天才少女・水花の極寒デュエル！⑪　作：はにわ

　
ーー水花は想定していたはずだった。
ゼロ・プリズナーが倒される、あるいは透矢のようにカード効果によって封印されることも。

だからこそ、その対策となるカードをデッキに投入し、そして今引き当てた。
しかしどうしたことか、発動するために必要となるゼロ・プリズナーが墓地にいない。

確かにここで引き当てたのはあくまで結果論に過ぎないのだが、何故『絶対零度の凍壁』を発動するときにもう少し考慮しなかったのか。
むしろここでこのカードを引き当てたのは、『デッキが自分に応えてくれている』証拠ではないのか。
いや、あるいは心を乱した自分への戒めか。

ーー『あの時』もそうだった。

負けられない勝負に、リスクが少ない道を選べば選ぶほど、状況は裏目、裏目を引いた。

結果はデッキの力を発揮できずに無惨な敗北。
自分が負けたせいで、両親はーー。

「ーーお、おい、水花？
だ、大丈夫か？」

ーー天才の頭脳が混乱していた。
それは身体の震えとなってあらわれている。
そのあまりの震え方に、当然透矢は心配する。

「た、ターン、え、えん、ど・・・」

すると水花は声を絞り出すようにそう告げた。
まさか、という表情の透矢。
あろうのことかドローしただけで、ターン終了を宣言。
観客も意外な進行にどよめく。

ターンを渡された透矢だが、すぐには動かない。
明らかに水花の様子がおかしい。
それもやはり、さっきの会話から、水花が叫んだのをきっかけとして、である。
水花に近付いて、安否を気遣おうかーーそんな考えが透矢の頭に浮かぶが・・・。

「ーーアナタノ、Ｔｕｒｎデス、トーヤ！
続ケナサイ、デスの」

「クロエ先生・・・だけど！」

「マダ、Ｄｕｅｌハ、終ワッテイマセン！
Ｄｕｅｌｉｓｔナラバ、決着ガ着クマデ、続ケルノガ義務、デスの！」

普段、温厚な性格のクロエが透矢を睨み付けるように視線を飛ばす。
確かに言ってることはそうかもしれないが、相手は九歳の少女である。
その少女の様子がおかしいのだから、一時でもデュエルを止めるべきではないか。

「Ｈｕｒｒｙ,ｕｐ！トーヤ！
アナタノ、Ｔｕｒｎ、デス！」

透矢が進言しようとするのを抑え込むように、クロエが声を被せてくる。
まるで人が変わったかのようなクロエの厳格な態度。
意見は一切受け付けない、という構えである。

「・・・お、俺の、ターン！
ドロー！」

納得のいかないものを感じながら、カードをドローする透矢。
心の中でデュエルを続けるべきなのか、と迷いを抱く。

ドローフェイズを終え、スタンバイフェイズ。
このタイミングで、『影縫いの微刃』に装備されている『三剣の誓い』の攻撃力アップの効果が切れて、攻撃力が２７００となる。

「め、メインフェイズ、俺はまた『三剣の誓い』の効果を発動！
デッキまたは手札から、装備モンスターと同名モンスターを墓地へ送り、装備モンスターの攻撃力を４００ポイントアップさせる！」

透矢は再び装備カードの効果を発動。
デッキから３枚目となる影縫いの微刃を墓地へ送り、攻撃力はまた３１００へとなる。

その間、水花は無反応。
心ここにあらず、といったところか。

「ば、バトルフェイズだ！
いいか、水花？！」

バトルフェイズに入り、それを確認するがてら、水花に声を飛ばす透矢。
だがやはり水花は何も応えてくれない。

ーーデュエルに集中していない。

このままバトルをするとなると、まるで背中から不意打ちをかけるようなものだ。

透矢は再び止まる。
やはり何がなんでもこのデュエルを止めるべきではないか。

だがこのデュエルをこんな形で終わらせたくないという気持ちも正直ある。
もっとも後日、続きをやればいいというだけの話だが。

「ーードウシマシタカ？トーヤ。
Ｂａｔｔｌｅシナイノデスカ？」

どのくらい止まっていたか、それは透矢自身分からないが、再びクロエから厳しく促される。
クロエだけではない。
急にデュエルのスピードが緩くなったこと、また勝負所でもあるため、観客席からも透矢に早く進めるような非難の声が上がる。

