ＶＳ神楽坂刹那 地影の場合　作：はにわ

　
ーー透矢・刹那・水花の一行は都内最大級の規模を持つテーマパークへとやって来ていた。
室内でありながら、遊園地に代表するような乗り物を始めとしたアトラクションや、入場料さえ払えばプレイし放題のアーケードゲームを始めとした、アミューズメントブース。
更に大きなイベント会場も設置されており、そこでは新作ゲームの紹介や有名人のミニライブなど毎日何らかの事業が行われている。

無料優待券を用意していた刹那の残りの時間はここで遊びつくそう、という意見に透矢も快く賛同し、中へと入場していた。
やはり、ではあるが休日なだけに中はひどい混雑となっていて、透矢と刹那は片方ずつ水花の手を握ってはぐれないように気配る。

「ーーふふ！」

ごった返す人波を抜けて、少し開けた場所へと出た所で刹那は何か可笑しそうに笑った。

「なんだ？
なんか面白いものでも見つけたか？」

「ううん。
ただね、こうして水花を連れて３人で歩いてると、私たち親子連れに見えないかな、って？」

「えぇ？
いや、親子連れにしちゃ若すぎるだろ。
せいぜい兄弟連れ、ってとこじゃないか？」

「ふふ！
ま、そうよね。
でもこういうシチュエーションなら、お決まりのセリフかな、って」

「なんだよ、それ」

「あはは、おかしいね！」

変わらず機嫌良さそうにはしゃぐ刹那。
透矢にも自然と笑いがこぼれ、仲睦まじい３人の姿がそこにはあった。

「ーーあ、そうだ、透矢くん。
今日ね、ここでちょっとしたイベントがあるの」

「へぇ、どんな？」

「ふふ、デュエル・モンスターズ絡みよ」

「マジかっ？
そりゃ興味あるな！」

「でしょ？
でもまだまだそれまで時間はあるから、今は色々楽しみましょ？」

「ああ、そうだな！」

刹那がここをデートコースに選んだのは、その『イベント』が関係していた。
しかしそれまではまだ時間があるということで、３人は様々な種類があるアトラクションを楽しむのだった。



「ーーあたし、何やってんだろ・・・」

ーー当然、追跡班の真希たちもこの場所へ来ていた。
ところがここに来て突然、真希がひどく落胆した様子でそう呟いた。

「何だい、今さらそんな事言い出して」

炎魅子がまず反応する。
炎魅子は炎魅子で、真希に付き合いつつも、大きな容器に溢れそうなポップコーンを片手に、ゲームをいじるなどして、楽しんでいるようだった。
地影はさっきから携帯端末を操作していて、何も語らない。

「いやだってさ・・・入場料払ってまでここに来たのに、やってることはストーカー紛いの行為って・・・なんか自分が嫌になってきたし」

真希たちは無料優待券など用意があるはずもなく、実費での来場である。
真希が全員分払うはずだったが、そこは親友の間柄。
各々、自分の分は自分で払っているようだ。

「何言ってんのさ！
刹那に透矢を取られちまってもいいのかい？」

「ーー問題はそこなんだよね。
刹那って、透矢に本気なのかな？」

「え？
・・・さ、さぁ、ねぇ・・・？
あいつは気まぐれだからさ」

「だとしたら、あたしなんて勝てるわけないよ。
現に透矢も刹那とあんな楽しそうにしちゃって・・・」

「い、いや、それはきっと新鮮味があるからだろうさ」

「あたしや千鶴ちゃんと一緒にいる時よりも楽しそうだし・・・はぁ、へこむなぁ・・・」

「おやおや、こりゃ重症だねぇ・・・」

落胆の度合いが大きいのか、自分の素直な気持ちを淡々と語ってしまう真希。
普段明朗活発な真希が、こんな自虐的な事を言いながら落ち込むのは珍しく、炎魅子も困ったように頭を掻く。

