夢？　作：はにわ

　
「ーーなぁ、真希、千鶴？」

「ん？」

「なぁに？お兄ちゃん」

ーー朝。
いつも通り３人は共にアカデミアへの通学路を歩んでいた。

すると朝からどこかうわの空だった透矢がふと切り出した。

「なんか困ってること、悩んでることあるか？」

「なによ、それ。
やぶから棒に」

「お兄ちゃん？」

「いや、何もないならいいんだけどさ」

いきなりのそんな質問に、真希と千鶴は目を丸くする。

「気になるじゃない。
なんでそんな事聞くの？」

真希が逆に訊いた。
すると透矢は今朝の『夢？』について語り出す。



「ーー『お姉さん』、って、前に話してた謎の怪しい人物？」

「怪しいって言うな」

「だってそうじゃない」

真希や千鶴は前にも透矢から『お姉さん』の事について聞いていた。

透矢には『お姉さん』という存在はある意味で自分の中で大きくウエイトを占める人物だが、
第三者の真希からすれば、確かに怪しい人物、ともとれる。

「その人って、確かお兄ちゃんにカードを預けてくれたんだよね」

「ああ。
今の俺のデッキの大半がお姉さんが預けてくれたカードさ」

「んー、たかが何度かデュエルしただけの相手に、そんなにカードをあげちゃうなんて、やっぱり変な話よね」

真希の言うことは確かにそうである。
透矢は単純なところがあるから、『お姉さん』からカードを貰ったときは喜びの極地であったものの、
今、考えてみれば『お姉さん』側に何か理由があったのだろうか。

「まぁとにかく、さ。
その人が俺の夢に現れて・・・」

「透矢の大事な人が困ってるから助けてあげて、だっけ？」

「うん・・・」

「でも、夢、なんでしょ？」

「ん～、なんかそんな感じがしないんだよな」

朝、起きたら透矢は自分のベッドに横たわっていた。
『お姉さん』が新たに託してくれたカードは当然のように存在せず、やはり『夢』だったのだ、と思わせる。

しかしながら妙に意識がはっきりしていた『夢』であったということと、
また『夢』にしては、その内容が記憶に残り過ぎている事に違和感があったのだ。

「ま、別にお前たちに悩みがないんならそれでいいよ」

透矢が笑う。
すると千鶴がどこかもじもじとしながら、口を開いた。

「ね、ねぇ、お兄ちゃん」

「ん？」

「その人は、お兄ちゃんの大事な人が困ってる、って言ったんだよね」

「ああ」

「その・・・私たちに訊いた、って事は、
私たちはお兄ちゃんにとって、その・・・大事な、人・・・？」

「当たり前だろ」

吃りながらおずおずと訊いてくる千鶴に即答する透矢。
千鶴の顔が一瞬にして赤くなった。
真希も微妙な面持ちに、頬を僅かに染める。

「だからもし何か悩みがあるんなら助けてやりたい、って思ったんだ」

「ま、まぁ、そう言ってくれるのはありがたいんだけどさ・・・、
真顔で言わないでよ。
恥ずかしいじゃない・・・」

「なんでだよ」

「ったくコイツは・・・」

語る透矢は真剣そのもの。
真希は頬を指で掻きながら、目を逸らす。
千鶴は自らの火照った顔を隠すために、完全に俯いてしまった。

「んだよ、変なやつらだな」

透矢はそんな二人を不思議そうに眺めているのだった。