真希vs蓮華 蓮華の武装待女デッキ！⑦　作：はにわ

　
ーー勝負は大詰めに近付いていた。
真希のライフは４０００、蓮華は３５００。
まだ先が長そうだと思ってしまうが、実はそうでもない。
蓮華の手に既に握られている彼女のエース・モンスター。
それは真希の命運を絶つに余りある力を持ち、同時にここまでの流れはそのモンスターを召喚するための前座に過ぎない。

「私のターン・・・ドローっ！」

今までの静寂を崩さぬ動きとは違い、空を切り裂き、突風を起こすかのような鋭いドロー。
またそれでいて無駄に体を崩したりはしない、しなやかで美しい引き方である。

プロデュエリストだった蓮華の『本気』のドローに、真希は自分の身体を押す『何か』を確かに感じ取っていた。

そしてドローしたカードと合わせて手札をじっと一目した蓮華。
そのまま目を閉じると微動だにしなくなる。
何かを思い巡らせているかのような風情に、真希たちは静かに次の動向を見守る。

「ーー申し訳ございません。
少し、昔の事を思い出しておりました」

自分が注目されているということに、肌で感じたのだろうか、
謝罪と共に動きを止めた理由を隠さずに語る。

「昔・・・？」

「はい、今のこの状況と同じような場面がございました。
ーー私が引退した、最後のデュエルです」

今のこのデュエル場面と、プロデュエリスト引退前最後のデュエルが重なるという蓮華。
その告白に少なからず驚く真希。

だが次の瞬間、真希の脳にわき上がったある疑問。
それは神楽坂の待女として初めて蓮華と出会ってから、抱き続けてきた疑問でもある。

「あの・・・こんなこと聞いてもいいのか分かりませんけど」

「何でしょう」

「どうしてプロ、辞めたんですか？
まだ若くて・・・活躍もしてたのにーー」

更科蓮華。
その当時は期待の新星として、国内でも国外でもプロデュエル界を騒がせた逸材。
ところがどうしたことか、わずか数年、まだまだこれからという時に突然の引退。
この事は小さいながらも新聞に載ったぐらいの事件であった。

メディアにも固く口を閉ざして語らなかった理由とはーー。

「・・・お耳汚しになると存じます。
それにこれはお嬢様も知らないことですから」

「あ、ご、ごめんなさい。
あたし、余計なことーー」

やはり蓮華は語らなかった。
メディアにも語らなかった事を、こんな場で語るはずもない。
それを知りつつ聞いてしまった真希は、蓮華に対して頭を下げた。

「ーー千歳様はプロを目指されているのですか？」

「え、あたしですか？
あたしはーー」

「アカデミアでは学業・実技共にトップクラスとお嬢様から聞いております。
それだけ努力を積み重ねられていると推察いたしますがーー」

「・・・」

不意をつく蓮華の質問に真希はすぐに答えられない。
アカデミアに通う者と言えばやはり、将来はプロデュエリストを含め、それに携わる職に就くのが自然であるが、やはりメディアや世間の注目を受けるプロデュエリストは憧れである。

真希はどうなのか・・・？

「あたしは・・・」

と、そこまで言いかけて言葉が出ない真希。
外野の炎魅子たちも不思議そうに真希の背中を見ている。

「ーーもし、プロデュエリストを目指すのであれば・・・僭越ではありますが、人生の経験者として一言、申し上げとうございます」

そんな中、蓮華が答えを待たずに口を開く。

「プロというのは、中途半端では為し得ない稼業でございます。
時には己の気持ちを押し殺してでも、勝つことに、それのみに全力を注ぐ。
でなければプロを名乗る資格はないと、存じます」

