２ｎｄデュエル流石再び！次元竜の侵攻！④　作：はにわ

　
ーーかくして本日の実技試験、最後のデュエルが始まろうとしていた。
何故、このデュエルが特別なデュエルリングを使ってのものなのか、それは誰も知る由はない。
だが既に終わった生徒たちが続々と観客席に集まりつつあり、体育館は一際高い盛り上がりを見せていた。

ブルー期待の新星である、流石凌斗。
対するはレッド、一ヶ月前に転入してきたばかりの遊戦名透矢。
学年は透矢が上だが、クラスは凌斗が二階級上。
すなわち総じて格下扱いになる透矢が、果たして凌斗にいかな戦術で挑むのか。
そこが注目の一つである。

（神楽坂会長が見ている・・・前のような醜態は見せられん！）

凌斗は既に観客の中に紛れる刹那の姿を見つけていた。

（こいつを完膚なきまでに叩き潰し、俺の力を会長に認めてもらうんだ！）

凌斗にとってこの戦いは、前に敗北した雪辱を晴らすためだけにあらず。
会長・刹那に自分の実力を示し、認めてもらうこと。
そのためにこのデュエルを自ら会長に申し込み、首を賭けているーー。
それを知るのは生徒会と凌斗本人のみである。

「おーい、どうしたんだよ、流石！
お前の先攻だぜ！
お前の本気のデッキ、早く見せてくれよ！」

（ちっ・・・、こいつ、前に勝ったからって調子に乗りやがって）

透矢からすれば、待たされた分、早くデュエルが楽しみたい一心だったかもしれない。
しかし凌斗からすれば、先の勝者故の余裕、と感じてしまうようだ。

そんな勘違いから、凌斗の内に燃える闘争心はさらに激しさを増していく。

「よし、俺の先攻だ！
まず俺は手札からモンスターを攻撃表示で召喚！
出でよ、『次元竜（アサルト・ドラグーン） レギア』！」

そしてついに始まったデュエル。
既にドローしていた５枚の手札から選び出されたモンスターは、「次元竜 レギア」。
モンスター・ゾーンに攻撃表示で置かれ、すぐにそのモンスターが彼の目の前に姿を現す。

現れたのは黒いシルエットで象られたモンスター。
次元『竜』の名が示すように、よく見ると竜のシルエット、いや影と言い換えてもいいか。
しかしシルエットとは言っても、奥行きのある立体的なそれだ。

「『次元竜』・・・？
真っ黒いモンスターなんて珍しいな」

黒いシルエットに二つの赤い瞳だけが光り、見ようによっては不気味とも言えるモンスター。
そのステータスはレベルが３で攻撃力は１２００。
下級モンスターとはいえ攻撃力は低いと言え、攻撃表示で出すのは少し大胆である。

「俺は更にカードを２枚、場にセットし、ターンエンドだ！」

やはりと言うべきか、魔法・罠カードゾーンにリバース・カード。それも２枚。
そこでターンエンドが宣言されて、透矢へとターンは移された。



「ーーいかにも攻撃を誘ってる、って感じね」

ーー観客席。
回りに観客が増えていく中、やはり会長・刹那の周りには近寄りがたいのか、その周りの席は意図的に空けられていた。
そんな中で真希がふと呟く。

「リバース・カードが２枚もあるんじゃ、なかなか踏み込みにくいかな・・・。
ま、魔法・罠破壊カードでもあれば別だけどさ」

真希が更に続ける。

攻撃力の低いモンスターを立たせ、攻撃を誘い、罠で迎撃するというのはポピュラーな戦術の一つだ。

「ーーでも、真希。
罠カードとちらつかせて、実は次のターンの戦術の布石、という考え方もあるわよ。
透矢くんが得意としている戦いかたね」

「そうそう、だからその判断が難しいーーって、刹那。
ずいぶん詳しいじゃない。
透矢のデュエル、結構見てんの？」

「まぁね・・・ふふ」

「ふぅーん・・・」

刹那の何かを含んだような笑いを見て、妙に気になる様子の真希。
自分の幼馴染みが会長・刹那に注目されている？ということは、やはり気になるところか。

「ーーにしても、あの流石って奴、強いって噂は聞いてるけど、
妙な取り巻き一緒にこさえちゃってさ、なんか嫌な感じなのよね。
・・・千鶴ちゃん、もういじめられてない？」

「う、うん・・・最近は大丈夫・・・」

「なんかあったら、あたしか透矢に言うのよ？
あんな奴、あたしがボコボコにしてやるからね」

「うん、ありがとう、お姉ちゃん」

真希の心強い言葉が、千鶴を笑顔にする。
透矢が転入してきた時がそうだったように、千鶴と凌斗の間には確執があった。
故に千鶴を大事にしている真希には、凌斗は到底好きになれるような相手ではないようだ。

「えっと・・・千鶴さん、でいいかしら？」

「あ、ひゃ、ひゃい！
な、なな鳴瀬、ちちち千鶴です！」

不意に刹那に話しかけられ、飛び上がる千鶴。
無理もない。
千鶴の中の認識では、刹那は雲の上の人間、もっと言えば神様のような存在だからだ。

「困ったことがあったら、私にも遠慮なく相談なさい。
生徒の助けをするのが、私たち生徒会の仕事だから」

「そ、そそそんな、わ、私なんかのために、お、おお忙しい会長のて、手を、わわ煩わせるわけにはーー」

「落ち着いて、千鶴ちゃん。
ーー大丈夫よ、刹那。
千鶴ちゃんはあたしが絶対に護るから」

ただでさえ普段どもりがちな千鶴が、もはや言葉を話すことすら困難になっている。
そんな千鶴の肩を支えながら、真希は刹那に言った。
その時の真希の瞳は、まるで刹那を睨み据えるかのような、強い眼差しであった。

「ふふ・・・そう」

何故真希が異様な雰囲気で刹那の好意を遮ったか、それは刹那だけが知るかのように、小さく笑って見せた。
すると刹那は再び、デュエルの方へ視線を戻す。

（さて・・・透矢くん。
気を付けなさい。
真に警戒すべきは『次元竜』の特殊能力。
流石くんの本気に、あなたはどう応えるかしら？）

凌斗の本気のデッキ。
そしてそこから繰り出されるだろう戦略を、既に刹那は見通していた。

それに対し透矢がどう戦い、そして自分を『愉しませて』くれるのか。
彼女の瞳は透矢、ただ一点のみを捉え続けていた。