天才少女・蒼井乃水花　作：はにわ

　
ーーその頃、透矢は地影の誘致によって、生徒会室に立ち寄っていた。
呼んだ本人である会長・刹那は透矢の姿を見るなり、デスクから立ち上がって満面の笑顔で迎えた。

「ようこそ、透矢くん」

「お疲れ様っす、会長さん！
それに紅月先輩も」

「よっ、遊戦名！
調子良いじゃないか！」

室内にいたのは、刹那に加えて炎魅子、そして水花である。
炎魅子は透矢の挨拶に屈託ない笑顔で返したが、水花は空気と同化しているかのように、静かにソファに佇んでいる。
透矢が手を立てて声をかけてみても無反応である。

相変わらず不思議な子供だな、と思いながらも、透矢は刹那のデスクの前に立った。

「改めて初戦勝利、おめでとう、透矢くん。
地影に悪いけど、君を買っている私としては鼻が高いわ」

「へへ、会長さんに買ってもらってるなんて光栄だな」

デスクに着席しながら、昨日の勝利を祝福する刹那。
透矢も素直に喜びを表しながらそれに応えたのだが、突然刹那は頬を膨らませた。

「え、何？
どうしたんだ、会長さん」

「ほら、また！
『会長さん、会長さん』って。
私には刹那、っていう名前があるんですからね」

「へ、悪かったか？
ほら、生徒会長なわけだし、一応礼儀っていうか、なんていうか・・・」

「確かに立場はちがうけど、透矢くんと私は同級生よ？
なのに名前すら呼んでもらえない上にさん付けなんて。
そんなに他人行儀にされると、傷ついちゃうな・・・」

いかにもわざとらしいが、拗ねるような表情を見せられて、素直にそうと受け取った透矢は困ったように頭をかく。
すると背後で炎魅子が口を大きく開けて、笑い声を響かせる。

「あっはっはっは！
刹那にそんなキャラは似合わない、って遊戦名が困ってるじゃないか！」

「あら、私だって女の子よ？
気になる男の人に名前で呼んでもらいたいと思うのは、普通のことじゃないかしら？」

「ははは、冗談ばっかり。
俺なんかじゃ会長さんと全然釣り合わねぇ、って」

「それじゃ透矢くんが考える、私と釣り合う男の人、ってどんな人なのかしら？」

「えぇ？
そいつは難しい話だな・・・っていうか、そういう話は苦手なんだよな～」

透矢は困ったように、後ろにいる地影に視線で助けを求める。
すると察しのいい地影はため息をつきながら、口を開いた。

「ーー刹那さん、もう時間も時間ですし、そろそろ本題に入られた方が」

「あら、なに？今のアイコンタクト。
地影と透矢くん、いつの間にそんな仲良しになったのかしら？」

「ーー刹那さん！！」

「じょ、冗談よ、冗談、ね？地影。
でもあなたがそんなに顔を真っ赤にして怒るなんて、珍しいわね」

刹那が言うように、地影の顔は怒りかはたまた別の感情か、真っ赤になっていた。
言われて地影は顔に温度が集中しているのに気づいたか、生徒会室から慌てて出ていってしまう。

「・・・あーあ。
刹那、ちょいと悪ノリしすぎだよ」

「くすくす、地影ったら。
あんなに可愛い一面もあったのね」

「あのーー、なんか俺、朝霧に悪いことしちまったような・・・」

「うふふ、透矢くんも一々、初々しくて飽きないわ。
ごめんなさい、確かに炎魅子の言うとおりおふざけが過ぎたわね」

肩をすくめる炎魅子。
ばつの悪そうな透矢。
刹那は謝りながらも、小悪魔な笑みを浮かべてみせる。

「ーーさて、本題に入るわね。
透矢くん、生徒会大戦、次のデュエルなんだけどーー」

「あ、はい」

「次は水花とデュエルしてもらうわ」

「水花っていうとーー」

表情をいつもの済まし顔に戻してようやく本題。
透矢も気になる次なる相手。
それは今のやり取りにも全く我関せずとばかりに、ただちょこんと座るだけの少女ーー水花。

「あの・・・さぁ、会長さん。
前から気になってたんだけど」

「もう、透矢くんったら！
またそう呼んで！
せめて名前ぐらい付けてよ」

「うぐ・・・じゃあ、せつ・・・な、会長さん」

「ぎこちないなぁ・・・まあ、進捗具合としては我慢してあげるわ。
で、なぁに？」

誰とでも分け隔てなく話せる透矢も、刹那には敵わないらしい。
ペースを乱されながら、何とか話を紡いでいく。

「水花、ってあの女の子だろ？」

「ええ、そうよ」

「あの子、俺たちより明らかに年下だけど・・・この学園の生徒なんだよな？」

「もちろん！
この学園の生徒だし、生徒会四天王の一人よ？
ーーそっか・・・透矢くん、水花のこと知らないんだよね」

透矢は小声でずっと気になっていた事を刹那に聞く。
すると刹那が水花にこっちへ来るように呼び掛けると、水花はまるで呼ばれた動物のようにとことこ、と歩きながら刹那の元まで歩く。
そんな水花を自分の膝へと座らせた刹那は、その『天才少女』について説明し始めるのだった。