再会　作：はにわ

　
「ん・・・、あ、れ・・・？」

不意に肌寒さを覚えて、目を覚ました透矢。

「ここ、は・・・？」

目を擦り、眠気を振り払いながらゆっくりとぼやけた視界を覚醒させて、自分が置かれている状況を確かめる。

「んん・・・？
なんだ、ここは？
俺、いつの間にこんなところで寝てたんだ？」

寒いはずである。

ーー夜に染まった空の下、丸太の椅子に座って、木の机に突っ伏して、今の今まで寝ていたようなのである。
この場所がどこか、というよりも、何故自分が外で寝ていたのか、それが全く分からない。

「えーっと・・・確か、真希を見送った後は部屋に帰って、そのまま寝ちまったんだよな・・・？」

寝惚けた脳を必死に働かせて、記憶の最後を辿ろうとする透矢。
だがいくら考えても自分の部屋で床に就いたの最後であり、外に出たような記憶はない。

「なんだ・・・？
夢遊病ってやつか、これは・・・。
・・・ん？」

ふと周りを見渡した彼。

「待てよ、ここは・・・！」

見覚え、いや見慣れた風景に彼の意識が一気に覚醒した。

「ここは・・・俺がよく来ていた公園じゃないか・・・」

彼にとってまだ記憶にも新しく、同時に馴染み深いこの地。
それは引っ越す前の家にいたころ、悩んだ時によく訪れていた公園だった。
その時もここに来ていたのは誰もいない夜半時だったため、尚更ほんの１ヶ月前の記憶と合致する。

「ん～・・・、それにしても俺はなんでこんなところに？」

立ち上がりながら、頭を掻く。

自分がどこにいるのかは分かった。
しかし、何故その場所に今の自分がいるのか。
この場所は今住んでいる場所とは県を隔てているため、夢遊病でここまで来たとは考えられない。

「まさか、夢・・・なのか？」

次に思ったのがそれだった。
これは夢。
夢でないのなら、ここにいる説明が到底考え付かない。

しかし妙に意識が鮮明な夢だ・・・。

彼がそんなことを考えていた、その時。

「ーー透矢くん」

後ろから呼ばれて振り返る『透矢』。
そこにはいつから佇んでいたのか、彼にとって会いたい、と願う人物の姿があった。

「ーーお、お姉さん！」

「久し振り、透矢くん」

ベージュ色のセーターに、赤のロングスカートに身を包んだ女性。
セミロングの柔らかい髪の中に見え隠れする不思議な光を放つ瞳。
紛れもなく、その女性は透矢が慕う『お姉さん』だった。

「なんか色々よく分かんないけど、また会えて嬉しいよ！」

「ふふ、言ったでしょ？
そのデッキを使いこなせるようになった時が、私たちの再会の日、って」

「ああ、お姉さんが預けてくれたデッキ、大切に使わせてもらってるよ！」

「ありがとう、嬉しいわ」

優しく微笑む『お姉さん』。
透矢もまさかの再会に、いつになく気持ちが弾んでいる。

「あ、でも・・・」

「どうしたの？」

「俺、今日、負けちまったんだ。
それも勝ちたい、と思った相手に・・・」

「そう・・・」

「ごめん、お姉さん。
そのデュエルで、このデッキの力、全然発揮させてあげられなかった。
俺の実力が足らないせいでーー」

デュエル・キラーとの戦いで負けた事を思いだし、気持ちが塞ぐ透矢。
せっかく『お姉さん』が託してくれたデッキの力を半分も引き出せなかった事に、透矢はある意味負けた事以上に落胆の意を表していたのだ。

すると『お姉さん』は歩き出すと、丸太の椅子に腰を下ろした。

「ね、透矢くん？」

「え？」

「久しぶりにデュエルしよ？」

「デュエル・・・」

「うん」

「・・・ああ！
よし、やろう、やろう！」

透矢を気遣ったのだろうか、多くを訊ねずに、デュエルを持ちかけた『お姉さん』。
『お姉さん』ともう一度デュエルをしたい、と願っていた透矢には是非もない。

まるで始めからこの展開が予測されていたかのように、木の机に予め置かれていたデッキ。
透矢は不思議とも思わずにそのデッキを取ると、はしゃいだ様子で『お姉さん』とのデュエルに臨んだ。
『お姉さん』もそんな透矢の様子に、温かい笑顔を見せていた。



「ーーあちゃ～、また負けちまった」

「惜しかったわね、透矢くん」

デュエル・ディスク無しの、ただテーブルにカードを置いていく練習デュエルのような形。
何戦したかは分からないが、透矢は１度も勝つことは出来なかった。
ただ負けても悔しさはない。
楽しそうにデュエルする『お姉さん』とのデュエルが、ただ透矢には嬉しくて仕方がなかった。
いつまでもこうしてデュエルをし続けたいーーそんな考えが芽生えた頃。

「ーー安心した」

散らばったカードをよそうようにまとめながら、『お姉さん』は口を開く。

「そのデッキは透矢くんに、しっかりと応えてくれてるよ」

「え、そういうの分かるの？」

「うん。
カードの１枚１枚が、君を信じて慕ってくれてる」

「ふーん・・・そうなのかな」

「やっぱり・・・君に託してよかった」

『お姉さん』が微笑む。
カードが自分を慕ってくれているーー怪奇染みた話ではあるが、もしそうなら嬉しいことに違いない。
元の持ち主である『お姉さん』の言葉ということもあり、透矢も合わせるように笑顔で返した。

「ーー透矢くん、またカードを預けるね」

すると『お姉さん』は自らのデッキから、何枚かのカードを引き抜くと、それを透矢に差し出した。

それを受け取った透矢はまじまじとそのカードたちを見つめ、その中で一際目を引くカードがあった。

「『三騎士、女帝の聖杖（せいじょう）』・・・」

勇ましく金属の杖を掲げた女性が描かれたそのカード。
今の『お姉さん』とのデュエルの中で、彼女が大いに活用させていたカードである。

「そのカードで・・・苦しんでる君の大事な人を救ってあげて」

「大事な・・・人？
苦しんでる？」

「君の助けを待ってるわ、透矢くん」

「それってどういう意味なの？」

意味深な言葉を告げる『お姉さん』。
透矢が困惑していると、『お姉さん』は席を立った。

「もう、行かないとーー」

「え、お姉さん？！」

「また会いましょう、透矢くんーー」

「ちょっと、待って！
おね・・・っ！」

後ろ姿を向けて去ろうとする『お姉さん』。
それを追おうと席を立った透矢だったが、途端に視界がぐらりと揺らぐ。
とても立っていられなくなった透矢はその場で倒れた。

「ーー大丈夫、また会えるからーー」

「お、お姉・・・さん」

揺らぐ視界が暗転し、透矢はその世界における意識を保てなくなる。
最後に聞いた『お姉さん』の声。
透矢はただ追いたい気持ちを声で漏らすだけだった。