１sｔデュエル トライ・フォース！②　作：はにわ

　アカデミアのキャンパスで突如、始められたデュエル。
透矢は噴水を背に、心配そうに見守る千鶴の視線を受けながら徐々に士気を高めていた。

互いのライフは４０００。
それが０になれば敗北となる。

「先攻はもらうぜ、俺様のターンからだっ！」

デッキから最初に蓄えられた５枚のカードを手に、凌斗が透矢の高めた士気を更に上回る気合いの良さを見せつけ、高らかに宣言する。

「俺は先ず、手札からこのモンスターを召喚するぜ・・・。
出でよ、『ポイズン・リザードＬV３』っ！」

凌斗が５枚の手札の中から選んだ１枚を、デュエルディスクのモンスターカードゾーンにセットすると、
デュエルディスクに内蔵された高度な技術によって実現を可能とした立体幻像、ソリッドビジョンによってそのモンスターが映し出される。

まず黄土色の泥が凌斗の前に広がったかと思うと、その中から姿を現したのはその泥にまみれた巨体の爬虫類。
据わった目付きで透矢を睨む、巨大な蛙ーー。
だが泥の隙間から見えるその赤黒い体色は見るからに毒々しい。

守備表示で出されたポイズン・リザードという名前のそのモンスターの守備力は１３００だ。

「ポイズン・リザードＬV３のモンスター効果発動！
召喚時に、相手に４００ポイントダメージを与える！」

「ーーげぇっ、いきなりダメージかよっ！？」

凌斗の宣言に合わせて、巨大な毒蛙がその大きな口から紫色の液体を、驚く透矢に向かって吐き出す。
なす統べなくそれを浴びた透矢は両手で頭を庇うようにしながら耐える。

「うぇえー、気持ち悪ぃな」

もちろん映像に過ぎないが、高度な技術故、本当に浴びてしまったかのような感覚に襲われる透矢。
これで彼のライフは４０００から３６００に減らされた。

「くっくっく・・・カードを１枚セットして、ターンエンドだ」

先攻は攻撃を行えない。
今度は魔法・罠カードゾーンに１枚のカードを裏側で置いて、彼のターンは終了した。

「よっしゃ、次は俺のターンだな。
カード、ドローっ！」

ターンが透矢に移り、５枚のカードに更に１枚を加えて手札とする。

透矢はまずざっと手札を一目すると、すぐに１枚のカードを掴んだ。

「俺はまず手札から魔法カード発動っ！『増援』！」

透矢が魔法・罠カードゾーンに表側でセットしたのは緑色のカード、すなわち魔法カード『増援』。
これはデッキからレベル４以下の戦士族モンスターを手札に加えるカードだ。

「俺はデッキから加えたこのモンスターをそのまま召喚！
来い、『三騎士（トライ・ブレイダー） 白銀の盾（はくぎんのたて）』っ！」

宣言通り、加えたモンスターを凌斗に見せるようにしたあと、それをそのままモンスターゾーンに置く。
そうして姿を現したのは白銀で出来た軽装の鎧を身に纏った、白く長い髪を持つ背の高い女性。
左の手首のガーダーには丸い形の盾を装備している。
額には金色のティアラが付けられていて、眉間の間にローマ数字の『Ⅰ』がタトゥーのようなもので刻まれている。

その白銀の戦士は、左腰に備え付けられた鞘から、身長の半分程度の細身の剣を抜いて、自身より巨体であるポイズンリザードに対して、静かだが勇猛さを感じさせる佇まいでそれを構えた。
まるでモンスターに立ち向かう女騎士の様である。

レベルは４で攻撃力は１４００。
レベル４にしては決して高いとはいえないが、それでもポイズンリザードの守備力１３００を上回っている。

「白銀の盾の効果発動っ！
こいつの召喚に成功した時、デッキから『三騎士』と名の付いたモンスターカードをデッキの一番上に置くっ！」

透矢も凌斗と同じく早速そのモンスターの効果を使用。
デッキからカード１枚を探し当てると、それを凌斗に向かって公開する。

「俺は『三騎士 轟炎の剣（ごうえんのつるぎ）』をデッキの一番上に置くぜ」

公開したカードをデッキの一番上に置く。
これで次のターンのドローで、このカードを確実に手札に加えられるわけだ。

「ほお？
お前のデッキは戦士デッキか」

「そうさっ！
やっぱ男は熱い戦士のデッキに限るってもんだろ？」

「ふん・・・」

透矢の誇るような態度に、凌斗はそれを馬鹿にするかのように、小さく笑う。

「続けてバトルに入るぜ！
白銀の盾でポイズン・リザードを攻撃っ！」

デュエルモンスターズの華と言うべきバトルフェイズ。
透矢の宣言を受けた白銀の女戦士は地を勢いよく蹴り、白い髪をなびかせながらポイズン・リザードへと一気に迫る。

「ーーブレイド・オブ・“アイン”」

透矢が女戦士の動きに合わせて技の名前のようなものを叫ぶと、同時に引き構えていた細身の剣を一気に迫る突き出す。
ポイズン・リザードを突き刺し、葬ろうと言うのか。

「ははは、甘いな！
リバース・トラップ！
『猛毒の障壁（ポイズン・リフレクター）』発動！」

「くっ、トラップかよ！？」

「俺の場の『ポイズン』モンスターが攻撃対象となった時に発動！
このターン、俺の場の『ポイズン』モンスターは戦闘では破壊されない！」

オープンした紫色のカード、すなわち凌斗の罠カードが光り、その効力を発揮する。
黄土色の地面から紫色の毒々しい大量の泥が、ポイズンリザードを包んでしまう。
それが白銀の盾の剣を阻み、その切っ先はポイズンリザードまでは届かない。
口惜しそうにしながらも女戦士は諦めたように剣を引き抜き、その場から引き上げて透矢の元へ舞い戻る。

「ははははっ！リバースカードも無警戒とは、さすがは落ちこぼれレッドだなっ！」

「くっ・・・」

高笑いする凌斗に、透矢は悔しそうに歯噛みする。
凌斗の取り巻きたちが歓声を上げる中、１人、それを冷ややかに見つめる者がいた。

（ーーふふ、たしかに伏せカードを警戒しないのは問題だけど、今の攻撃は結果的には成功ね）

キャンパスの脇の木々に身を潜める金髪の女子生徒。
始まって間もないデュエルを冷静に分析していた。

（ああいう罠カードは残しておくと厄介ですもの。むしろ罠にはまりながらも実害はないのだから、『使わせた』とも言えるわね）

罠カードの中にはモンスターを破壊するといった強力なものも存在する。
もし今の凌斗の罠カードがその系統のカードならば、透矢はせっかく召喚したモンスターを失っていたかもしれない。

（それを恐れずに踏み込んだ彼・・・。
ただの勢い任せか、それともーー）

金髪の女子生徒が小さく笑う。
透矢を見据えながら、その答えを見極めようとしていた。