刹那とのデート それを追う者②　作：はにわ

　
ーーまさか尾行されてるとは思いもしない透矢。
周りを探してまだ刹那が来てないらしい事を確認すると、噴水側のベンチに腰を下ろす。

刹那を待つ彼と同じく、待ち人を待つ男女の姿が周りにいる。
また男だけ、女だけの組み合わせで歩く者もいれば、仲良く歩く男女のカップルの姿もあるのだ。

そういった他人（ひと）たちを見た時、やはり透矢はどこか緊張してしまう。
デート、と意識しての事ではない。
これから来るだろう刹那と、一日をどう過ごせばいいのかが分からないのだ。
真希や千鶴、いわゆる慣れた幼馴染みではないのだ。
一緒に過ごすからには刹那に退屈な思いをさせてはいけない、楽しませなければならない、と一種の使命感すら湧いていた。
しかし具体的なプランがないままの今日。
そもそも刹那はどうして自分なんかを誘ったのか、などと困惑すらしていたのだった。

「ーー透矢くーん！」

すると駅構内の方から自分を呼ぶ声が聞こえて、その方を振り向く透矢。
その方向から、小さな少女を引き連れた、人目を引く容姿を持つ待ち人がこちらに向かって駆けてくる。
透矢も駆け寄ると二人は、いや三人はお互いの姿を見合った。

「おはよ、透矢くん。
待たせちゃったかな？」

「いえ、俺も今、来たばかりだよ」

「そう、良かったー」

季節に合わせた薄手のインナーに、肌が僅かに透ける上着を羽織った刹那。
派手にならないよう、気配ったアクセサリーが大人っぽさを醸している。
制服姿でしか見たことが無かった刹那が透矢の目にも眩しく映ったのか、不自然に目を反らすように、もう一人の女の子を見た。

「おう、水花ー！
お前も来たのかーっ」

「・・・うん」

刹那が引き連れていたのは水花だった。
可愛らしい服装がとてもよく似合っていて、透矢も自然とその頭を撫でてやる。

「ごめんね、透矢くん。
どうしても連れてけ、って聞かないからーー」

「いいよ、いいよ！
水花も入れて３人の方が、きっと楽しいからさ」

透矢の反応を見て、刹那も安心したように頷く。
むしろ透矢としても、刹那と二人きりよりは、水花が居てくれた方が緊張が解れる意味もあった。

「さて、透矢くん！
さっそくなんだけど、どこか行きたいところある？」

「行きたいところ？
んー・・・」

まず刹那が訊いてくる。
そう尋ねられれば確かに行きたいところはある。
確か、数日前に新作のカードパックが発売されているから、カード・ショップにそれを見に行きたい。
他には今、絶賛上映中の伝説の決闘王（デュエル・キング）と、生涯のライバルである通称社長との過去の因縁を交えたデュエル。
デュエリストならば一度は見ておきたい。

ーーしかし。
それはあくまで自分の趣味であり、いくら同じデュエリストでも刹那は面白く思わないかもしれない。
真希や千鶴なら、間違いなく引っ張ってでも連れていくのだがーー。

刹那が楽しんでくれそうな場所ーー。

透矢は悩んだ。

「くす・・・それじゃ、透矢くん。
私、実は映画のチケット貰ってるの。
一緒にどう？」

悩んでいる透矢の考えを見抜き、それを可笑しそうにする刹那。
すると肩から下げた小さなバッグからチケットを取り出しながら、そう持ち掛けた。

「へぇー、映画か！いいね！
で、どんな映画なんだ？」

「それはもちろん、デュエリストなら見て当たり前のーー」

「おおーっ！」

透矢は歓喜した。
正にそれは見たいと思っていた映画。
予想通りの反応だったのか、刹那も満足そうに微笑む。

「ふふ、それじゃ行きましょ、透矢くん！」

「おっとと・・・おいおい、かいちょ・・・」

「ーー（ギロリ！）」

「じゃなくて、せ、せつな・・・ひ、引っ張んなよ」

「相変わらずぎこちないなぁ。
ま、そんな事よりも早く！
次の上映時間までに間に合うようにね！」

「わ、分かったって！
お、おい、水花、ちゃんと手握ってろよ？」

「・・・うん」

透矢の手を取り、はしゃぐように駆け出す刹那。
透矢は戸惑いつつもその手を握り返し、また水花の手も引く。
水花の軽い身体は宙に浮きそうな勢いだったが、透矢の手を強く握ってなんとか付いていくのだった。



「ーーなーんだい、水花も一緒かぁ。
こりゃあたしの期待とはちょいと違うね」

「き、期待って、何を期待してたんですか、炎魅子さん」

「いや、あたしゃてっきり刹那と透矢が二人っきりでさ？
何処か面白いところにしけこむのかなぁ、ってさ」

「し、しけこむって・・・」

ーー離れた場所では身を隠した四人が、透矢と刹那の動向を見守っていた。
ただし水花の参戦は炎魅子の予想外だったようで、途端にテンションを落とす。
炎魅子からすれば二人きりの方が楽しそう、ということで、地影はそんな彼女の反応に呆れているようである。

「ーー追いかけなきゃ」

「お、お姉ちゃんー」

動いた透矢たちを追って、自らも動き出す真希。
それに付き添う千鶴。
二人が行っても炎魅子と地影はその場に留まっていた。

「ーーもう、炎魅子さん！
千歳さんの気持ちも考えてあげて下さい！」

「まぁまぁ、そう怒んなよ。
にしても、刹那の奴、どういうつもりなんだろうね？」

「私に聞かれてもーー」

お互いに顔を合わせる二人。
刹那が誘ったという今日のデート。
刹那をよく知る二人には、そこに何らかの思惑があるように思えてならなかった。

「ーーま、もうちょい真希に付き合ってやるか」

「うーん・・・でも、やっぱりこういうことってどうなんでしょう。
ある意味、刹那さんを裏切ってるようなーー」

「細かい事は気にするなって。
真希だって覚悟して、あんなことやってんだろうからさ。
ま、最後まで付き合ってやろうぜ？」

「うーん・・・」

良識人の地影には未だ抵抗が残るようだったが、炎魅子に押されるように真希の後を追った。