは可能だったかもしれない。

そう出来なかったのはＴ・Ｆモンスターの特徴を、凌斗が知らなかったことにほかならない。

「無知は言い訳にはならない。
常に最新の知識を持ち、それに対する策を研鑽し続けなければ・・・この世界では生き残れなくてよ、流石くん」

「か、会長・・・」

「あなたも所詮、その程度なのね。
興醒めだわ、流石くん」

冷たい視線に、冷ややかな言動が凌斗を打ちのめした。
凌斗は愕然としたのだ。
なじられたことにではなく、この会長に今のデュエルが見られてしまったことを、である。

一番、ミスをしてはならぬ人の前で、無知故のケアレスミスを行い、結果、敗北。
言い訳のできない失態だ。

「それにひきかえ・・・」

すると会長なる女子生徒はふと透矢を見た。
一方の透矢はあっけらかんと、彼女に見入っているだけであった。