３ｒｄデュエル 秀才・地影の堅牢デッキ⑤　作：はにわ

　
「俺のターン、ドローだ！」

透矢の３ターン目。
そのドローカードを見た透矢は思わず小さく笑う。

引いたカードは『増援』。
レベル４以下の戦士族モンスターをデッキからサーチするカードであり、戦士デッキには必須とも言えるカードである。

とりあえずこのカードを発動して、何をサーチするかーーそんなことを考えていた矢先である。

「ーーカウンター罠、発動！」

「うえ？！まだ何もしてな・・・っ」

「『強烈なはたき落とし』！」

地影は見逃さなかった。
透矢の表情の変化をーー。
いいカードをドローした、そう確信した地影は反射的に動いたのである。

「ドローカードを墓地へ送って下さい」

「くぅ～、勘がいいな、朝霧。
ドローしたカードは『増援』だ」

『強烈なはたき落とし』は相手がデッキからカードを手札に加えた際に発動でき、そのカードをそのまま捨てさせるカード。
主に相手がキーカードをサーチした際に使うのが基本だが、ドローに対しても発動できる。

地影は無念そうに『増援』を墓地に送った透矢を見て、小さく笑う。

「くす・・・表情に出ていましたからね、いいカードをドローしたのだろう、とすぐ分かりました」

「げっ！
俺、そんな顔に出てたか？！
ぬぐぐ・・・さすが抜け目ないな、朝霧ーっ」

地影に言われて、慌てて顔を揉みほぐす透矢。
そのうろたえかたに、地影はまた小さく笑う。

「ーーもうひとつ。
遊戦名くん、私のデッキを把握してませんね？」

「えっ？！ど、どうして・・・」

「私の出すカード１つ１つに過敏に反応してますし、それに『守護者の石板』に対して何の躊躇もなく攻撃してきましたからーーね」

『守護者の石板』の復活能力を把握しているなら、さっきのバトルフェイズでは少なくとも攻撃するか否か、考えそうなものだ、と指摘する。
すると透矢はまた慌てるように釈明を始める。
地影が折角送ってくれたデッキ構成のメールを見なかった理由について、である。
あくまで新鮮な気持ちでデュエルしたかったからで、地影の配慮を無視した訳ではないと。

すると地影はまた可笑しそうに笑う。

「ーーいいんですよ、遊戦名くん。
あのメールは私が勝手に送っただけですから。
読むも読まないも、あなたの自由です」

「いや、悪いな・・・せっかく送ってくれたのに。
ま、終わったらゆっくり研究させてもらうぜ、朝霧のデッキをーー！」

透矢が言い掛けた時、地影の表情が不意に元の真顔に戻る。
眼鏡の位置を直し、光の反射の加減でその奥にある瞳が見えにくくなった。

「・・・いいんですよ、そんなことしなくて。
私のデッキは・・・つまらないデッキですから」

「つまらない？
お前のデッキがか？
そんなことないとおもうけど・・・」

「失礼、無駄話が過ぎました。
透矢くんのターンを続けてください」

「お、おう・・・」

鋭い刃物で切ったかのような、会話の打ち切り。
透矢も釈然としないものがあったが、地影に言う通りターンを続けることにする。

「お、俺は手札から『蒼き槍迅』を召喚！」

透矢の手札は現状、３枚。
その中にある蒼き槍迅を召喚する。
蒼き槍迅、３枚目がフィールドに召喚されたわけだが、その３人目は他の２人に比べて妙に色気が強い。
槍に抱きつくようにして艶かしいポーズを取りながら、挑発するような視線を送られた透矢は、困ったように笑う。

「こ、これで場には蒼き槍迅が三人揃った！
行くぜ、Ｔ・Ｆ召喚だ！」

（来ますかーー）

フィールドに同名モンスターを３枚揃える。
それがＴ・Ｆ召喚をするための条件。
透矢の掛け声により、３人の戦士は天へと昇る青き光に包まれた。

地影もそうされるのは分かっていたか、特に驚いたりはしない。

「トライ・フォース・ユニオン、フォーメーション・フィーア！」

三本の光の柱が中央で重なり、そこから一条の光が放たれる。

「緩やかに、そして力強く波打つ青き水のせせらぎ！
その永久に絶えることない心を切っ先に変え、今こそ目覚めろ！」

光の中から泡沫が吹き出し、それに迎えられるようにして現れる真の姿ーー。

「Ｔ・Ｆ召喚！
『蒼迅麗華（そうじんれいか） リューゼリッド』！」

身長２つ分にもなる三又の槍を振りかざしながら現れた『リューゼリッド』。
前回の凌斗戦のフィニッシャーとなった彼女が、マスターのため今日もまたその切っ先を振るわんと、鋭く標的を見据える。

