１sｔデュエル トライ・フォース！③　作：はにわ

　白銀の盾による攻撃を無効にされた透矢。
だがそれだけではなかった。

「そしてこの時、ポイズンリザードのもう１つの効果を発動！
こいつがバトルを仕掛けられた時、相手に４００ポイントダメージを与えるのだ！」

「うぇえ？！ またダメージかよっ？」

ポイズンリザードの二つ目の効果が発動。
再びポイズンリザードが紫色の毒液を吐き出し、白銀の盾の頭上を越えて、透矢に降りかかる。
これにより、透矢のライフは３６００から３２００へと落ち込んだ。

「ぐぇえ・・・、ちくしょ～あの蛙やろ・・・ん？」

現実にまとわりつくような汚毒の液体を振り払いながら悔しそうに顔を見上げると、ふと透矢の目に入ったもの。

白銀の盾が正面を向いたまま横目を逸らすだけであるが、その視線が心配そうに透矢を見遣っている。

「へへ・・・、大丈夫だぜ。
こんなもんじゃ、俺は全然堪えないぜって！」

ーーソリッドビジョン。
カードから情報を読み取り、立体幻像としての姿に過ぎないはずの女戦士。
だがまるで透矢の気迫に応えるように小さく頷き、再び細身の剣を構えた。

「どうした、他にやることがないんならとっととターンを終わらせろ！」

「おっと、そう慌てんな、って！
俺もカードを１枚セットして、ターンエンドっと！」

凌斗に急かされて、透矢は再び手札に視線を戻すと、その中からカードを１枚を魔法・罠カードゾーンに裏側でセットして彼のターンを終えた。

「ちっ・・・たく、ちんたらプレイしやがって。
俺のターンだ、ドロー！」

凌斗が舌打ちをしながらもデッキからカードを新たに引く。
これで彼の手札は４枚。

「このスタンバイフェイズっ！
ポイズンリザードＬV３の効果を発動するっ！」

苛ついていた凌斗だったが、待っていた『その時』を迎え、歓喜に震えるような笑みを見せる。

「ポイズンリザードＬV３をポイズンリザードＬV５にレベルアップさせるっ！」

「ーーそうかっ、『ＬVモンスター』は特定のタイミングでレベルアップし、パワーアップするモンスターかっ！」

「その通りだ・・・くくくっ、進化したポイズンリザードの恐ろしさを味わうがいいっ！
ポイズンリザードＬV３を墓地へ送り、出でよ、ポイズンリザードＬV５っ！」

凌斗の宣言に合わせてポイズンリザードＬV３が泥に深く沈んでいく。
そしてデッキから取り出したそのカードをモンスターゾーンに凌斗が叩きつけるようにセットすると、
まるで地鳴りような震えが起きたかと思えば、泥沼が巨大に広がり、そこから醜悪なモンスターが姿を現した。

ポイズンリザードが単に巨大化しただけでなく、黒ずんだ体色に、背中には火山の噴火口を連想させるようなものが、いくつも突き出ている。

据わった目付きは変わらず、まるで笑っているかのような大きく横に裂けた口からは、紫色の液体がよだれのように流れ漏れている。

これには透矢も体を引いたが、凌斗側の取り巻きのテンションは増すばかり。

「ＬV５、効果発動！
レベルアップ成功時に、相手に８００ポイントダメージを与える！」

「ま、またダメージかよぉっ！」

ＬV５になり攻撃力が１２００から２１００と二倍近くに跳ね上がった。
だがそれだけではなく、与える効果ダメージも４００から倍の８００に上がったのだ。

凌斗が透矢に向かって右腕を突き出すと、ポイズンリザードが大きく口を上下に開き、先程までとは比べものにならない量の毒液を吐き飛ばした。

「ひぇええーっ！」

やはり成す術のない透矢はその毒液の餌食となる。
これでライフは更に減り、３２００から２４００となった。

「げぇええ～っ、もう勘弁してくれよっ！」

毒液にまみれた透矢がたまらずぼやきのような声を上げる。
白銀の盾はそんな主人（マスター）をまた心配そうに見遣っているようだ。

「はっはっはっ！
いい様だぜ、落ちこぼれレッドめ！
だがまだまだだ！
俺のメインフェイズに手札からこのモンスターを通常召喚！ 」

ライフの差は既に１６００。
凌斗の戦略は確実に勝利へと向かっているのだろうか。

そんな中、更に召喚されたモンスター、『ポイズン・ビースト』。
レベルは３で攻撃力は１１００だ。

「ポイズン・ビーストは相手に戦闘ダメージを与えた時、相手に６００のダメージを与えるのだ！」

「何っ！？」

「くくくっ、頭の悪いレッドも状況が飲み込めたか！
このバトルフェイズに、まずポイズンリザードでお前の雑魚モンスターを蹴散らし、そのあとでポイズン・ビーストで攻撃すれば、それでお前のライフは０だ」

凌斗が勝ち誇りながら捲し立てた。
つまり、ポイズンリザード攻撃力２１００で白銀の盾攻撃力１４００と戦闘し、破壊。その差７００が戦闘ダメージとなり、透矢のライフは１７００となる。
然る後、ポイズンビーストでダイレクトアタックを決めれば１１００＋追加の６００ダメージで透矢のライフは０、という運びである。

「だがまぁ、貴様が伏せたそのカード・・・妙な罠カードだったら面倒だ。
そこで俺はバトルフェイズ開始時にこのカードを発動！『封魔の矢』っ！」

バトルフェイズにフェイズが移ると同時に発動された速攻魔法・『封魔の矢』。
どこからともなく降り注いだ矢が、透矢の裏側のカードを射抜く。

「残念だったな、この効果でお前のリバースカードはターンの終わりまで発動出来んよ」

『封魔の矢』はバトルフェイズ開始時に発動出来、互いに魔法・罠カードの発動を封じるカード。
つまり透矢が伏せたカードが何であれ、少なくともこのターンは無力化されたことになる。

「へへへ、俺は用心深いだろ？
お前とは違うのさ」

「く・・・っ」

「んじゃ、遠慮なくその雑魚モンスターを葬るとするか・・・」

凌斗の進撃に手段のない透矢。
だが凌斗のある言葉に透矢は過敏に反応していた。

「雑魚、雑魚って。
人のモンスターを雑魚呼ばわりはないだろ」

「あぁ？
雑魚モンスターを雑魚と呼んで何が悪いんだよ」

「モンスターの強さは攻撃力だけじゃない。
そこが分かってない奴は、意外なところで足をとられるぜ？」

「はん、レッドが偉そうにブルーのトップである俺に講義ってか？
笑わせるぜ！」

もはや負ける前に言う負け惜しみ程度にしか感じてないのか、凌斗が高笑いすると、取り巻きもそれに合わせて笑う。
だが透矢も気持ちは引いていない。
何か確信があるかのような強い眼差しだ。

「まぁいい、とっとと終わらせて、現実の厳しさってものをレッドに教えてやるさ。
ポイズンリザード！あの雑魚モンスターを攻撃！」

そしていよいよ攻撃の声が掛かる。
するとポイズンリザードが元々四つん這いの姿勢から更に深く体を沈めると、背中の噴出口が震え始める。

そして次の瞬間、数多の噴出口から一斉に毒液が噴火のように空高く放たれ、空中で弧を描いたそれが白銀の盾に降りかかるーー。

白銀の盾は左手の円形の盾を構えて、防御の姿勢を見せる。
だがそれでも数値の差を埋めることは当然できず、無数の毒液が白銀の盾を飲み込んだのだった。