ＶＳ神楽坂刹那 地影の場合③　作：はにわ

　
ーークイズイベント。
解答席に解答者が出揃い、その紹介が終わると、
司会がコスプレをした別の女性進行役に説明を引き継ぐ。

クイズは３０問。
初級、中級、上級各１０問に分かれ、初級問題が１問１点、中級が２点、上級が３点となる。
早押しで正解すれば難易度に応じた点数が入り、最終的にポイントの高い者が優勝、というシンプルなものだ。

問題は司会が読み上げるのと同時に、設置された解答席の液晶画面及び、観客用に解答席背後の巨大なモニターに表示されるようだ。

最後に豪華賞品の紹介。
このテーマパークの無料招待券と同時に、来月この施設の屋上を特別に開放してのナイト・ミュージカルの特別ペア招待券。
予約販売僅か３００枚、一瞬にして売り切れたという価値あるチケットである。
ペア招待ということもあり、彼氏彼女を誘ってロマンチックな一夜を、と女性進行役は締めくくった。

（ペア招待券・・・ですか。
私が手に入れてもーー）

怪しい人物・『シャドー・ミスト』の中の人、地影は少し考える。
あいにく良い人がいない地影には貰っても困る賞品ではある。

しかしーー。

地影はふと会場にいる『彼』を探して、そして見つけた。
水花を肩車する透矢。
それがちょうど目印になった。

（連れていくとするならーー）

と、そこまで考えて地影は頭を振る。
何を考えているのか、と。
自分と透矢はそんな関係ではない、と。

ーーしかし。

もしかしたらそれをきっかけに更に良好な関係を築けるかもしれないーー。
知られざる彼女の気持ちが、思考回路を乱す。

（な、何をバカな・・・千歳さんを裏切るような事、出来るわけがーー）

真希は裏切れない。

ならば、もし優勝したらペア招待券とやらは真希にあげるのか。
それも・・・どうなのか。

地影は考えれば考えるほどに、頭がこんがらがるのだった。

「あの・・・『シャドー・ミスト』さん？」

「ふえ？は、はい？！」

そんな中で不意に刹那に声を掛けられた地影。
思わず声が裏返る。

「今日はよろしく。
お互い、頑張りましょうね」

「は、はい・・・よ、よろしくお願い、します・・・」

地影は戸惑ったが、気さくな刹那が挨拶してくれただけ、と思い直し、平常心を取り戻そうとする。
しかし次の言葉がそんな彼女の精神を再び崩壊させる。

「ところでーーあなたの声、私の知り合いの声とよく似ているんだけどーー」

ーーぎくっ！

地影の心拍が跳ね上がる。

「くすくす・・・今日は、誰かと一緒に？」

「え、あ・・・まぁ・・・」

「そう。
その格好で？」

「で、ですから火事が原因でーー」

「そうだったわね。
それにしてはあまり隠せていないようだけど？
・・・『色々』、とね」

地影はただ顔を隠すように反らすだけ。
そして地影は分かってしまった。
もう刹那には自分の正体が割れているということに。

しかしこんな変装したからには、今さら正体を明かすわけにもいかない。
これなら最初から偶然を装って、地影のままで参加すれば良かった、と後悔するが後の祭り。

地影の耳に、刹那の悪戯な笑いが痛みと共に響くのだった。


「ーーよぉし、では早速第１問行くぜぇ！」

いよいよ始まるクイズ大会。
最初の司会がマイクで声を大きく響かせながら問題を読み上げ始める。

「『Ｆ・G・D（ファイブ・ゴッド・ドラゴン）』を融合召喚したい場合、素材に使えないモンスターを選択肢の中から全部選んでくれぃっ！」

第１問。
カードに関する問題だ。
選択肢は以下の通り。
①竜魂の石像
②魔頭を持つ邪竜
③竜騎士ガイア
④屍を貪る竜
⑤サンダー・ドラゴン
⑥フェアリー・ドラゴン