どうするか？
迷った透矢は己の気持ちの赴くままに、判断を委ねた。

「ーーバトルだ！
影縫いの微刃で、『凍土の狼（ブリザード・ファング）』を攻撃！」

最後は彼のデュエリストの本能か。
モンスターの攻撃力を上げ、バトルフェイズを宣言しながらバトルをしないなど、その気概が許さない。

透矢の攻撃宣言により、影縫いの微刃が再び影へと潜り、攻撃態勢に入る。
さっきは『絶対零度の凍壁』でゼロ・プリズナーをデッキに戻すことで防いだが、今はもうない。
影縫いの微刃の攻撃を防ぐには、その攻撃力・３１００以上のモンスターが墓地にいなければならないが、水花の墓地にいるモンスターは攻撃力１８００の凍土の狼のみ。
すなわち、この攻撃は防げない。
もっとも、例えいたとしても、今の水花に発動出来たかどうか。

すると影縫いの微刃は一瞬にして凍土の狼が作る真下の影から現れ、容赦なく突き出されたナイフが急所を貫いた。
凍土の狼は断末魔の叫びすら上げられずに砕け散り、
両雄の攻撃力の差、３００が水花のライフから削り取られる。

「あ・・・」

水花の声にならない声。

水花のライフは残り４５００。
まだ原点を上回っている。
だがーー。

「手札から速攻魔法、『トライ・リィンフォース』発動！
戦闘で相手モンスターを破壊したとき、戦闘を行った自分のモンスターと同名のモンスターを、デッキ・手札・墓地から特殊召喚する！」

１度始まった流れは止められない。
透矢は更に追い討ちをかける。

元々この『トライ・リィンフォース』は前のターンから握られていたカードであり、前のターンに攻撃が通っていれば、スムーズにコンボが繋がっていた。

ただ水花が自分のターンで何も防御手段を取らなかったため、ターンを跨いでそれが実現したのである。

トライ・リィンフォースの効果により、攻撃した影縫いの微塵が帰ってくるのと同時に、墓地から蘇った２枚目の影縫いの微刃が姿を現す。
黒装束で全身を包んでいるため、違いは見た目では分からないが、
良く見るとナイフを握る利き手が違う。

「特殊召喚した影縫いの微刃で、ダイレクトアタック！」

そしてすぐさま攻撃宣言。
同じように『影を伝った』くの一が、水花の身体を直接ナイフで切り裂く。

「ーーあぅっ！」

攻撃力２３００のダイレクト。
水花のライフは一気に２２００となり、原点の半分を窺うところまでになる。

水花は力を失うように膝を付いた。

「バトルフェイズ終了時に、トライ・リィンフォースで特殊召喚されたモンスターは手札に戻る！
そして俺はターン終了だ！」

攻撃を終えた影縫いの微刃は、トライ・リィンフォースの効果により、手札へと還る。

透矢は攻撃に踏み切った事に、心にざわめくものを感じながら、ふと水花を見た。

水花の身体は立ち膝のまま、小刻みに震えている。
そして次の瞬間、それは起こった。

「ーーパパっ！ママっ！
助けてぇ！
水花も死んじゃうよぉっ！
『デュエルに負けたら』、死んじゃうのぉっ！！」

突如そう叫びながら泣きわめく水花。
無表情だった顔をくしゃくしゃにしながら、赤子のように激しい泣き声を上げる水花。

「ーー水花っ！」

「水花っ？！」

透矢が、そして観客席にいた刹那が立ち上がりながらその名を呼んだ。

生徒会大戦・第二戦。
デュエルが終盤に差し掛かろうと言う中で、起きた出来事であった。