光と闇 会長・刹那の混沌を操る力！⑤　作：はにわ

　
「ーー『混沌天使』。
あれが神楽坂会長が操るモンスターかーー！」

「ーーそうです。
光と闇、両方の属性を操る刹那さんのメインカード群ーー」

ーー大歓声が湧く中で。
流石が眉を寄せた険しい表情で呟くと、地影が眼鏡の位置を直しつつそれに答える。

「しかも早速『ミカエル』の登場と来たもんだ。
あいつは厄介なモンスターだよ？
倒せないと、こっちのフィールドをボロボロにしちまうからね」

「しかも・・・手札１枚の損失でーーあのモンスターを出した・・・。
透矢、ピンチ・・・かも」

炎魅子が肩をすくめながら過去の経験を語るように話すと、水花がそれに続く。
水花の言ってる事はあくまで実質手札１枚の損失、だが、刹那は手札をほとんど消費せずに強力なモンスターを特殊召喚した。

ーー『混沌天使 ミカエル』。

炎魅子ですら躊躇する強力なモンスターが早々と出現させたことで、体育館内は生徒たちの声が反響しあって、轟音にも近いものとなっている。

「ーーお、お姉ちゃん？
お、お兄ちゃん、大丈夫かなーー」

「・・・分からない」

「え・・・っ」

「あたしたち四天王ですら、あの『ミカエル』をまともに倒せた事なんてないんだから」

心配する千鶴が聞くと、真希もまた厳しい表情でそれに応えざるを得なかった。

「刹那はね、元々は高速で墓地を肥やしてから、『カオス』モンスターを始めとした強力なモンスターで相手を圧倒するデッキを使ってたわ。
それが中学１年の頃かな」

真希の語りに、炎魅子、地影が頷く。

「そして中学三年の頃。
刹那は『混沌天使』と出逢い、その瞬間から敵はいなくなったーー」

「いなく・・・なった？」

「そう。
いい勝負してたかな、って思ってたあたしですら・・・歯が立たなくなった」

「お姉ちゃんが・・・？」

刹那のデッキの変遷を語る真希の声を聞いていた千鶴と凌斗。
ただ『歯が立たなくなった』という言葉には、真希の様々な感情が込められていて、千鶴は気遣うようにその表情を見つめていた。

「ーー大事なのは、刹那さんの強さは『混沌天使』でも、シンクロ召喚でもありません」

但し書き、と言うように地影が口を挟む。

「そうそう。
本当に怖いのは刹那自身、ってね」

「刹那は・・・最強、だから・・・」

炎魅子、そして水花も続けて口を開く。
四天王が語る『刹那の恐怖』。
今は実感の涌かない千鶴と凌斗だが、これからも続くデュエルで、四天王たちが語った言葉を少しずつ理解していくのだった。



ーーデュエル・リング。
刹那のフィールドに降臨したシンクロ・モンスターにして、強大な力を持つという混沌天使ーー。

「ーー『混沌天使』・・・『ミカエル』かーー」

炎のように紅く揺らめくような髪。
白の衣に赤い甲冑で身を固めた、刹那の倍、３倍近くはありそうな巨大で、そして引き締まった女性の肢体。
背中には混沌天使の証とも言える天使の翼と、悪魔の翼が３対ずつ生えており、そこからは常に小さな白と黒の炎のような固まりが地面に向かって散りばめている。

ーー透矢をきつく鋭い視線で見下ろす『ミカエル』。

レベルは８、攻撃力は２８００。
最上級にして高い攻撃力を有するが、それは彼女の基本的な能力に過ぎない。

「ミカエルの効果発動！
ミカエルのシンクロ召喚に成功した時、除外されている混沌天使モンスターを１枚、手札に加えるーー」

「除外してるカードを・・・！」

「私は『混沌天使 サミュエル』を手札に戻すわ」

ミカエルの能力が早速発動。
開いた両の掌を、人差し指と親指だけを付け合わせ、目を閉じて祈るようにすると、
ミカエルの上空で開かれたままの『穴』から、１枚のカードが刹那の元に舞い戻る。

これにより、宣言したサミュエルを加えた刹那。
これで手札は６枚となり、実質刹那は手札は消費せずにミカエルを特殊召喚した格好になる。
この時点で刹那は大きなアドバンテージを得たのだ。

