副会長 紅月炎魅子②　作：はにわ

　
ーー休日が空けて月曜日の昼。
透矢は生徒会に呼び出されたため、昼食を早々と済ませて生徒会室に立ち寄った。
用件は多分、次の生徒会大戦の対戦相手の事かーー。
しかし昨日、炎魅子が自ら宣言していたように、次の相手は彼女なのだろう。
ならば後は日取りを決めるだけかーー。

そんなことを考えながら生徒会室の扉を叩く。
するといつものように地影が中から扉を開いて出迎えてくれた。

教室でも会ってるからか、互いに軽く会釈するだけで済ませる二人。

「ーーふふ、こんにちは、透矢くん」

「よっ！」

「失礼しまっす」

次にいつも通り奥の専用デスクに座る刹那が笑顔を向け、そしてソファーでくつろいでいた炎魅子が右手を立てながらそれぞれ出迎えた。

そして今回はもう一人ーー。

「ーーとうや・・・」

透矢が来てもいつもは無言だった水花。
それが今日に限って透矢を見るなり、ソファーから下りて、ぬいぐるみを抱えたまま小走りで彼の足下に駆け寄ってくる。

「お、水花！
もう大丈夫なのか？」

「・・・うん」

「そっか、良かったなー！
心配してたんだぜ？」

「ほんとに・・・？」

「当たり前だろ？
また今度、水花が元気な時にやろうな？」

「・・・うん」

中腰になって、水花の頭を撫でる透矢。
透矢に取ってみれば、水花が倒れてから今日初めて会ったことになる。
もっともあの後、療養してすぐに水花の意識が戻ったのは、刹那から地影を通して伝えられていた。

それでも水花の事は常に頭の片隅で気になっていたから、こうして元気そうな水花を見て、ようやく安心したようである。
何気なく頭を撫でながら接する透矢に、無表情だがどこか嬉しそうな水花。
刹那たちはその様を温かい目で見守っていた。

「ーーいつも来てもらって悪いわね、透矢くん」

「いえ、気にしないでいいっす。
ーーと、とと」

刹那のデスクまで歩み寄ろうとした透矢だったが、ズボンを引っ張られるような感触に思わず足を止める。
見れば、水花が透矢のズボンの裾を掴んでいたのだった。

「お、おい、水花？
歩きにくいだろ？
ちょっと離してくれよ」

「・・・（ふるふる）」

透矢が掴む水花の手を離そうとするが、水花は首を振って頑なに手を離そうとしない。

「くすくす、水花に完全に気に入られたようね」

「水花がここまで気に入るなんて見たことないよ」

「いいわ、透矢くん。
そこに座って。
悪いけど水花のことよろしくね」

「は、はい・・・」

今までは呼び出された時は、透矢が刹那のデスクの前に立って話していたが、今回は刹那が気遣ってソファーに座るように促す。
透矢は水花を庇うようにしながら歩き、何とかソファーへ座る。
そして水花はその透矢の足の間に座ると、体重を預けてくるのだった。

いくら水花に悪気がないとはいえ、落ち着かない様子の透矢。
その様を見た炎魅子と地影はおかしそうに笑みを浮かべている。

「ーーさて、透矢くん。
改めて生徒会大戦第二戦、勝利おめでとう」

「あ、はい、どもっす」

「それで早速、次の対戦なんだけどーー相手は炎魅子、よ」

そして本題。
刹那から次の対戦相手が告げられる。
その相手はーーやはり、炎魅子。

「ははん、ついにあたしとだね、遊戦名！」

「みたいですね、紅月先輩！」

「楽しみだよ！
ただし、手は抜かないからね！」

「こっちこそ！
俺も楽しみにしてます！」

３番手となる炎魅子。
その実力は未知数だが、地影、水花と戦ってきた透矢からすれば、
楽なデュエルにならないことは確信できる。

しかしながら、そんな勝負にこだわる以前に、デュエルを楽しむという意見で一致する。
透矢と炎魅子はやはり考え方や嗜好が合っているようだ。

「ーーあとで炎魅子さんのデッキ・レシピをメールで送ります」

「悪いね、地影」

「え、デッキ・レシピって、教えちゃっていいんですか？」

「あたしはもう何度も遊戦名のデュエルを見て、デッキのタイプとか戦術を見ちまってるからさ。
このままデュエルするのはフェアじゃないだろ？」

どうやら炎魅子は地影に頼んで、透矢に自らのデッキ・レシピを教えるつもりのようだ。
理由は地影と同じ。
なるべく平等な条件でデュエルをしたいという、考えによるものである。

ただ炎魅子自らそれをしないのは、炎魅子が携帯端末を用いて文字を打つのが苦手だから、と照れ臭そうに明かした。
また地影の携帯端末を操作するのが早いというのも理由である。

「さて、後は日程ね・・・今日は体育館が使えないから、
明日の放課後でどうかしら？」

続けて対戦の日程。
明日なら空いてる、と打診してくる刹那。
すると透矢は『今日は使えない』という言葉に反応する。

「今日・・・体育館でなんかあるんですか？」

「え・・・？」

まさか突っ込まれるとは思っていなかったのか、刹那が驚く。
透矢自身、つい口から出てしまったようだ。

「ーー透矢くんは・・・今日がいいの？」

「いえ、そんなことないっす。
でも使えない、ってことはなんかあるのかな、って」

ーー明らかに室内の空気が変わった。
地影は透矢にお茶を入れようと準備していたが、その手が何度か不自然に止まっている。

訊かれた刹那は何かを測るように透矢を見つめる。
炎魅子はソファーに深く座り込んで、口を閉ざしていた。

「今日は・・・体育館内のメンテナンスがあるの。
デュエル・リングを始めとした機器の点検よ」

「成る程、そうなんですか」

しばらく間を置いた後で、刹那はそう理由を述べると、透矢はあっさり納得する。
すると変わった空気は元に戻り、直後に地影が皆にお茶を配り始める。

透矢は刹那のその言葉を聞いて果たしてどう思ったのか。

ーーその後は話しは円滑に進められて、結局透矢と炎魅子の対戦は翌日の放課後、と決まった。

そしてしつこく張り付く水花を引き離して、生徒会室を出た直後。
透矢が持つ携帯端末に、炎魅子からメールが入った。

『今日の放課後、体育館の鍵は開けとく』

それだけ。

炎魅子が昨日、透矢に言ったデュエル・キラーの正体を知りたいなら、放課後に体育館へ来い、という言葉。
そして今のメール。

ということは刹那のメンテナンスという話は嘘であり、やはり今日、体育館で何かが行われるのか。

透矢は炎魅子からのメールを見ながら、緊張を深めていたのだった。