キー・カード１枚目　作：はにわ

　
ーーデュエルが終わり、観客席にいる生徒会のメンバーも二人の健闘に拍手を送っていた。
しかし四天王の一角である地影が敗れた事に、炎魅子は衝撃を受けていた。

「大したもんだよ、アイツ。
四天王の一員になってからは不敗だった地影を本当に倒しちまいやがった」

炎魅子は透矢の実力についてまだ判断しかねている部分があったようだが、地影が倒されたとなれば認めざるを得ない。
今度の挑戦者は一筋縄ではいかないようだ。

「ーーでも、最後のターン。
地影の奴、伏せるカードも壁モンスターもないなんてらしくないねぇ。
刹那、あんたもそう思わないかい？」

炎魅子の感じた違和感。
地影ほどのデュエリストが、それも守備を主体とした彼女が、
まるで無防備で相手にターンを渡すのは珍しい、ということだ。

すると訊かれた刹那は深慮を重ねているような、険しい表情を見せた。

「いや・・・多分、あの子・・・勝っていたんじゃないかしら」

「はぁ？」

「炎魅子の言うとおり、あの地影が最後のバトルで負けた時のリカバリーを、用意していないはずがないわ」

「でも刹那、現に地影はーー」

「あの子、手札に簡単に勝てるカードを持ちながら・・・敢えて使わずにバトルで勝とうとしたーー。
結果・・・そのバトルに負けてしまったわけだけどーー」

「あははは、何言ってんだよ、刹那！
そんなカード、持ってたんだとしたら使わないはずがないじゃないか。
それとも何かい、地影がわざと負けたなんて言うんじゃないだろうね？」

刹那の言い分を、炎魅子はそんなわけないと一笑に付す。

「あの子はバトルで勝とうとしたのよ。
それは地影の意地だったんじゃないかしら？
意地のバトルで負けておきながら、別の手段で勝つことを良しとしなかったのよ」

「おいおい、刹那。
まるで地影の心を見透かした風に言うじゃないか。
何か根拠でもあんのかい？」

地影の気持ちを代弁しようとする刹那に、炎魅子がさらに訊く。
刹那は目を閉じ、神妙な面持ちで語り始めた。

「炎魅子、地影が守備主体のデッキを使っている理由は知ってる？」

「へ？
いや、知らないけど・・・理由なんてあったのかい？」

「ーー地影はね、アカデミア初等部の頃は攻めるデッキを使っていたらしいわ」

「地影が？
へぇー、今の地影からすりゃ、信じらないねぇ」

「ええ・・・。
それでね、地影はその頃から『自分が仕掛けたバトル』に一度も勝ったことがないらしいわ」

「はぁ？！
一度も？そんなの信じらんないよ」

「私も地影本人から聞いたことだから、この目で見たことはないけれどーー。
初等部の成績は惨憺たるものだったそうよ」

炎魅子は腕を組んで考え込むように顎を引き、とても信じられない、と首を振る。
だがもし本当だとしたら、デュエルモンスターズの醍醐味であり、勝敗を分ける重要なバトルに一度も勝てなければ、それは勝負にも勝つことは出来ないだろう。

「だからあの子は守備主体のデッキに切り替えた。
それからの地影は炎魅子も知ってるわよね」

「んー、まぁそれは分かったけど、それが今のデュエルと関係あるのかい？」

ここまで話して、刹那は悲しげな表情を見せる。

「あの子、守備主体のデッキにしてから勝てるようになった。
でも・・・地影の中では納得がいかなかったんじゃないかしら？」

「納得・・・ねぇ」

「だから今日、攻めを主体とする透矢くんのデッキに触発されて、最後はバトルで勝ちにいったーー」

「でも勝てなかったーーか」

「地影の中ではその時点で敗北を認めたのよ。
だから最後のあの攻防に水を差すような勝利など、ほしくはなかった」

「確かに最後のあのバトルは見応えあったねぇ。
あれに熱くならない奴なんていないよ」

「まぁ、あくまで私の想像よ。
本当に地影に手段がなかったのかもしれないし。
ねぇ、水花」

ふと刹那が水花の頭に手を置くと、水花は地影を見ながら小さく微笑んだ。

「地影・・・満足してる。
地影は・・・戦うデュエルが、好き・・・」

「ーーそう。
あの子が満足したのなら、それでいいんじゃないのかしら」

地影の真意は定かではない。
だが初めて見る地影のその表情に、刹那は水花の頭を撫でながら、優しく見守っていた。





ーーデュエルリング。

激戦を終えた透矢と地影は握手を交わし、共に健闘を称えあっていた。

「たのしかったぜ、朝霧！
またやろうな！」

「ええ・・・いずれ、きっと」

デュエルを通じて心を通じ合わせたかのような二人。
がっちりと握られた手がそれを物語っていた。

「遊戦名くん、これを」

「これはーー」

手を離した地影がデッキからあるカードを抜き、透矢へと手渡す。
手渡されたカードはなんと、あの『エニグマン』であった。

「朝霧、これーー！」

「そのカードこそが、刹那さんに挑戦するために必要なキー・カードの１つ。
この学園に伝わる『四龍』カードの内の１枚です」

「『四龍』・・・？」

初めて聞く単語に透矢が怪訝そうにそれを繰り返す。

「このアカデミアの四天王に選ばれた生徒たちが代々受け継いできた、このアカデミア最強カード四枚。
その内の１枚が今、渡した『エニグマン』です」

「ふえー、そんなすげぇカードだったのか、これ！」

「残り３枚。
残る四天王、３人を倒せば『四龍』が揃い、
刹那さんに挑戦出来ます」

アカデミアに伝わる最強カード４枚の内の１枚。
ある意味では究極のレアカードとも言えるそのカードを手に、透矢は子供のように興奮しながら眺めている。

「で、でもよ、朝霧！
お前のデッキの大切な一部じゃないのか、『エニグマン』はーー」

不安そうに聞いてくる透矢に地影は笑って返す。

「いいえ、心配要りません。
私、実はデッキを大きく改変してみようと思ってます」

「改変？」

「攻めるデッキをーー。
遊戦名くん、あなたみたいなデッキをーー」

「へー、面白いじゃん！
出来たら一番に戦わせてくれよ！」

「はい、もちろん」

また笑い合う二人。
透矢みたいな攻めるデッキを作りたいという地影の言葉に、本人も嬉しそうだ。

「分かったよ、このカード、俺が大切に預かるからな」

「はい。
それと、これもーー」

「へ？」

「あなたがほしい、と言ったカードです」

更に渡してくれたそのカード。
『誘発同盟』。
確かに透矢が思わず欲しいと口走ったカードだ。

「おいおい、こんな良いカード貰えねぇよ」

「いいえ、同じカードは必要な分だけ持っていますから。
残る四天王、３人。
そのカードを役立ててくれれば、嬉しいです」

「分かったぜ、朝霧！
このカード、大切に使うからな」

透矢のその言葉を聞いて、心なしか嬉しそうな地影。

ーー四天王・地影を倒し、キー・カードの『エニグマン』を手にいれた透矢。
残るは３人。
地影からもらったカードをデッキに新たに組み込み、勝利をつかめるのか。

生徒会大戦、そのゴールはまだ遠いーー。