天才少女・水花の極寒デュエル！⑧　作：はにわ

「ーー水花・・・っ！」

「なんだい、ちょっと様子がおかしいんじゃないのかい？
一体、水花の奴、どうしたってのさ」

ーー突然の水花の異変に静まる観客席。
刹那が立ち上がり、青ざめた表情で壇上を見遣り、炎魅子も険しい表情で見守る。

「遊戦名くんと何かを話していたようですが・・・、
それが水花さんの気に障りでもしたのでしょうか？」

地影も類を見ない異変に、少なからず動揺を感じているようだ。
デュエル・リングでの水花の叫びは聞こえたようだが、そこに至る会話までは聞き取れていないようだ。

「にしても地影。
水花があんな大声を張り上げるのなんて見たことあるかい？」

「いいえ・・・正直、水花さんがあんなに感情を剥き出しにするなんてーー意外です」

「そうだね。
それに『パパ、ママ』って・・・。
一体、どういうことなんだろうね、刹那？」

地影の意見を聞きながら、不意に立ち上がったままの刹那を見上げた炎魅子。
しかし刹那はそんな炎魅子に何も応えない。

（水花のお父様、お母様・・・？
何故、今この時にそんなことをーー？）

刹那は壇上を見つめながら、一人、考えに耽っていた。

（ーーまさか・・・『デュエル』？
水花が『デュエル』の時だけ感情を昂らせる理由がーー。
水花のあの『事件』に関係が・・・？）

刹那は水花の『過去』について、他人よりも深く知る人物の一人。
その刹那の知識と、冴えた脳が織り成す推測がある程度の形を作り上げていく。

勿論、超能力者でもない彼女がそこにある答えが導き出せるはずもない。
だが少なくとも『鍵』となるかもしれないものが、『そこ』にはあるかもしれない。
刹那の表情はいつしか平常のそれに戻り、何かを確認するようにしきりに頷いていた。

「ーーちょっと、刹那？
聞いてるのかい？
水花の様子がおかしいんだから、デュエルを止めたほうがいいんじゃないの？」

何度呼び掛けても反応しない刹那に、炎魅子が不快をあらわにする。

「確かに水花さんの事を考えるなら・・・デュエルを止めさせないまでも、少し休止の時間を摂った方がいいのではないでしょうか」

地影も概ね炎魅子と同じ判断を示す。
だがそれは刹那の考えとは真逆に反していた。

「ーー問題ないわ。
デュエルはこのまま続けさせましょう」

「も、問題ない、って刹那！」

「水花がデュエルをする時に気持ちが昂るのは、二人も知っての通りよ。
今のも、それが少し強く出ただけよ」

「ですが、刹那さん・・・もし、水花さんに何か異変が起きているとしたらーー」

「そう判断を下すのは早いわ。
とにかく、今、このデュエルを止めたりはしません。
このデュエルは生徒会大戦の大事な戦いの１つであるということを忘れないで」

「でもさぁ、刹那ーー」

席に腰を下ろしながら続行、の意志を崩さない刹那。
その話し方には彼女の威圧が込められており、最終的には炎魅子も口を閉ざした。
だが水花が心配なのか、地影と共に不安そうな視線を送る。

（ーー水花・・・）

普段から水花を可愛がっている刹那にすれば、冷たい判断とも言えるこの裁断。
刹那の思惑ーーそれは一体、何なのか。




ーーデュエル・リング。

ここにいる者一同の中で、一番動揺しているのは、水花の対戦相手である透矢なのかもしれない。

自分が語りかけたことから、急に態度を急変させた水花。
知らないうちに何か、悪いことを口走ってしまったのだろうか、と。

審判兼立会人のクロエはしきりに水花を気遣うように声をかけている。
何せ、相手はいくら天才とはいえ、九歳の少女。
必要以上に心配してしまうのは無理もない。

「ーーターン、エンド、だよ・・・」

当の本人、水花はまるで開いた花びらが元通り閉じるかのように、無表情な面持ちで再度そう告げた。

だがそう言われても、果たしてこのままデュエルを続けてもいいものか、と透矢を躊躇わせる。

ただ水花が戦気を失っていないのは確かなようであり、
じっと透矢を見つめて、デュエルを再開させるのを待っているかのようだ。

するとクロエが何処かに視線を移していたかと思えば、何かの意志を受け取ったかのように頷く。

「Ｈｅｙ、トーヤノＴｕｒｎ、デスの！
Ｄｕｅｌ、続ケテ下サーイ、デスの」

そしてクロエまでもがそう促す。

そこで透矢は覚悟を決めたのか、１つ深呼吸をして、気持ちをデュエルに戻そうと努める。
さっきのはたまたま、何か触れてはならないものに触れてはだけ、と考えを改め直し、
両の頬を軽く叩いた上で、彼はようやく自身を取り戻した。

「よっし、んじゃ、行くぞ！
俺のターンだ！」

異様な雰囲気の中で、続行されるデュエル。
そしてその先に、水花が内に秘めているものが導き出されようとは、誰も考えもしていないのである。

ただそれを予想している者が一人。
会長・刹那のみである。