「ーーあの『穴』は一体何なんだ？」

透矢はミカエルが出てきて、未だ閉じられない『穴』を見て、警戒心を抱く。

「ーーあれはね、混沌の世界への扉よ」

「混沌の世界？」

「巨大な力を得るのを引き換えに、闇へ堕ちた混沌天使が住まう世界。
混沌天使の力の源、とも言える空間ねーー」

刹那が語ったのは混沌天使、という種族に充てられた設定、ストーリーというべきものだろうか。

穴から覗く、黒とも白ともつかない何かが波のようにうねる奥の世界。
そこにはまだ強力なモンスターが眠っているのだろうか。

「ミカエルの能力はここからよ。
ミカエルも墓地から光属性、または闇属性モンスターを除外することで、異なる効果を得るの」

「う・・・」

「私は墓地から『混沌天使 リニア』をーー闇属性モンスターとして除外！
その効果は相手フィールド上のカードを１枚除外！」

刹那の宣言により、ミカエルの素材となったリニアが、墓地から上空の扉の中へと吸い込まれる。
すると同時に身体の周りに赤い光を纏ったミカエル。
右手に持つ、持ち手の上下に氷柱のように伸びた武器を天に向けて掲げると、その赤い光が上空に集まり、何かの姿を象り始める。

「標的はーー『白銀の盾』よ！」

標的を定めた刹那。

するとミカエルの上空に集まっていた赤い光もその形を定めた。
燃え盛るような炎のような翼を持つ鋭い嘴を持った鳥の姿ーー。

「・・・『不死鳥（フェニックス）』？！」

思わずそう口走る透矢。
炎を身に纏い、古から決してそれが消えることのないように、その命もまた絶えることのない伝説の不死鳥。
ミカエルが作り出したのは正にその姿そのものだった。

「ーー『混沌の滅炎（ゴッド・ワーズ）』」

刹那の呟きに合わせ、ミカエルが手に持つ武器を振りかざすと、
上空の『不死鳥』が翼を羽ばたかせて、透矢のフィールドに滑空する。
標的は白銀の盾。
その効果は問答無用の除外であり、防ぐ術は少ない。

「ーーリバース・カード、オープン！
『戦略的撤退』、発動！」

襲い来る不死鳥の瀬戸際、透矢は伏せカードを発動させた。

「自分フィールド上のモンスターが攻撃、または効果の対象になった時に発動できる！
対象のモンスターを手札に戻し、デッキからカードを１枚ドローする！」

罠カード、『戦略的撤退』の効果が発動。
不死鳥が白銀の盾を飲み込む寸前で、白銀の盾は透矢の手札に回帰する。
標的を失ったものの、不死鳥はそのまま地面へと激突し、周りに肌を焼くような熱さを持った炎を飛び散らせた。

「ふぅ・・・。
戦略的撤退の効果で、カードを１枚引くぜ」

「さすが、透矢くん。
モンスターを守っただけでなく、白銀の盾でサーチしておいた『女帝』も味よく手札に加えたわね」

透矢もこの展開は予想していたか。
リバース・カードで白銀の盾を守り、更にドローによって、デッキトップに置いておいた女帝を手札に加えた。
これで透矢は次のターン、ドローフェイズで新しいカードをドロー出来、動きがスムーズになる。

「ーーでも、ミカエルの力はまだあってよ？
私は今度は墓地の『ステルヴィア』を、光属性モンスターとして除外！」

「ーーまたか！」

「ミカエルの攻撃力に、ステルヴィアの攻撃力１７００ポイントを加えるーー」

「攻撃力アップ・・・だと！」

再び『扉』の中に吸い込まれた『ステルヴィア』。
ミカエルは手に持った武器を縦に向けたまま前に突き出すと、唸るような声を発する。
それに乗じて再び赤い光を纏ったミカエルは自らの攻撃力を高め、
自身の攻撃力を２８００から４５００へと上げる。

「攻撃力４５００・・・っ！」

「ふふ・・・。
これで攻撃が通ったら・・・どうなるのかしら？」

あの四天王が操る四龍モンスターの攻撃力をあっさり凌駕したミカエル。
同時にその数値は透矢のライフをも上回る。
この攻撃力が直撃すればーー待ち受ける結果は言うまでもない。

「ではバトルフェイズ。
ミカエルで、透矢くんにダイレクトアタックしようかしら」

横髪を優雅に靡かせながら、下された攻撃宣言。
ミカエルが黒白の相反する翼を羽ばたかせて、上空に舞い上がると、手に持つ武器を振り上げて構える。
恐らく投擲するつもりだ。

「ミカエル、攻撃！
『裁きの神炎槍（レヴァン・ディム・エメトゥーラ）』！」

ミカエルが自らの武器・『レヴァンテイン』を透矢に向かって放る。
空気抵抗に逆らいながら見る見るそのスピードを早め、更に通過した空間を燃やす。
やがて周囲の炎を巻き込みながら、巨大な火球と化したレヴァンテインが透矢を貫かんと、その眼前に差し迫った。

攻撃が通れば終わり。
透矢に対抗策はあるのかーー。