天才少女・水花の極寒デュエル！⑨　作：はにわ

　
ーー水花の異変から、何事もなかったかのように続行されるデュエル。
透矢は気持ちを切り替えて、自分のターンにカードをドローしたものの、やはり水花の事が気にかかるのか集中力は今までと比べて若干低下しているようである。

「・・・スタンバイフェイズ！
『守護の鎧』の効果を発動！
前のターンに召喚に成功してるから、このタイミングでデッキから『守護の鎧』を１枚手札に加える！」

「・・・（こくり）」

それでも『守護の鎧』の効果を忘れずに発動、宣言しながらデッキから手札にそのカードを加えると、
水花も了解、というように１つ頷く。

ーー水花は『戻っている』。
ならば、自分も最低限、集中しなければ少女の戦略に付いていけない。

透矢は余計な思考を振り払いながら、４枚となった手札を見る。

（・・・駄目か。
今の手札じゃ『ゼロ・プリズナー』どころか、あの『凍土の狼（ブリザード・ファング）』すら倒せない！）

透矢は手札のカードで攻略法を見いだそうとするも、現状は無理と察して、思わず唇を噛む。
ライフは残り１７００。
このターンで何とか水花の布陣を崩さなければ、恐らく透矢の次のターンはない。

一番厄介なのはやはりゼロ・プリズナー。
倒そうにも、透矢のターンには除外ゾーンに身を隠し、相手ターン中は罠が効かないため、罠による迎撃も不可能。
強いモンスターを壁にしたところで、除去耐性が無ければ、ゼロ・プリズナーの効果の餌食である。

こうして改めて攻略を考えようとすると、いかにゼロ・プリズナーを倒すのが困難かが分かるのだ。

（ダメだ、やっぱり除外ゾーンにいるかぎり、奴には手出しできないんだ。
とにかく今は、あの凍土の狼を何とかすることを考えないとーー）

透矢はゼロ・プリズナーの攻略を諦め、次に厄介な凍土の狼を倒そうと考える。
攻撃力２８００。
せめてこのモンスターだけでも倒せれば、光明が見えるかもしれない。

だが、手札に倒せるカードはない。
そこで透矢は悩んだ末に決断した。

「ーー罠カード、『英雄の落日』、発動！」

透矢は前のターンに伏せておいたカードをオープンさせる。

「自分フィールド上のＴ・Ｆモンスターを選択し、そのモンスターの素材となるモンスターを墓地からデッキに全て戻す！
その後でカードを２枚引く！」

「・・・（こくり）」

地影の時にも使われたドロー・サポート、『英雄の落日』。
そのコストによりＴ・Ｆモンスターを自ら消し去ることになるが、代わりに２枚ドローという希望を残す。

透矢が前のターンでメルセディアを残し、敢えてダメージを受けたのは、このカードの存在があったからだ。

「ーーありがとな、メルセディア」

今回のデュエルでは守護の鎧の姿の時から、透矢を助けてくれていたメルセディア。
自らの役目に命をかけてくれた戦士に、ささやかだが御礼で送る。

メルセディアはひとつ頷くと、エクストラデッキに帰っていく。
素材モンスターが墓地から消えたため、その存在を維持できなくなったのだ。

「カードを２枚・・・ドロー！」

自らの愛する英雄を犠牲にした以上、このドローは無駄には出来ない。
この状況を脱するカードをピンポイントで引き込むぐらいの気合いで、透矢はカードはドローした。

そしてその２枚のカードは呼び寄せた。
ーーゼロ・プリズナーの弱点を衝くそのカードを。

「このカードは・・・。
ーーそうか、これならゼロ・プリズナーをーー！」

『そのカード』をまじまじと見つめて、思い付く。
そして透矢は再び観客席に目を遣る。

「ーー千鶴！！
お前のカード、またまた使わせてもらうぜ！」

さっきは地影だったが、今度は千鶴。
手を振りながら嬉しそうに大声を上げたお陰で、観客の視線が千鶴に集中。
千鶴は驚いたあとで、周囲からの突き刺すような視線を受けて、赤面しながら俯いてしまう。

「へへ、速攻魔法、『異次元からの埋葬』、発動！」

「ーーあっ！」

発動されたそのカードは、前に凌斗とのデュエルで勝利の立役者となったカード。
観客が騒いでも眉ひとつ動かさなかった水花が、目を見開いて声を漏らす。

「このカードの効果で、俺は除外されているゼロ・プリズナーを墓地へ送るぜ！」

『異次元からの埋葬』は、自分・相手の除外されているカードを最大３枚まで墓地に送るカード。
前に使ったときは三騎士を墓地に揃えるため、
そして今回はゼロ・プリズナーを墓地に埋葬するためーー。

水花は心なしか、震える手でゼロ・プリズナーを墓地へ送る。

「これでゼロ・プリズナーは次のターン、帰還できない！
そうだよな？」

「・・・（こくり）」

透矢が確かめるように聞くと、水花は頷くが、明らかに動揺している。

そう、ゼロ・プリズナーは自身の効果で除外され、そして次のターンに除外されている自身を帰還させる効果である。
しかし一度でも除外ゾーンを離れるとその関係が断ち切られるのだ。

つまり今のように、墓地に送られた場合、例え別のカードで再び除外したとしても、２度と帰還は出来ないのである。

ゼロ・プリズナーは封印された。
同時に水花の周りのバリアも消え去る。

「更に、行くぜ、水花！」

「・・・っ！」

「手札から召喚！
『三騎士 影縫いの微刃（かげしばりのみじん）』！」

そして２枚ドローしたカードのもう１枚を手にかけた透矢。
水花がその透矢の気迫に、思わず電気が走ったかのように身体を震わせる。

そして召喚されたのはこれもまた前のデュエルで活躍した三騎士。

『影縫いの微刃』ーー。

透矢の怒濤の反撃が始まる。