３ｒｄデュエル 秀才・地影の堅牢デッキ⑧　作：はにわ

　
「ーーんじゃ、バトルの続き行くぜ、朝霧！」

「く・・・っ」

『トライ・フォーメーション！』によってＴ・Ｆ召喚された『影刃の淑女 ベアトリーチェ』。
バトルフェイズ中の特殊召喚になるため、このままベアトリーチェは攻撃が可能である。

攻撃力は魂の一部である『影縫いの微刃』同様の２３００。
しかし他の例に漏れず、真の力を取り戻したベアトリーチェには強力な能力が備わっていた。

「ベアトリーチェで、攻撃表示の守護者の石板を攻撃！」

そして攻撃宣言。
地影がふと残されたリバース・カードに目を遣る。

「おっと、ベアトリーチェが攻撃する時、相手は魔法・罠カードを発動出来ないぜ？」

「ーー！」

ベアトリーチェの能力の１つ。
それは自らが攻撃する際に、相手の魔法・罠カードによる妨害を封じる。
この能力により、ベアトリーチェは安全に自らの攻撃を通すことが可能だ。

「ーー『ファントム・ローズ』！」

透矢の掛け声と共に、ベアトリーチェは、
手品のように何もない掌から黒薔薇を一輪取り出すと、それを攻撃対象の守護者の石板に向けて柔く投げる。
黒薔薇が宙に舞い、やがてそれが花びらを散らしながら落下へと傾いたその瞬間。
その場を動いていないベアトリーチェが手に持つ曲刀を下から振り上げると、その薔薇が真っ二つに切り裂かれる。
ーーそれと同時、守護者の石板も縦に真っ二つに切り裂かれていた。

一体どういう風に攻撃したのか、全く分からないが、ベアトリーチェは誇ったように小さく笑いながら、曲刀の切っ先を持ち、器用に上に投げてはそれをまた指で受け止める。

この戦闘によりベアトリーチェの攻撃力と守護者の石板の攻撃力の差、２００が地影のライフから差し引かれ、３８００。
無傷だった地影のライフに遂に傷を負わせた。
同時に背後の石板にも更なる亀裂が走った。

「ですが、守護者の石板は同時に倒さない限り、何度でも復活しますよ」

地影が口にする。
守護者の石板はフィールドに２体以上並ぶ限り、片方が倒されてもエンドフェイズに復活してしまう。

「へへ、それはどうかな？」

「え・・・？」

地影が声を漏らすやいなや、ベアトリーチェが不意に持っていた曲刀を投げ付けた。
投げ付けた先にはもう一体の守護者の石板。
曲刀がその胸板を貫き、瞬時に破壊する。

「な・・・？」

「ベアトリーチェの二つ目の効果さ。
戦闘で相手モンスターを破壊したら、他の相手モンスター１体を効果で破壊できる！」

「なんと・・・」

恐るべし、Ｔ・Ｆモンスター。
地影は素直にそう思った。
ベアトリーチェは攻撃する際に相手の抵抗を許さず、更にその攻撃でモンスターを破壊すれば、更にもう１体を道連れにさせる。
透矢のＴ・Ｆモンスターは地影も何体か見ているが、どれも一瞬にして場を塗り替える可能性を持った者たちなのだ。

（ーーですが今の『破壊』により、既に『カウンター 』は５つ目）

守護者の石板の復活効果はもう使えない。
だが、２体目の守護者の石板が破壊されたことで、地影の背後の石板には更なる『亀裂』が刻まれている。

（そしてこのリバース・カード・・・。
やはり最初に『災厄龍の石板』を引いた時から、この展開は決められていたーーということですか）

リバース・カードと１ターン目に発動した『災厄龍の石板』を交互に見た後で地影は頷く。
地影は流れ、運といった要素にあまり信を置かないタイプだが、このデュエルに限り、それを感じずにはいられない。
すなわち、目の前のデュエリストを倒すには『あのカード』でなければいけない、という事だ。