「やべ、初級からわかんねぇや・・・」

戦士族デッキを使う透矢にドラゴン族は専門外。
しかもかなり古く、使用頻度の低いカードが選択肢にあるため、
カード全てを網羅しているような人物でなければ分からない。
透矢に限らず、観客のほとんどが自信を持てないようだった。

ーーそんな中、問題が出されてから一分足らず。
解答に名乗りを上げた人物がいた。

「来たァ！
『シャドー・ミスト』選手ぅ！
答えは何だ！
番号で答えてくれぇい！」

「ーー①、④、⑤！」

「ーー正解だぁ！
さすがに早いぞぉ！
予選クイズ、トップランカーの実力はただ者じゃねぇぜ！」

素早い答えに、観客席から拍手喝采が湧く。
中の人、地影も滑り出しは上々、と心の中でガッツポーズ。

ーーそれからも出題されるわけ初級、とは名ばかりの知識の広さを試される問題。
２問目から９問目までを連取し、地影は早くも９ポイントを稼いだ。
解答速度も早く、鋭く。
他の者たちの追随を許さない。

「ーーあ、あいつやるなぁ・・・会長さん、大丈夫か？」

透矢が刹那に視線を送る。
刹那は未だ０ポイント。
にも関わらず、表情に変化はなく、済ました佇まいだ。

「さぁ、初級問題最後のクイズだぁ！
他の３人も頑張ってくれよぉ？
んじゃ行くぜぇ！」

最終問題。

融合モンスター、『ダーク・ガイア』で、以下の融合素材の組み合わせの内、最も攻撃力の高い組み合わせと、低い組み合わせを選び、またその攻撃力をそれぞれ答えよ。

①『絶対服従魔人』＋『ウォー・アース』
②『深淵の冥王』＋『地球巨人 ガイア・プレート』
③『守護者スフィンクス』＋『軍神 ガープ』
④『邪神ドレッド・ルート』＋『ムカムカ』

またこれも早押しにしては難問。
攻撃力も答えなくてはならないため、前提として全てのモンスターの攻撃力を把握していなければ解けない。

しかしながら地影の頭は選択肢が表示されてからすぐにフル回転。
記憶の引き出しからモンスターのパラメーターが引き出され、そして組み合わせのモンスターの攻撃力の合計を高速演算。
１分以内に解答可能なはずだった。

ーーが。

選択肢が表示されるのとほぼ同時に解答ボタンを押したのはーー刹那。
地影が思わず目を見開く。

「おぉっとこれは早い！
しかも押したのはあのシャドー・ミスト選手ではなく、某アカデミアの生徒会長を務める女史、神楽坂刹那選手だぁ！
ーーで、答えは？」

「一番高いのが④の攻撃力４６００。
一番低いのが③の攻撃力３９００よ」

「せ、せぇぇえかぁい！
正解だ！
こいつは驚きだ！
まさに高速！
新たな高速プレイヤーの誕生か？！」

あまりの早さに観客席は一瞬静まり返ったが、すぐに称賛の嵐に包まれる。
『会長』の掛け声が所々で響き渡り、それが刹那を知らない者たちにまで波及した。

本人は笑顔で手を振って観客に応え、その自然な振るまいが更なる歓声を呼んだ。

（そ、そんな・・・今の問題を一瞬でーー？）

地影は驚きを隠せない。
確かに刹那ならば答えられてもおかしくない問題。
だがそれにしても一瞬とはーー。
例え分かったとしても、簡単とはいえ計算を要する問題に、検算に時間を費やしてもいいはずだ。

（こ、これが刹那さんのーー）

ポイントは９対１。
圧倒的に地影有利。
だが今のを見せられては、最早簡単に勝てる勝負ではないと地影は悟る。

地影は気を引き締めると共に、改めて最高の強敵と競える事に深い楽しみを感じていたのだった。