光と闇 会長・刹那の混沌を操る力！　作：はにわ

　
ーーそして。
午前、午後の授業はあっという間に過ぎ去り、その時が訪れる。
今日この時は対戦する本人、透矢のみならず、アカデミア全校生徒が注目し、また心待ちにしていた事である。
教諭側も会場となる体育館の大混雑を予想し、急遽視聴覚室を含むいくつかの教室を開放し、ライブ映像による観戦を可能にした。
だがやはり生で世紀の戦いとも言えるデュエルを見届けたいのだろうか、それでも体育館は敢えて立ち見する者が出る程の混雑を見せる。

真希や千鶴、そして炎魅子、地影、水花に、加えて流石の６人も予め確保してあった最前列にその身を置き、喧騒の中、それぞれの思いを胸にデュエル開始の時を待った。


ーーそんな全校生徒が見守る中、透矢は既に体育館の中央、特設デュエル・リングの上に、審判のクロエと共に立ち、刹那が来るのを待つ。
その間、やはり緊張からだろうか、透矢は何度か深呼吸を繰り返していた。

「ーートーヤ」

「え、あ、何ですか、クロエ先生」

不意にクロエが話しかけてくる。

「よく、ここまで来ましたね。
担任教諭として私も鼻が高いです」

「いや、先生にそう言って貰えると頑張った甲斐がありましたーーって、あれ？
先生、日本語上手くなりました？」

「Ｏｈ！失敬、デスの！
先生ハ、元カーラ、日本語ハ、『岸壁』、デスの！」

「ははは、『完璧』、でしょ」

一瞬、流暢にすらすら、っと話して見せたクロエだったが、すぐにまた片言のそれに戻ってしまう。
透矢は特におかしいと思ったりはしなかった。

「ーー今日は勝つことよりも己の力を出し切りなさい。
あなたに期待してるのは刹那だけではないんだからね」

「え・・・？」

またいつもと違う口調で話されて、透矢はクロエの方を見るが、にっこりと笑い返された。

するとほぼ同時に一際大きい歓声が上がった。
透矢がそれに合わせるように正面を向くと、入場口の方から一人の生徒がこちらに向かって歩いてくる。

生徒会長である証であり、またその証を持つ者のみが着用を許される、金の装飾が施された赤いジャケット。
デュエルアカデミアでありながら、その姿を今まで見ることがなかったデュエル・ディスクを装着した会長。
その手のひらに昨日見せられた箱を乗せ、神楽坂刹那がいよいよデュエル・リングへと上がり、透矢と向き合う。

同時に観客席から上がる『会長』の声一色。
デュエル・ディスクを付けただけで、いつもと違った雰囲気を透矢も感じ、息を呑む。

（ーーあれが今日のお前の相手か）

（ああ・・・）

（なるほど、今までの者とは『オーラ』が違う。
我も久しく見る『兵（つわもの）』だ）

（ラグナシアがそう言うんなら・・・やっぱりそうなんだろうな）

ーーもはやだいぶ慣れたラグナシアとの、『心』での会話。
そのラグナシアのお墨付きとも言えるような刹那の像に、透矢もゆっくりと首を頷かせる。

「ーーさあ、透矢くん。
軽い儀式よ。
４枚のカードを箱に納めて」

「・・・ああ」

刹那が１度微笑みかけたあとで、箱を差し出すように手のひらを突き出しながら、そう投げ掛ける。
透矢はすぐにそれに応じて、デッキケースから持参した『四龍』のキー
・カードを取り出すと、それを持って刹那の方に歩み寄る。

そして１枚、１枚。
丁寧にこれまで掴んできた勝利の証であり、刹那と戦うために必要な証を納めていくと、手のひらの上で箱はひとりでに開いた。

ーー二度目の封印の解放。

一度目は封印を解きながら何もせずに再び封を為したが、今日こそは真にその束縛が解かれる。

「デッキを取り出して・・・私のデュエル・ディスクに納めて」

「わかった」

ーーいつの間にか収まりつつある喧騒。
ざわざわと声がする中、デュエル・リングでは厳かな雰囲気と共に儀式は続いた。

透矢が中から慎重にデッキを取り出し、縦横に施された紐を解く。
刹那は空になった箱をクロエに委ねると、透矢と向き合い、デュエル・ディスクを横に構える。
透矢はそのデュエル・ディスクのデッキ・ゾーンに若干震えた手で、ゆっくりと刹那のデッキを納めた。

