天才少女・水花の極寒デュエル！⑤　作：はにわ

　
「ーーカードを２枚セットしてターン終了だよ」

水花の残りの手札２枚全てを魔法・罠カードゾーンにセットしてターンを終了させる。
その瞬間、透矢の場に残された彫刻（トークン）が砕け散って場から消え去った。

「・・・ゼロ・プリズナーの効果で特殊召喚したトークンは、エンドフェイズに破壊されるの」

「攻撃は通らなくても完全除去は出来る、ってか。
・・・なるほど、朝霧の『四龍』もそうだったけど、とんでもねぇモンスターだな」

透矢は改めて『四龍』モンスターの恐ろしさを噛み締める。
トークンが残ったままならば守備表示にして壁にするなり、上級モンスターのリリース素材にも使えたろうが、それすら許さないのだ。

「にしても、１ターン目にあんな重いモンスターを簡単に出してくるなんて、さすが『天才少女』は伊達じゃないな、水花！」

「・・・？
別に・・・普通・・・？」

「いやいや、すげえって！
危うく１ターンキルされるところだったしさ！」

「・・・うん。
水花の龍の攻撃を防いだの・・・あなたが、初めて・・・」

「へっへーっ、そう簡単にはやらせないぜ？
次は俺の反撃だからよ！」

「反撃・・・させない。
水花、守るの・・・意外と、得意」

「ははははっ、自分で言うなよ！」

デュエルをしているときは早口で大きな声を出す水花だが、こうして合間に話すときには普段のゆっくりとした口調になる。
そんなギャップも気にせず、明るく語りかける透矢。
最後の突っ込みに水花は、わずかだが表情が綻んだ。

「さぁて、俺のターン、ドロー！」

強気な笑いを見せながらカードを引く透矢。
序盤から予断ならぬ戦況、その緊張感を相変わらず楽しんでいるようだ。

「おっと、このスタンバイフェイズに『守護の鎧』の効果で、デッキから別の『守護の鎧』を手札に加えるぜ！」

守護の鎧の召喚時に発動する効果。
召喚した次のターンのスタンバイフェイズに、別の守護の鎧を加える効果だ。
１枚は既に墓地に送られていて、残る１枚はゼロ・プリズナーによってデッキに戻された１枚である。
デッキに戻されたカードというのは、墓地に行くカード以上に再利用が難しいが、
巧い具合に手札に戻した格好となった。

（さて・・・迂闊にモンスターを出してもゼロ・プリズナーの餌食だな・・・）

透矢は４枚の手札を眺めながら考える。
次のターンに帰ってくるゼロ・プリズナーの対策を考えなければならないが、
単純に壁モンスターを置いたところで、ゼロ・プリズナーに氷の彫刻に変えられるだけである。
現状、透矢の場には守護の鎧が存在するが、彼女もこのままでは同じ運命を辿ることになる。

どうするか？

だが、透矢はすぐに解答を導きだした。

「俺は今、手札に加えた守護の鎧を守備表示で召喚！
その効果により、次のスタンバイフェイズにデッキから別の守護の鎧を手札に加える！」

再び姿を見せた２枚目の守護の鎧。
やはり召喚成功時に発動するその効果を宣言するがーー。

「それ、３枚目・・・デッキに、もう無いよね・・・？」

そうなのだ。
デッキにはもう守護の鎧は存在しないため、このままでは次のターンに守護の鎧を手札に加えることは出来ない。
もちろん、ゼロ・プリズナーがまたデッキに戻せば話は別だがーー。

「へへ、だな！
・・・でも、俺の狙いはそこじゃないんだぜ？」

「・・・あっ。
まさか、３体目を、揃える・・・？」

「その通りだ！
罠カード、『トリニティ』！」

水花が気付くの同時に発動された、透矢のリバース・カード、『トリニティ』。
場に２体の同名モンスターがいるときに、３体目をデッキ・手札・墓地から特殊召喚するカードだ。

「墓地から蘇れ・・・守護の鎧！」

先ほど、ゼロ・プリズナーの攻撃を防ぐべく守護の鎧の効果を発動し、そのコストとして墓地に送られた守護の鎧を復活させる。
墓地から呼び覚まされた守護の鎧がフィールドに姿を現し、これで３体。
姿形は一緒だが、背丈は一番小さい。

「これで守護の鎧が３枚揃った！」

「・・・Ｔ・Ｆ召喚・・・？」

「そうだ！
行くぜ、『トライ・フォース・ユニオン』・『フォーメーション・ツヴァイ』！」

もはや１回のデュエルに１度は恒例となりつつある、透矢得意のＴ・Ｆ召喚。
サーチ・サルベージなどサポートカードを如何なく活かしたその戦術は、狙いを１つに絞っている故に成功しやすく、そして早い。