「ーーお姉ちゃん、ダメだよ、諦めたら！」

そこへ声を上げたのは今まで心配そうに真希を見守るだけだった千鶴。

「あたしがお姉ちゃんだったら諦めないよ！」

「で、でも千鶴ちゃん、刹那と比べたらあたしなんかーー」

「そんな事ないよ！
私、お姉ちゃんの良いところ、いっぱい、いーっぱい、知ってるし！」

「千鶴ちゃん・・・」

「確かに会長さんは凄く素敵な人だけど、
お兄ちゃんと過ごした時間はお姉ちゃんと私の方が多いもん！」

「う、うん・・・そうだよね。
変に落ち込んだりして、らしくなかったね！」

千鶴の力強い励ましを受けて真希は再び立ち上がる。

「よし、こうなったらとことん、付きまとってやるわ！
ここまで来て、逃げ帰ってたまるもんですか！」

「い、いや、お姉ちゃん・・・でも、付きまとうのはまずいかなーって・・・」

「たはははっ、よっしゃ、いつもの真希らしくなってきたね！」

千鶴が大声を出したからであろうか、周囲の注目を集めていたらしく、
真希が高らかにそう宣言すると、周囲は訳も分からないのに、歓声を上げる。
千鶴は自分の訴えの意味が微妙にずれている事に困った表情を見せ、炎魅子はそんな千鶴の肩を叩きながら豪快に笑ったのだった。

「ーーやっぱり！
今日は『あのイベント』の日！」

「な、何だい、地影！
さっきから携帯いじってると思ったら、急に大声だして！」

今度は地影。
ずっと携帯をいじっていたようだが、遂に何かを確かめたようだ。

「今日はこのテーマパークで二ヶ月に一度、開催されるクイズ大会の日なんです」

「クイズ大会？」

「あ、聞いたことある。
その時ごとに、ジャンルの違うクイズで競って、優勝者には豪華賞品、ってやつ？」

地影の言葉に炎魅子、そして元気になった真希が反応する。

「そして今日のクイズジャンルは・・・『デュエル・モンスターズ』なんです！」

「え、マジかよ！
そりゃ気になるねぇ！」

「気になるどころじゃありませんよ！
今日この日を選んで、刹那さんがここに来たということはーー」

「ま、まさか、刹那も参加する気？」

「間違いありません」

確信したように真希の問いかけに答える地影。
すると炎魅子・真希・千鶴は地影の携帯端末に表示されているクイズ大会の詳細を見る。

「見ろよ、飛び入り参加ありだってよ」

「どんなクイズが出されるのかな、お姉ちゃん」

「分かんないけど・・・難しいと思うよ？」

四人でそれを見合って、色々と言葉を交わす。
すると炎魅子が何かを思い付いたように指を鳴らした。

「なぁ、あたしらの中から参加してみないか？」

「え、本気？先輩」

「だってさ、もし本当に刹那が参加するなら、だよ？
見てるだけ、なんてつまらないじゃないか。
それに刹那の鼻を明かすまたとないチャンスだよ」

「確かに面白そうですが・・・でも誰が参加を？」

「そりゃあ・・・」

地影の声ににやけ面の炎魅子、そしてそれに続いて真希、千鶴がじっと見つめ返してきた。
地影はまさか、と身を縮める。

「わ、私ですか？！」

「だってこん中で学業成績が一番良いのは地影だろ？
決まりじゃないか」

「え、炎魅子さんこそ、学年１つ上でしょう！」

「あたしゃクイズみたいなのが苦手でね。
悪いけどパスさ」

確かに地影は見た目も優等生の雰囲気だが、決して雰囲気だけでなく、実際に学業成績はトップクラスである。
それに勤勉家で、雑学・豆知識にも広い彼女ならクイズも強そうだ。
ーーというのが、炎魅子の地影に対する客観的な物見である。

「で、ですが、私に限らずこの中の誰かが出場したら、刹那さんに今日の事がバレる可能性がーー」

「大丈夫、あたしに任せとけって」

「えぇー・・・、ほ、本当に本気ですか・・・？」

地影は炎魅子の強い推しに逆らえきれなかったのだった。
地影は炎魅子の笑いに嫌な予感をしつつも、刹那と競える願ってもない場に、内心、奮えているのだった。