そして、決戦の時来たる　作：はにわ

　
ーーその日の夕方。
家に戻った透矢は返ることのないメールを、ただずっと待ち続けるように携帯端末を眺めていた。

「千鶴に・・・真希までーー。
どうしちまったんだよ」

ーーあれから。
真希は何も言わずに一人、帰宅しており、
千鶴は観客席で辛抱強く事情を聞き出そうと努力したが、そうしている内に透矢のデュエル試験の時間になり、
当然ろくに集中も出来ないデュエルを何とか勝って終えた時には、謝りのメールと共に、千鶴も姿を消していた。

もちろん急いで二人の家を訪れたが、予想通りと言うべきか、どちらも体調不良を理由に会ってはくれず。
メールを送るものの、何も返信はない。

一人、事情を知らないでいる透矢。
やるせない、そして如何ともし難い苛立ちだけが彼を支配していた。

（あのとき、千鶴と真希は何かを話してたんだ。
一体、何を話していたんだ？）

観客席にいた透矢には、あの時真希と千鶴の会話は聞こえていない。
しかし千鶴がただならぬ様子を見せていたので、向かってみれば既に『終わっていた』。

千鶴が去ったあと、あの時隣で試験をしていた生徒を探して、話を聞いてみるも、
デュエルに集中していたせいか、内容は覚えてはいないという。
しかし断片的に千鶴から『迷惑をかけたくない』、『本気でデュエル』などの声があったというのだがーー。

（迷惑・・・？
どういう意味だ？
千鶴が何か真希に迷惑をかけてた、ってのか？）

ベッドに寝転がり、考えに耽る。

（ーー本気で、デュエル、ってどういう意味だ？
真希はいつも本気で、戦ってない、とでも言うのか？）

真希とはこの一ヶ月で既に数えきれないくらいの練習デュエルをこなし、更にデュエルする風景を見てきているが、そんな手を抜いている様子はないーー、と透矢は思う。

（そういえば会長さんも言ってたな。
千鶴が今日、真希と試験でデュエルしたかったのは、本気で戦いたかったからじゃないか、って）

千鶴の本心ははっきりとはしない。
だが仮に、刹那の言うとおりだとする。
だが真希が手を抜いている様子がないのは確かだ。
少なくとも『今のデッキ』を使う上では。

（そういえば真希は昔、ハーピィ中心の風属性デッキを使ってたんだよな。
それが今はあのライトロードデッキにーー）

実は透矢は、真希と練習デュエルをする上で引っ掛かっていた。
真希は流行に合わせて、今のデッキにしたというが、
果たして真希はそういう流行に左右されるようなデュエリストだっただろうか。

更に聞くところによれば、１年の頃はその『風属性デッキ』を操っていたという。
一年半前に今のアカデミアにブルーで入学し、更にブルーである事を維持していたとなれば、そんな悪い成績を取っていたとは考えにくい。

本当にデッキを変えた理由は、流行に合わせるためだったのだろうか。
それとも別の理由があったのかーー。

（まさか・・・な）

透矢の頭にふと、ある符号、そして冗談にもならない考えが浮かんだ。
それはこれから戦いを控えているデュエル・キラー。
奴が使っていたデッキもまた、風属性デッキ。
そしてその戦術に、透矢は既視感があったと前にも言っている。
カード自体に、ではなく、
あの隙あらば１ターンキルを狙う、足が早く、展開力に優れたデッキ。
数年前に透矢が引っ越す前、幼い真希が使っていたデッキに、その原型とも言える形があったーーと。

（バカか、何を考えてんだ・・・）

デュエル・キラーイコール真希。

何故、真希と千鶴の事を考えていて、そんな風に行き着いたのか、自分でも分からず、自らに毒付いた。

ーーしかし。
千鶴がデュエル・キラーの使用カードを聞いて泣き出した一件が思い浮かぶ。

（そうか・・・そういうこと、なのか？）

透矢にある仮定がひらめいた。

ひょっとしたら、千鶴も真希のデッキについて同じ疑問を抱いていて、
それでデュエル・キラーの使用カードに、たまたま真希が使っていたカードがあったために、
真希がデュエル・キラーではないか、と誤解したのではないだろうか、と。

だとしたら、馬鹿馬鹿しい勘違いである。
真希がデュエル・キラーであるはずがないのだから。

（でも・・・）

だがその仮定では今回の事の説明がつかない。

デュエル・キラーが使用したカードの中に真希が使っていたカードがあったとはいえ、いくらなんでも１枚聞いただけで泣き出したのは反応が過敏すぎる。

それに千鶴が真希にかけていた迷惑とは一体何なのか、それも全く想像がつかない。

「あぁ～っ！！くそっ！
わけわからねぇ！」

両手で頭をかきむしる。
一人、冷静に思考を巡らせてはいたが、考えは行き詰まるばかり。
苛立ちは頂点に達していた。

だがある意味透矢の思考は冴えていたともいえる。
やはり大事な幼馴染みの事だからこそ、為せる業だろうか。

ーーそんな時である。
携帯端末が音を鳴らしている事に気付いたのだ。
真希かあるいは千鶴が返信をくれたのだろうか。

慌てて透矢は携帯端末を覗く。
だがその差出人はーー。

「デュエル・・・キラー！」

今、ふと思考に浮かべていた『デュエル・キラー』と差出人に銘打ったメール。
透矢はすぐにそのメールを開いた。

『お前の家の近くにある公園にて待つ。
支度が出来たら、すぐに来い』

「今から・・・か！」

もう日も沈みかけた今。
こちらの都合も考えない、命令的かつ簡素な文。

「上等だ・・・やってやるぜ！」

だがこちらの家の近くの公園にわざわざ乗り込み、果たし状を送ってきた相手に背を向けては、デュエリストとしての意地（プライド）にも関わる。
何より前回の敗戦の雪辱を晴らすべく、準備を進めてきたのだ。

逃げるわけにはいかない。

透矢はこの時点でデッキをセットしたデュエル・ディスクを腕に付ける。
何せ近くの公園と言えば、歩いて数分の距離。
幼い時、透矢、真希、千鶴の三人がよく遊んだ公園だ。
臨戦態勢で透矢も応えようというわけだ。

「・・・頼むぜ、俺のデッキ！」

デッキに手のひらを置いて、気合いを１つ入れると、透矢は部屋を飛び出した。
もうすぐ夕食が出来るという母の声にも関わらず、透矢は家を飛び出した。

ーーこの時の透矢は己の意地を懸けての再戦。
だが待ち受ける真実は、彼があり得ない、と切り捨てた残酷なものだったのだ。