「え・・・」

「これからの千歳様の御人生に少しでも役立てて下されば、私も幸いです。
同時にお嬢様の大事なご友人の方として、これから一層の御精進、御飛躍を期待しております」

最後に一礼した蓮華。
非常に重みあるその言葉を受け止めるどころか、押し潰されてしまいそうな感覚にとらわれた真希。

ーーそうして蓮華は再び手札のカードに指を伸ばした。

「ーー続けさせて頂きます。
場に『麗しき戦線』がある時、手札からこのモンスターを特殊召喚致します」

「あ・・・っ！」

「ーー『聖皇待女 ジャンヌ・ダルク』！」

デュエル・ディスクにセットされた蓮華の持つエース・モンスター。
デュエル・ディスクがカード情報を読み取り、フィールドに光を撒き散らしながらその姿を作り上げていく。
このデュエルに終わりを告げるそのカードがーー。

ーーが、デュエル・ディスクにセットされるのとほぼ同時。
玄関となる扉が突然内から開かれて、そこから刹那が姿を現したのだ。

「ーーあら、これは？」

「ーーお嬢様」

「せ、刹那！」

中から出てきた刹那。
さすがにすぐには場の状況が呑み込めないのか、しきりに頭を横に振っている。
蓮華は刹那を見るや素早くデュエル・ディスクの停止スイッチを押し、ジャンヌの召喚を途中で止めた。

「えっと・・・真希に炎魅子に地影？
それに鳴瀬さんまで。
お揃いでどうしたの？」

「いや、なんていうかほら・・・あ、遊びに来たんだよ」

「こんな時間に？」

「そ、そうなんだよ、こ、こんな時間に常識も考えず・・・って、おい、地影！
なんとかしとくれよ！」

「急に振らないで下さい！
私だって何て言っていいかなんて分かりませんし！」

「だから、そこはお前の口八丁手八丁でさぁーー」

「口八丁手八丁は炎魅子さんの方でしょう！」

焦っている炎魅子と地影。
ここまで踏み込んだ以上、刹那と会う事になるのは承知の上だが、
今日一日尾行していた事がバレないように理由付けしなければならない。
だが上手いそれがすぐには出てこないようだ。

首をかしげる刹那は今度は真希と蓮華を交互に見る。
構えたデュエル・ディスク。
二人の間には真希の召喚したモンスター。

「真希に・・・蓮華さん？
デュエルしていたの？」

「せ、刹那、あたしはーーっ！」

見たままの事を二人に聞くと、真希が何かを言いかける。
しかしそれを遮ったのは蓮華であった。

「申し訳ございません、お嬢様。
遊びにいらした千歳様に私が無理にデュエルを申し込んだのでございます」

「えっ？！」

頭を深々と下げながらの蓮華の嘘に、真希が驚くように声を上げる。

「千歳様、お相手ありがとうございました。
今日はここまでに致しましょう」

「れ、蓮華さんーー」

カードを手早く外し、デュエル・ディスクを納めてしまう蓮華。
真希にもすぐ分かった。
蓮華は自分に累が及ばぬよう、そう言ってくれてるのだと。

「珍しいですね、蓮華さんが進んでデュエルなんて」

「お嬢様から千歳様の事はよく聞いておりましたので、
どれ程の実力なのか、と些か気になりましてーー」

「ふふ、蓮華さんもやっぱりデュエリストなのね」

「場を弁えず、申し訳ございません」

「いいの、いいの。
でも真希と蓮華さんのデュエル、見たかったなぁー」

門前で許しも得ず行われていたデュエルを咎めようともしない刹那。
むしろ見れなかった事に残念そうな面持ちすら見せる。

「それにしても、真希？
こんな時間にわざわざ遊びに来たの？」

「だから、それはーー」

「ほらほら、透矢が中にいるんだろ？
だからさ、あたしたちも仲間に加えてもらおうってーー」

「確かに透矢くんはいるけどーー何で知ってるの？」

「あ・・・っ」

真希を押さえて炎魅子がつい口走った一言に、刹那は冷ややかに突っ込む。
凍り付く熱い女。
地影は後ろで頭を抱え、千鶴は朝に感じた嫌な予感はこれだったんだ、と諦めたようにため息を付いていた
。