真希、執念の追跡！ 　作：はにわ

　
ーー駅前へ辿り着いた刹那と、水花をおぶる透矢。
刹那の導くまま、バスロータリーの一角へと進む先には１台の高級車が停められていた。
その傍らには周囲の目を引く格好をした一人の年上の女性。
刹那はおもむろにその女性の元へと近づいていく。

「ーーお迎えに上がりました、お嬢様」

「ありがとう、蓮華さん」

刹那に向かって深々と頭を下げる、ひらひらのフリルがついたエプロンドレスとカチューシャを付けたその女性。
透矢は初めて生で見る、所謂待女（メイド）の姿を、通行人同様にまじまじと見つめてしまう。

すると刹那に手招きされて、透矢は傍へ駆け寄った。

「透矢くん、紹介するね。
この人は家で働いてくれている蓮華さん」

「あ、どーも、はじめま・・・」

紹介されて、会釈と同時に挨拶をしようとするが、その蓮華という女性に一瞬睨まれたように感じて、透矢は思わず言葉を詰まらせた。

「お初にお目にかけます。
私、お嬢様の身の回りのお世話をしております、『更科（さらしな） 蓮華』と申します。
以後、お見知りおきを」

「ど、どーも、自分は遊戦名って言います」

透矢に対しても、大きく頭を垂れた蓮華。
ところが再び顔を上げた時、やはり透矢を見る視線は鋭い。
年は一回り上の、美人の女性であるが、つぶらな瞳から発する刺すような視線は生まれつきか、あるいは故意によるものなのかーー。

とにもかくにも、やはり刹那はいいところのお嬢さん。
改めて透矢はそれを実感したのだった。

「ねぇ、蓮華さん。
透矢くんを家に招待したいの」

そんな中、刹那が許可を求めるように蓮華に訊いた。

「ーーお嬢様。
もう今日は遅うございます。
遊戦名様のご家族にも御心配をおかけすることにもなりましょう」

「少しだけ、少しでいいの。
ねぇ、いいでしょ？ 蓮華さん。
透矢くん、寝ちゃった水花をここまで運んでくれたのよ。
私、どうしてもお礼がしたいの」

「お嬢様ーー」

「お願い、蓮華さん・・・」

蓮華の言うことは至極、もっともな意見であるが、刹那は蓮華の手を握って我を通そうとする。
するとやはり、雇い主の娘には逆らえきれないのか、困ったようにしつつも最後には折れた。

「ーー分かりました」

すると蓮華は車の後部座席のドアを開ける。
刹那は嬉しそうにしながら、透矢に車の中へ乗り込むよう促す。
本当にいいのか、と思いつつも透矢はまず背負っていた水花を蓮華に託し、一番に後部座席へと乗り込む。
後部座席は運転席とで仕切られていて、また二つの座席が向かい合っている。
柔らかいシートに腰を下ろしつつも、やたら汚したり傷つけたりしないようにと、透矢は細心の注意を払うのだった。

すぐに刹那も透矢の隣に座り、次に蓮華が目を覚まさないようにゆっくりと水花を乗せる。
刹那もそれを手伝って無事に水花を乗せ終えると、自分の膝の上に頭を乗せて、楽な姿勢で横たわらせてやる。

そして蓮華は助手席に回って中に乗り込むと、程なく発車した。

「透矢くんも楽にしてね」

「あ、ああ・・・」

「何なら少し寝ててもいいよ。
２０分か３０分ぐらいかかるから、着いたら起こしてあげる」

「だ、大丈夫だよ」

ーー少しずつ感じられる、自分たち庶民とは違った世界に透矢は妙に緊張していたのだった。



「ーーあーあ、車に乗っちゃったよ。
こりゃもう追えないね、真希・・・ってあら？」

「鳴瀬さんもいませんよ？」

透矢と刹那が自家用車に乗り込んだのを見届けた炎魅子と地影。
追跡班もこれで解散かーーと、思ったところで、不意に真希と千鶴が姿を消していることに気付く。
いつの間に姿を消した二人を探していると、意外なところからその姿を見せた。

「ーー先輩、地影！」

「うおっ！？」

「ち、千歳さん！」

炎魅子と地影の前に急に現れたのはタクシー。
その後部座席のドアが開いて、そこから真希、そして奥に不安そうに座る千鶴の姿がある。

「早く乗って！」

何と真希は、刹那の行動を見て素早く行動。
ロータリーに止まっていたタクシーを捕まえてきたのである。
もちろんやることは１つ、刹那の車を追跡するのだ。

乗れ、と言われて炎魅子と地影は顔を見合わせる。
ただ炎魅子はすぐに面白そうにはにかんだ。

「よしゃ、地影！
こうなったらとことん付き合うよ！」

「え、炎魅子さん、それはいくら何でもーー」

「つべこべ言うなっつーの！」

「きゃんっ！」

炎魅子が地影をタクシーに強引に押し込む。
そして自らも乗り込み、真希のＧＯの合図の元、タクシーは発車した。

「お客さん、それでどちらまで？」

「あの車を追って！」

「へっ？」

「だから、あの車を追って下さい！」

「お客さん、何かのゲームかい？
それとも映画の見すぎとかな、だははっ！」

「い・い・か・ら！とっとと追いなさいよ！」

「へ、へい！」

「お、お姉ちゃん・・・落ち着いて」

恰幅のいい年季の入ったドライバーに怒号を浴びせる真希。
あまりの迫力にドライバーは気圧され、千鶴が必死にそれを宥める。

「刹那のやつ・・・まさか透矢を家に連れ込む気？
こうなったら徹底的にやってやるわ」

「お、お姉ちゃん・・・もう止めたほうがいいよー」

「ダメっ！
止めたら負けよ！」

「はうぅ・・・お姉ちゃんが暴走してるよぉ・・・」

千鶴は真希を止めようとするも、もはやそれは手に余る。
千鶴は行き着く先がどうなるのか、終わりなき道先がただただ不安でしかなかった。

「え、炎魅子さん、止めなくていいんですか？」

「あっはっはっは！
こんなに面白い事を止める手はないだろ」

「面白いって・・・私は不安しかありませんが」

「行き先不安・・・結構じゃないか！
普通の日常じゃあ、味わえないスリルだよ、これは」

「訳分かんないこと言わないで下さい！」

炎魅子は真希の破天荒な行動に付き合う。
ただ彼女自身が楽しむための行動のようにも見える。
地影はただ為されるがまま、泥沼に嵌まっていくのを感じていた。

車に乗り込み、透矢を連れて家へと向かう刹那。
それを追う真希たち。
その結末やいかに。