「ーーありがとう、透矢くん。
これで儀式は終わりよ」

「ふぅ・・・なんか、すげぇ緊張した」

「ふふ、分かる。
私も緊張した記憶があるから」

大きく息をつく透矢に、小さく笑いかける刹那。
そう刹那も一年前に今の透矢と同じ事をしていたのだ。
刹那はそのデュエルを制し、今度は自らのデッキを封印した。

そうして今日、封印は解かれた。
刹那が勝ち、再びデッキを封印するのか、
あるいは透矢が勝ち、デッキを封印する事になるのか。

伝統と歴史に彩られたこのアカデミアの頂上決戦が今、始まろうとしている。

「ーー透矢くん、結局、賭けはどうするか考えてきた？」

「ああ・・・」

昨日、密かに交わされた透矢と刹那の賭け。
生徒会長の座を賭けるのとは別に、個人的な二人の賭けである。

「もし、私が勝ったら透矢くんには生徒会に入ってもらって・・・私が会長である間は、色々とサポートしてもらうけど、それでいい？」

「ああ、分かった」

「うん、ありがとう！
私もやり甲斐があるわ。
それで・・・透矢くんはーー？」

刹那の賞品は既に昨日聞いていた。
だが透矢はいきなりそう言われても、とその場では口にしなかった。

あれからまだ時間は１日も経っていないが、ある程度、決めてはきたようだ。

「刹那、１つ確認したいんだけど」

「あら、なに？」

「もし今日、俺が勝ったらーー今度は俺のデッキがあの箱に封印されるわけか？」

「そうなるわね。
そういうしきたりだから」

「そうかーー」

それは予想していたーーというよりは当たり前の答えだった。
故にそれを元に透矢は賭けの賞品を決めていたのである。

「それじゃ、もし俺が勝ったら刹那。
引き続き、会長をやってくれ」

「ーーえっ？！」

その言葉にはさすがの刹那も目を見開かせて驚きを表情に出した。

「もし俺が勝っても会長になるのは辞退する」

「と、透矢くん・・・？」

「その代わり、流石の退学だけは何とか取り消してやってくれ」

驚いていた刹那だったが、次第に透矢の言わんとすることが分かり、何度か頷く。

「つまりーー透矢くんは会長になりたくないということ？」

「いや、そういうわけじゃない。
俺もその事は真面目に考えてたんだ。
そのーーデッキの封印の事を聞くまではさ」

「なるほど・・・愛するデッキだもの。
封印なんてされたくないよね」

「それもある。
だけど俺のこのデッキは借り物なんだ」

「借り物？」

「ああ。
俺のカードじゃないものも、かなり入ってるからさ。
だから封印されると困るんだ」

刹那は透矢の言い分を理解し、頷く。
確かに借り物のデッキを勝手に封印するわけにはいかないだろう。
だからといって会長職を賭けたデュエルのはずなのに、勝者が会長にならず、敗者が引き続き会長を務めるというのはどうしたものか。

『賭け』はあくまで個人的なものでしかなく、アカデミアの伝統と歴史を汚してもいいのだろうか、と。

「うーん・・・難しいわね、それはーー」

「やっぱり・・・駄目か？」

「うーん・・・」

「それに会長はやっぱり刹那の方が合ってるし、皆も納得すると思うんだよ。
勝手なことばかり言って、刹那には悪いけどーー」

刹那は悩む。

あくまでこれは透矢が買った場合の話であるが、ちゃんとこの場で裁断しておかないと後々面倒な事になる。
だがいかに生徒会長と言えども、こればかりはすぐに結論が出せずにいた。

「ーーいいでしょう。
その条件で、このデュエルを行うことを認めます」

するとそこで口を開いたのは刹那ではなく、何と審判のクロエ。
透矢と刹那が同時にクロエの方を向く。

「悪いけど話しは全部聞かせてもらったわ。
その条件でデュエルを行うことを、このクロエの責任において認めます」

「先生、ですがーー」

「心配するな、刹那。
大事なのはこの『後』だ。
ーー伝統や歴史など、無理に護る必要などない」

「でも・・・」

それは透矢には不思議な光景だった。
クロエの口調があまりに流暢なのもそうだが、それ以上に刹那の態度である。
例え先生相手でも堂々としていたはずの刹那が、どこか遠慮しているようだ。
現に、水花の時にクロエに対してとっていた態度と明らかに違う。

「ただし透矢。
こちらも無理を聞く代わりに、あなたにもこちらの条件を聞いてもらうわよ」

「は、はい・・・。
どんなことを？」

「それは終わってから話すわ。
なに、透矢ならむしろ喜ぶ条件だと思うわよ」

「は、はぁ・・・」

クロエの言葉にただ頷くだけの透矢。
今は語らないその条件とは一体、なんなのか。
自分なら喜ぶその条件とはーー？

「それでいいな、刹那」

「・・・はい、分かりました」

「よし。
ならば双方、配置につきなさい。
生徒たちも待ちくたびれているわ。
そろそろ始めよう」

クロエに言われて刹那がまず配置につき、透矢もそれに合わせるように己が位置に立つ。
だがクロエの『変わり方』が透矢には気になって仕方がなかった。

「では・・・デュエル、スタンバイ！」

更にそう声が掛かり刹那と透矢は構える。
開始前に少し曲折はあったが、とにかく決戦の時が来る。
透矢は頭を何とか切り替えて、それに臨もうとしていた。

「よし・・・デュエル、スタート！」

『ーーデュエル！』

透矢と刹那。
生徒大戦最終戦。
いよいよ始まる頂上決戦に観客席では、大きく声が湧いたーー。