千鶴の決意③　作：はにわ

　
ーーデュエル場。
脇では同じく試験に励む者がいる中、ただ１つ向き合ったまま動かないところかある。

ーー真希と千鶴。

普段は会えば笑顔を向け合い、実の姉妹以上に仲が良い二人。
その二人が今、いつもと違う面持ちで互いを見合っている。

真希は驚き、戸惑う表情。
千鶴はある強い思いに駆られたかのような、鋭い眼差しを真希に向けている。

「あ、あはは・・・あれ、あたし、千鶴ちゃんとだっけ？」

「・・・」

「ち、千鶴ちゃん・・・」

おどけて見せる真希だが、睨むような千鶴の視線に気圧される。

「ーー会長さんに頼んだの。
お姉ちゃんとデュエル出来るように」

「せ、刹那に？」

千鶴が頷く。

「な、なんでわざわざそんなことーー」

「お姉ちゃんとデュエルしたかったから」

「そ、そんなのいつでも出来るじゃない」

「本気で、だよ。お姉ちゃん」

「ほ、本気でーー？」

千鶴がまた頷く。
千鶴の中にある決意。
これまで長い間千鶴を見てきた、真希ですらそれを測れずにいた。

「お姉ちゃん。
今日、デッキは？」

「え？」

「何デッキなの？」

「な、何って、『ライトロード』だけどーー」

「・・・それって、本当にお姉ちゃんの『本気』のデッキ？」

「ど、どういう、こと？
わ、わけわかんないよ、千鶴ちゃん」

「私は、本気でデュエルしてほしいって言ってるの。
・・・お姉ちゃんは私にも嘘をつくの？」

「う、嘘、って・・・」

段々と厳しさを増す千鶴の口調。
悪く言えばドスの効いた声。
真希はいよいよ千鶴を正視出来なくなる。

「お姉ちゃん、私が入学してから急に『ライトロード』使いだしたよね？
ずっと気になってたんだけど、どうして？」

「あ、あはは！
い、嫌だなぁ、千鶴ちゃん！
前にも言ったじゃん。
今の流行に合わせてーー」

「それ本当に？
デュエリストとして、誓って言える？」

「デュ、デュエリストとして・・・？」

「そうだよ」

「ち、千鶴ちゃん・・・ど、どうしてそんな事聞くの・・・」

「ーー質問に答えてよっ！！」

千鶴が吠えた。
脇でデュエルしてる者の注目を引く。
あの千鶴が。
気弱で大声なんて滅多に出さない千鶴が。

真希は己に向かって放たれたその一喝に打ちのめされた。

すると千鶴は一度深呼吸をして荒ぶる気持ちを落ち着かせると、今度は憂いの眼差しを向けた。

「いつも真希お姉ちゃんを見てきたんだもん・・・。
お姉ちゃんのデュエル見てれば、やりにくそうにしてることぐらい分かるよ」

「・・・」

「今まで気にしないようにしてきたけど・・・。
でもようやく『確信』できた。」

「な、何よ、か、確信って・・・」

「まさか、って思ってた。
でも、やっぱりそうだったんだ。
私、今までお姉ちゃんにずっと『護られてきた』んだよね」

「ち、千鶴ちゃん・・・」

「私が弱いからーー。
お姉ちゃんとずっと一緒にいたいなんて、わがまま言ったからーー」

千鶴が泣きそうな表情を一瞬伺わせたあと、顔を下に伏せてしまう。

ーーこの時、ようやく真希も何かを察したのだろうか。
どこか諦めたような、落胆に満ちた表情で視線を泳がせた。

「だから！
私、もうお姉ちゃんに護ってもらうだけの自分を卒業したいの！
お姉ちゃんに迷惑かけなくても、一人で、出来るようにーー！」

「・・・」

「それを証明して見せる！
だから、お姉ちゃん！
『本気で』デュエルして！
私だって成長したんだってところ、見せて上げるからーーっ！」

千鶴が思いの丈を真希にぶつけた。
どうして今、千鶴がそのような思いに至ったのか。
それは本人、そして真希だけが知ることなのだろう。

しかし真希は千鶴のその言葉には応えず、黙って天に向けて手を伸ばした。

ーーそれは近くでデュエルを見守る教師を呼ぶ合図。
デュエルの進行においてしばしば生じる様々な問題が起きた際に、生徒はこうして手を上げて教師を呼び、その指示を仰ぐ。

真希の挙手に気付いた一人の男性教諭が直ぐ様、傍に駆け寄った。

「ーーごめんなさい。
千歳真希、今日のデュエル試験を棄権します」

「ーーお姉ちゃんっ？！」

まさかの真希のデュエル放棄宣言。

教諭にその理由を尋ねられれば、体調が悪いから、と嘯く。
しかし見た目にはたしかに真希の何かに愕然としたような表情は、気分が悪そうにも見える。

結果、棄権は認められた。
この場合、真希は後日追試。
千鶴は勝利扱いとなり、この後、ハンディを付けた教諭とのデュエルを行うことになる。

「ーーお姉ちゃん！
どうして！？
なんで、デュエルしてくれないの？！」

「・・・ごめん、ね」

「お姉・・・ちゃん！」

青ざめた表情を伏せて、立ち去る真希。
自然と溢れた涙を手で覆いながら、膝を付いた千鶴。

直後に異変に気がついていた透矢が駆けつけたが、
真希は何処かへ姿を消しており、千鶴は昨日と同じく何も語ることはなかった。