一対一の戦い　作：はにわ

ーー透矢が勢いのままに家を飛び出して、数分も経たない距離。
住宅街から少し離れた位置、小さな一軒家ほどの敷地でしかない、こじんまりとした公園がそこにあった。

ーーこっちに戻ってきて一ヶ月半。
透矢はまだ１度も訪れてはいないが、子供の頃に遊んだ頃のままの公園がそこにあり、感慨深いものを感じた透矢。

さすがにもう夜になろうというこの時刻、誰もいないもの寂しい公園の姿であるが、
中に踏みいると、夜の闇に紛れた巨体の姿を透矢の目が捉える。

「・・・来たか」

「ああ、来てやったぜ」

時期に完全に沈むだろう日、益々暗くなる公園において、四隅に配置された街灯だけが頼りである。
その街灯が当たる位置に踏み出たのは、黒マントに仮面を付けた大柄の人間。
見忘れるはずもない、デュエル・キラーである。

「こんな時間に、こんなところまで乗り込んでくるなんてな。
どういう風の吹き回しだ？」

「ふん・・・お前の手間を省いてやったんだ。
有り難く思うんだな」

「へ、そりゃどーも」

透矢も街灯の当たる位置、そしてデュエル・キラーと向かい合う位置に移動する。
後はデュエル・ディスクを互いに開けば、すぐにでもデュエルが始まるのだろう。

「・・・少しは対策してきたのか？」

「対策？」

「先輩がせっかくああいう機会を作ってくれたんだ。
今回は楽しませてくれるんだろうな」

「へへ・・・、対策なんてしてねぇよ」

「何？」

「だってそんなのフェアじゃないだろ。
相手のデッキを知って、それに合わせて対策して勝っても、嬉しくないし」

「・・・なるほどな、デュエリストとしての意地、というわけか」

「まぁな。
俺は俺らしく戦うだけさ！
ま、ちょっとは強化されたと思うけどな？」

「ふ・・・面白い。
期待を裏切ってくれるなよ」

「ああ！
今度は俺が勝つ！」

言葉を交わしたあと、いよいよデュエル・ディスクを構え合い、
カード・ゾーンが開かれる。
そしてデッキをセットし、準備は完了。
残るは開始の合図を告げるのみ。
二人きり、一対一のデュエルがスタートする。

「・・・なぁ、１つ聞いて良いか？」

「なんだ」

「あんたって、生徒会の風紀委員なんだよな？」

「そうだ」

「ってことは普段はアカデミアの生徒として過ごしてるんだよな？」

「ああ。
お前も知ってるだろう。
普段は他の生徒に紛れて、アカデミアの風紀を監視している。
それ故にいつも正体を隠しているのだ」

透矢は刹那から聞いたことを、デュエル・キラー本人から改めて聞き、頷く。
するとデュエルを前にそんな事を聞いてきた透矢の意図を、デュエル・キラーは見抜いた。

「そうか。やはり、俺の正体が気になるか」

「そりゃあな。
そんな仮面付けて、そんな格好している奴が同じアカデミアの生徒だって言うんだからな。
気にもなるよ」

誰しもが気になるだろう、デュエル・キラーの正体。
見抜かれた透矢は頭を掻きながら、笑みを浮かべる。

「良かろう。ならば、賭けをしないか？」

「賭け？」

「お前が俺に勝ったらーーいや、ライフが半分下回ったら、お前にだけ見せてやる。
俺の正体をな」

「ライフを半分～？
くそ、馬鹿にしてくれるじゃねぇか！」

デュエル・キラーの絶対たる自信だろうか。
透矢も怒りながらも、心では負けん気が煮えたぎり、気持ちが熱くなる。

「ーーちぇ、確かに前回、何も出来なかったのは確かだしな。
で、俺が負けたら？
ひょっとして、退学、ってか？」

「ふん・・・それが望みならばそれでもいいがーー。
何、俺の事を一切口外しなければそれでいい。
むしろ、忘れろ」

「へぇ？
あんたにしちゃ、随分甘い条件だな？」

「・・・」

透矢が勝てば正体を明かす、負ければ口を紡ぐ。
確かに釣り合いが取れた報酬なのかもしれないが、大人しい条件でもあり、透矢は意外にも感じた。

「ーー俺からも聞きたい」

「何だよ」

「お前はやはり俺という存在は不要だと思うか？」

「いや、そこまでは言わねぇよ。
確かに風紀を守る、ってのは大事なのかもしんねぇし。
ただ、やり過ぎだって思ってるだけでさ」

「許せない・・・か？」

「許す許さない、って話でもないだろ？
っていうか、何が言いたいんだよ？」

「・・・ふふ、いい。
気にするな」

「・・・？」

デュエル・キラーの要点を語らず終いの質問。
それを不思議に思ったのもそうだが、透矢は以前対峙したときと、どこか雰囲気が違うような気がしてならなかった。

「ーーさて・・・やるか」

「あ、ああっ！」

改めてデュエル・ディスクを構え直して、いよいよ始まる。
生徒会四天王・最後の一人。
風紀委員ことデュエル・キラーとの決戦。
これに勝てばいよいよ次は刹那。
逆に言えば、刹那と戦うには避けては通れない最大の壁である。

『ーーデュエル！』

日が完全に沈んだ、僅かな灯りだけが二人を照らす公園。
デュエル開始が本人たちによって宣言された。