「よぉし、まだまだベアトリーチェは活躍するぜ！
バトルフェイズ終了時に墓地の『影縫いの微刃』をデッキに戻して効果発動！」

声が上がり、地影は意識を透矢へと向けた。

「このバトルフェイズ中にベアトリーチェが戦闘で相手モンスターを破壊してる時に発動出来る！
相手フィールド上にセットされた魔法・罠カードをすべて破壊し、１枚につき８００ポイントダメージを与える！」

墓地の『影縫いの微刃』をデッキに戻し、ベアトリーチェの最後の能力が発動。
地影のフィールドにはリバース・カードが１枚。
これを破壊し、更に８００ものダメージを与えるのだという。

「ーーそれなら、私はその効果にチェーンしてリバース・カード、オープン」

「ちぇ、チェーンされちまったか！
ベアトリーチェの効果が不発になったな」

チェーンして発動された『その』リバース・カード。
逆順処理により、地影のそのカードが先に発動され、その後でベアトリーチェの効果が発動する。
しかし地影のカードが発動された時点で裏向き（セット）状態ではなくなったため、ベアトリーチェの効果は透矢の言うとおり不発になる。

だが、そうして発動された地影のリバース・カードはーー。

「罠カード『ジャッジメント・デイ』を発動！」

「何だ？！」

「このカードは私のライフを半分支払い、『災厄龍の石板』に『解呪（かいじゅ）カウンター』を３つ乗せるカードです」

「『解呪カウンター』・・・？」

罠カード『ジャッジメント・デイ』のコストとして、地影はライフを半分支払わなければならない。
地影のライフは３８００だから、それが半分となり、１９００となる。
だがそれによって『災厄龍の石板』に解呪カウンターなるものが３つ乗せられた事になる。
するとその『災厄龍の石板』に急激に大きな亀裂が走ると、それが中央で収束した。
今にも崩れ落ちそうなその石板。
亀裂の隙間からは黒い煙のようなものが吹き出している。

「そういえばあれは１ターン目に朝霧が発動した永続魔法・・・？
一体、何なんだ・・・？」

「私としたことがうっかりしていました。
遊戦名くんは私のデッキを把握していないのでしたね」

地影が眼鏡の位置を直す。

「実は永続魔法『災厄龍の石板』には、岩石族モンスターが破壊される度に『解呪カウンター』が１つ乗る効果があったのです」

「破壊される度？」

「はい。
ちなみに、今のバトルフェイズで２体の『守護者の石板』が破壊されたことで、合計５つのカウンターが乗せられていました。
そして・・・今の『ジャッジメント・デイ』によって８つ目ーー」

ライフを半分支払ってまで発動された『ジャッジメント・デイ』。
そこまでしなければいけなかった理由が今、語られる。

「『災厄龍の石板』に『解呪カウンター』が８つ以上乗った時、そこに封印されていた『災厄龍』が目覚めます！」

「ひょお～、なんだかよくわかんねぇけど、とにかく凄ぇモンスターが出てくるってことだな！？」

地影は黙って頷く。

透矢の胸は高鳴った。
地影がそこまで苦労して呼び出すモンスターなのだから、強力、いやそんなもので言い表せないような能力を秘めているに違いない、と。

「よし、俺はカードを１枚、セットしてターン・エンドだ！」

とっとと自分のターンを終わらせて地影にターンを返そう、とでも言わんばかりの透矢。
バトンを渡された地影は無言のままにカードをドローする。

そしてーー。

「解呪カウンターが８つ乗った『災厄龍の石板』を墓地へ送り、デッキ・手札・墓地から『災厄龍』を特殊召喚します！」

地影が宣言すると、巨大な石板は遂に崩れ落ちた。
するとそこに現れたのは黒い煙を漂わせ視界を曇らせる『何か』。
すると突如として観客席にすら轟かせるような、声とも似つかぬ雄叫びが透矢を貫いた。
透矢はこのスリルを楽しんでいるのか、不敵に笑う。

「へへ・・・、朝霧のエースモンスター、登場ってか」

「出でよ、『封印されし災厄龍 エニグマン』！！」

ーー封印は解かれた。
地影の切り札。
これから透矢は最大の正念場を迎える。