そして、刹那の家へーー　作：はにわ

　
「んーーっ、今日は楽しかったなぁ！」

ーーテーマパークを出た時には、外はもう夜。
まとわりつくアカデミアの生徒や他の者たちを振り切った刹那と透矢は、夜道を歩いていた。
夜とはいえまだ人通りが途切れない中、刹那は上に向かって伸ばした両腕を絡ませながら、大きく伸びをした。

「ねぇ、透矢くんは楽しかった？」

「ああ」

「本当に？」

「もちろん。
せつ、なの事、少し知る事も出来たしな」

「へぇ、どんな事？」

「そりゃ、色々とな」

「色々って？」

「い、色々は色々だよ」

「なぁに、それ？
ふふ・・・っ」

満足そうに笑う刹那をゆっくりと追いながら応える。
その背中では小さな身体が安らかな寝息を立てていた。

「ごめんね、おんぶまでしてもらっちゃって」

「いいよ、疲れたんだろ」

「色んなところ行ったものね。
ふふ、可愛い」

刹那が透矢の背中にいる水花の髪を撫でる。

テーマパークを出てすぐ、水花は落ちる瞼に耐えられず、
それに気付いた透矢が背中を貸した。
朝から今まで３人で遊び尽くしたのだ。
９歳の少女である水花が疲れるのは無理もないだろう。

「ーーね、透矢くん」

「ん？」

「駅までの間・・・だけでいいからーー」

「何だよ」

「ーーえいっ！」

刹那は透矢の横にぴったりと張り付いた。
透矢の顔のすぐ側に刹那の顔が来る。

「お、おい・・・あんまり張り付くなよ」

「いいじゃない。
今日は一応、デートなんだし。
少しくらいデートっぽい、雰囲気もね」

「いや、その何つーか・・・」

「なぁに？」

今まで以上に近い距離で見つめ返してくる刹那から目を反らす透矢。
また刹那から、香わしい匂いが漂いそれが更に透矢を硬直させる。
困った透矢を知ってか知らずか、刹那は身体を擦り付けるようにして、その反応を楽しんでいた。



「ーーなぁ、真希？
もう気が済んだだろ？
後はあの二人も帰るだけさ。
あたしたちも帰ろうぜ」

「明日も学校ですし、あまり遅くなるのはお互い、困りませんか？」

ーー追跡班も変わらず機能していた。
しかし一行もさすがに疲れたのだろうか、炎魅子は豪快に口を開けてあくびをし、地影にも顔には出さないが口調に勢いがない。

しかし真希は最後まで二人を見送る腹のようだ。
千鶴はそんな真希に健気に付いていく。
炎魅子と地影もここまで来たら最後まで、という思いからか顔を見合わせながら付いていくのだった。



「ーーなぁ、刹那。
こんなこと訊いていいのか分かんないけどさ」

「あら、どんなこと？」

ようやく慣れてきたのか、刹那をそう呼べるようになってきた透矢。

「今日はどうして俺なんかを誘ってくれたんだ？」

「・・・本当に訊いちゃいけないことね。
もう、野暮よ？透矢くん」

刹那が頬を膨らませる。

「いやだってさ、刹那を少しでも知る事が出来てさ・・・何て言うか、刹那の隣にいるのは釣り合わないな、って思ったりも・・・して」

「ふぅん、それで？」

「もし、今日の事を他の奴らに見られて・・・勘違いでもされたら、刹那だって迷惑だろ？」

「どうして迷惑なの？」

立ち止まる二人。
刹那の真摯な眼差しが透矢の目を見据える。

「いや、俺なんかよりもっと刹那に相応しい奴がいるんじゃないかな・・・って」

「いないわ」

「え？」

「少なくとも今までにはいなかった。
透矢くん以外、ね」

「お、俺が・・・？」

「だって透矢くんは私のデッキを『解放』してくれた唯一の人だからーー」

透矢には刹那の言葉の意味が分からない。
いや、分かるはずもない。
これは刹那の胸の奥だけにあった気持ちである。
だが刹那の真剣な思いは透矢に伝わる。
だがそれをどう受け止めるべきが分からないようだった。

「ーーふふ、でもちょっと意外だな」

刹那が表情を崩す。

「透矢くんって、そういう事を気にするんだ」

「う・・・」

「もっと朴念仁なのかな、って思ってた」

「そ、それは偏見だぞ」

「ふふふ、ごめんなさい」

いつもの上品な笑いを見せたあと、刹那は透矢の胸板にそっと手を置いた。

「ーーねぇ、透矢くん。
今日、もう少しだけ私のために時間をくれる？」

「な、なんだ？
どこか行きたいのか？」

「カード・・・『キー・カード』、持ってきてくれた？」

「あ、ああ。
ポシェットに入ってるけど」

今日、未だに触れられておらず透矢も忘れていた事。
四天王を倒すことで手に入れた、４枚の『キー・カード』。
それを持ってこさせた理由がようやく明かされる。