攻撃力は１９００ーー。
だがリューゼリッドの力はこんなものではない。

「リューゼリッドの攻撃力は、相手の攻撃力が一番高いモンスターの半分の数値分、アップだ！」

「私の場で最も攻撃力の高いモンスターは攻撃力２１００の『守護者の石板』ですね」

「つまり１０５０アップだな！」

リューゼリッドの第一の効果により、その攻撃力は一気に２９５０となる。
これで地影のモンスターの攻撃力を大きく上回ることとなった。

「そしてリューゼリッドの二つ目の効果を発動！
墓地の『蒼き槍迅』１枚をデッキに戻すことで、相手モンスター１体を守備表示に変更！
更にリューゼリッドは貫通効果を得るぜ！」

（やはり使いましたね、その効果をーー）

前回は凌斗の次元竜の弱点を衝いたその能力。
今回もその能力が使われ、『守護者の石板』の１体を守備表示にする。

攻守が入れ替わった『守護者の石板』の守備力は５００しかない。
これで貫通能力を得たリューゼリッドで攻撃すれば、大打撃となる。

「バトルフェイズ、リューゼリッドで守備表示にした守護者の石板を攻撃！」

透矢の攻撃宣言を受けて、リューゼリッドは高く飛び上がった。
槍を溜めるように後ろに構えて、投擲する構え。
地影は迫り来る攻撃を真っ直ぐ見て捉える。

「ーー抜かりなく！
罠カード、発動！
『反転世界（リバーサル・ワールド）』！」

「なに・・・！？」

「このカードにより、フィールド上の全ての効果モンスターは攻撃力と守備力を入れ換えます！」

地影はこの場面にうってつけのカードを用意していた。
正に透矢の戦術を読みきったかのような動き。

罠カード『反転世界』によって、地影のモンスターの攻守は再び逆転、攻撃力が５００、守備力が２１００に。
そしてリューゼリッドまでがその効果を受けて、攻撃力が５００、守備力が２９５０となる。

「し、しまった・・・もう、攻撃は止まらない！」

既に透矢は自ら守備表示にした守護者の石板に攻撃を宣言してしまっている。
よって攻撃力５００で守備力２１００を攻撃することになり、モンスターを破壊できないのはもちろん、むしろ透矢が大打撃を受けることとなる。

「く・・・、え、永続罠カード発動！
『トライ・フォース・サポート』！
その１つ目の効果を使い、リューゼリッドの攻撃力を８００アップ！」

大いに慌てながら透矢も動く。
伏せておいたカードを発動させてリューゼリッドに力を与える。
それによりリューゼリッドの攻撃力は１３００になった。

「ーーですが！
まだ守護者の石板の守備力が上です！」

そう、攻撃力を上げたもののまだ及ばない。
リューゼリッドはもはや止まらぬ身体に身を任せるように、槍を投擲。
しかし力を失ったその槍は守護者の石板に跳ね返され、跳ね返った切っ先は透矢へと還る。

逆に身体を貫かれた透矢は耐えるように目を閉じる。

「く、逆にダメージを受けちまったか・・・」

守護者の石板の守備力２１００、リューゼリッドの攻撃力は１３００。
その差８００が透矢への反射ダメージとなり、透矢のライフは２６００に落ち込む。

「ちっ・・・うまいことやられたぜ。
さすがに簡単には通してくれないな、朝霧！」

透矢が悔しそうにしながらも、笑みを浮かべる。

（いいえ、紙一重でした。
さっきのターンでこの反転世界を引けていなければ、大打撃を受けていたのは私ですーー）

地影は読み通りに事が運んだとはいえ、内心自らの引き運に助けられた、と感じていた。
Ｔ・Ｆモンスターには除去耐性が備わっているため、除去罠カードでは対処できない。

（遊戦名くんも、本来は攻め手に使うはずだったであろうあの永続罠カードを咄嗟に使い、ダメージを最小限にした・・・。
簡単にはやらせてくれないのは、あなたもですよ・・・）

地影は透矢に感心していた。
前のターンに透矢が伏せたカードはやはり次の攻めを見据えたカードだった。
地影はそれすらも読んでいたが、いくら読めたとしても、対処が出来なくては意味がない。

正に地影が『反転世界』を引けていたのは、紙一重の差だったのであるーー。

「俺はカードを１枚、セットしてターンエンドだ！」

残り少ない手札の内１枚を魔法・罠カードゾーンにセットしてターンを終わらせた透矢。
リューゼリッドの攻撃力も５００に戻った。

透矢のエース・カード、Ｔ・Ｆモンスターの進撃すら食い止めた地影。
その時、彼女の中では徐々に何かが高鳴るのを感じていたのであったーー。