とある生徒会の座談会　作：はにわ

　
ーー神楽坂邸。
都心の一等地、人が超という言葉を付ける程の高級マンションの最上階。
その最上階である十六階は、実はまるごと神楽坂の家となっている。
階下は一階につき十部屋ほどが割り当てられているが、その一部屋でさえ、広大な敷地、豪華な設備、窓から覗く優雅な景色、と裕福な者が好み、またそういった者だけが住む事を可能とする。

神楽坂家はその十部屋を合わせた以上の広さがあり、もはや一家庭が住むにはあまりに過ぎたものである。
更に言えば、実はこのマンションそのものが神楽坂の所有物である。

そもそも神楽坂はデュエル・モンスターズを始めとする様々な企業、果ては政財界にコネクションを持つ大財閥。
階下に住む者たちでさえ、社会的地位が高い者が中心であるが、
神楽坂はそのワンランク上の存在と言える。



ーーそんな神楽坂の家にて、元々住んでいる刹那、そして水花を始め、
地影・炎魅子が一同に会していた。

刹那の『部屋』ーーとはとても言い難い規模の、広大な一室の中央にあるリラックスルーム。
そこで身体が沈み込むような柔らかいソファーに、刹那・水花・地影が座り、刹那自らが煎れた紅茶の味を楽しんでいた。

所謂高級な暮らしに慣れた刹那は、紅茶を飲む仕草は優雅であり、またそれが実に自然な佇まいなのである。
水花も同居している故にこの生活には慣れたものだが、
地影はそうではなく、どうにも居心地が悪そうであり、
柔らかすぎるソファーにも座り慣れない。

「ーーあいよ、お待たせ！
炎魅子特製のスペシャルデコレーションケーキだよ」

「わぁ、素敵！
待った甲斐があったわ」

「・・・美味しそう」

「凄い・・・さすが炎魅子さん」

炎魅子だけがこの場にいなかったのは、実はこのためである。
刹那の部屋にあるキッチンで、数時間前からケーキを作っていたのだ。

そしてようやく出来上がったケーキは炎魅子特有の随所に工夫が施された、豪華かつまた大きさもかなりある。
刹那もこれには目を爛々と輝かせ、水花と地影は驚嘆の意をあらわにした。

「ったく・・・刹那がこんなもん着せるからやりにくくて、時間かかっちまったよ。
もう脱いでもいいだろ？」

炎魅子が身体をよじりながら刹那に訴えた。
黒いミニスカートのドレスの上からフリルの付いた白いエプロン、また頭にもフリルの付いたカチューシャを付けている。
これは神楽坂が雇う待女が着る制服であり、有り体に言えばメイド服、というものである。

刹那の計らいで、嫌がる炎魅子に強引に着せたのだった。

「ダメよ。
罰ゲームだって言ったはずよ」

「だからさぁ、謝ってるじゃないかぁ～。
それにアカデミアの奉仕活動だって真面目にやってんだろ？」

「だぁめっ！
それに透矢くんとのデュエルでも、勝手に手を抜いてーー」

「いや、あれはさぁ・・・。
あんなカード使って勝っても、えげつないだろ？
本当は『龍』なんて抜いて勝負したかったぐらいなんだからさ」

「それにいつの間にか透矢くんと、名前で呼び合う仲になっちゃって。
悔しいったらありゃしないわ」

「いや、名前で呼ぶくらい別に普通じゃないか・・・」

「普通？
私なんて未だに『会長さん』よ。
全く、そう呼ばれる度に私のセンチなハートは傷ついているわ」

「また訳の分からないこと言っちゃってさ・・・」

炎魅子にメイド服を着せたのは、名目上は前回の炎魅子の単独行動に対する罰だと言うが、
どうやらその中には刹那の嫉妬も含まれているようである。

「でもまぁ・・・『龍』や『日（デイ・シリーズ）』を使いたくなかった、って気持ちは分かるわ」

「だろ？
あんなのフェアじゃないよ」

炎魅子が口を尖らす。
観念したのかメイド服のまま、話しながらケーキを切り分け始める。

「ただ炎魅子も水花も地影も。
『龍』なんてデッキに入れないほうがむしろ、全力で戦えそうな気がするけどね」

「ま、アカデミア四天王の決まりだからね。
仕方ないさ」

「でも・・・『龍』を抜いて、戦いやすくなった感じはあります」

切り分けたケーキが配られ、小さなフォークを使ってそれぞれが口に運ぶ。
水花は、刹那が気遣い、頬に付いたクリームをハンカチで拭ってあげている。
そしてそれからはケーキの味を褒めたり、雑談をしながらのティー・タイムとなった。


「ーーそういやさ、今、やってるんだっけ？」

甘いものが好きな四人。
大きなケーキをみるみる平らげていき、残りも四分の一、というぐらいになった頃。
炎魅子が口を開いた。

「ええ、さっきメールがあったわ。
『これからやる』ってね」

「見に行きたい、っと言いたいところだけど、
あの二人の邪魔をしちゃ、野暮ってもんだね」

「真実を知れば、お互いにショックを受けると思います・・・」

刹那は済ました顔で紅茶を口に付けているが、炎魅子と地影は沈んだ表情である。

「なぁ、刹那。
このデュエルが終わったら、いい加減解放してやんないか？」

「ーーそれを決めるのは私ではないわ」

「いやさ、『先生』に口を出せるのはあんただけだろ？」

「・・・」

刹那の動きが止まる。

「あたしたちは中等部からの付き合い、親友じゃないか。
可哀想だとは思わないのかい？」

「ーー公私、混同はしないわ」

「刹那さん。
真実を知れば、遊戦名くんも黙っていませんよ？」

地影も刹那に言う。
真顔の刹那。
カップを両手で持ったまま動かない。

「ーー分かったわ。
この生徒会大戦が終わったら、私も前向きに考える。
だからそんな目で私を見ないでちょうだい」

「刹那さん！」

「刹那！」

刹那のその言葉を得て、地影も炎魅子も嬉しそうに笑顔を見せる。
刹那はため息をつきながら、一人黙々とケーキを食べている水花の頭を撫でた。

「ただし、透矢くんは必ず生徒会に入れるわ。
彼のＴ・Ｆモンスターを操る力は貴重だから、ね」

「例の『大会』のメンバーか。
ま、確かにあいつなら良いとこまで行けるんじゃないか？」

「今回、あの子に勝てれば本物ね。
文句なしのレギュラー・メンバーよ」

「前回は悔しい思いしたからねぇ。
確かに透矢が加われば、こりゃ面白くなりそうだ」

「前回ーーもう１年・・・ですか。
懐かしいですね」

地影が言いながら、ふと携帯端末を取り出すと、
内部データに保存してあったある写真を開く。

それは何らかの集合写真。

そこには地影、炎魅子、水花。
そして刹那も写っている。
そしてその刹那の隣りにもう一人、仲睦まじげに寄り添う人物がいた。

四人はその人物を一点に見つめる。

「ーー元気にしてんのかい、『久遠（くおん）』は」

「ええ、元気よ」

「久しぶりに逢いたいですね」

「あの子も、そう言ってたわーー」

写真を懐かしそうに、特に刹那は感慨深く見つめている。
それは水花も同じ。
懐かしきその姿に、何も言わず、ただじっと見つめているのだった。