「己の身体を懸け、そして魂を懸けて護り抜くその強い意志！
堅固な城壁にも勝るその心を束ね、絶対的な守護の力を得ろ！」

３体の身体を包み込み、そして天まで昇る黄土色の光。
中央の光を基準に、隣り合う２つの光が結合し、１つの大きな光となる。

「ーーＴ・Ｆ召喚！
『不屈の闘姫（ふくつのとうき） メルセディア』！」

光が弾けて消え、中から姿を現した『不屈の闘姫 メルセディア』。
身に纏う鎧は黄金色の輝きを放ち、手に持っていた筈の盾は不思議な事に宙に浮かんでいる。
また全身を覆い隠す程の巨大な盾は正面・左右、と３つ存在し、いずれも分厚い装甲であり、生半可な一撃では傷１つ付けられそうにない。
また兜を脱いだその素顔。
美しく長いその金髪が、『姫』という名に相応しい。

表示形式は守備表示で出され、守備力は変わらず１９００だが、それは元々の守備力に過ぎない。
直ぐに彼女の『能力』により、４０００までへと上がった。

「守備力・・・４０００・・・！」

「メルセディアの守備力は墓地に存在する『守護の鎧』１枚につき７００ポイントアップする。
３枚で合計２１００アップの４０００さ！」

メルセディアの周りに浮く巨大な盾、３枚。
そのひとつひとつが墓地に眠る守護の鎧の魂の結晶。
ゼロ・プリズナーの攻撃力と同じ数値に、さすがの水花の声もわずかに上ずる。

「メルセディアの効果はここからだぜ！
メルセディアは守備表示のまま、相手プレイヤーに直接攻撃できる！」

メルセディアの二つ目の効果。
それは守備表示のまま攻撃、という掟破りに加えて、更に相手の場にモンスターがいても直接攻撃できる効果。
高い守備力を前面にしたまま、相手にダメージも与えていくことの出来る、優れた能力である。

「バトル！
メルセディアで、水花にダイレクトアタック！」

もっとも、水花の場にモンスターはいない。
２枚のリバース・カードはあるが、透矢はＴ・Ｆモンスターの共有効果である強力な除去耐性を頼りに、果敢にバトルに挑んだ。
メルセディアは腰にくくりつけていた、金色の長筒を取り出して水花へと向ける。
重い装甲を身に付けているから、身体を動かしての戦いよりも、銃による遠距離攻撃がメインか。

攻撃力は６００。
与えられるダメージ量としては低いが、メルセディアは強力な守備力故に簡単には除去出来ず、相手を焦らすのには充分だ。

「ーー罠カード、発動だよ。
永続罠カード、『絶対零度の凍壁（アブソルート・ウォール）』！」

だが自分で守るのは得意、という言葉が示すように防衛手段は用意されていた。
リバース・カード２枚の内の１枚、『絶対零度の凍壁』。

「相手のモンスターが攻撃してきた時に発動するの！
墓地の水属性モンスターをデッキに戻して、戻したモンスターの攻撃力以下のモンスターの攻撃を、このターン、無効にするの！」

「攻撃無効、か！」

「水花は墓地の『絶海の騎士』をデッキに戻して効果を発動するの！
絶海の騎士の攻撃力、１４００以下のモンスターの攻撃を無効にするの！」

デュエルの時は、途端に話し方のキレが良くなる水花。
効果を説明しながら、墓地の絶海の騎士をデッキに戻した水花。
すると氷の壁が地面から天に向かって形作られ、水花の姿を隠してしまう。

メルセディアは長筒の引き金を引くが、やはりというべきか、発射された弾丸はその壁に阻まれて届かない。

「くっそ～、ダメだったか！」

「うん、ダメ。
そんな簡単に・・・攻撃を通したりしないよ」

「ちぇ、先ずはその壁を何とかしないと駄目か。
えーと、バトル終了。
カードを１枚セットしてターンを終了するぜ」

攻撃が通らないことを残念がりながらも、カードを１枚セットしてターンを終了させた透矢。
すると絶対零度の凍壁の効果が失われて壁が消えていき、再び水花の姿が見えるようになる。

（さて、『龍』が還ってくるな・・・）

水花のターン。
あの強力なゼロ・プリズナーが再びその姿を見せることだろう。

（でもゼロ・プリズナーの効果はメルセディアには効かない。
守備力も攻撃力に並んでる。
何とかメルセディアにしばらく耐えてもらって、攻略法を導かないとな・・・）

透矢は思案を巡らす。

ゼロ・プリズナーの効果は、相手モンスターをデッキに戻して、代わりにトークンを特殊する効果。
しかし除去耐性のあるＴ・Ｆモンスターにこの効果は通じない。
ならば何とかしばらくは持ちこたえてくれるだろうーーそんな、期待を透矢は持っていた。

しかし『天才』・水花は既に透矢のこの戦術を看破していた。
次のターン、透矢の淡い期待は打ち砕かれるのである。