熱血女！炎魅子の爆炎デッキ！⑪　作：はにわ

　
ーーデッキの中で光るカード。
そして透矢の耳を震わす声。
果たして透矢に何が起きたというのか。

（ーーさあ、透矢。
アリアスの能力で私を呼べ）

「呼べって、一体あんた誰なんだ？！」

透矢が誰に向かうわけでもなく叫ぶ。

「Ｏｈ・・・Wｈａｔ？」

「お、おい、遊戦名？
どうしたんだよ？」

クロエと炎魅子に映る透矢の奇行。
クロエは眉を寄せて首を傾げ、炎魅子は心配そうな眼差しさえ送る。
観客たちも透矢の異変に気付き、空気がざわついている。

（な、なんだ・・・どうなってんだ、これ？
やっぱり俺にしか聞こえてないのか？
ひょっとして俺、おかしくなっちまったのか？）

周囲の痛い視線を感じて、戸惑うばかりの透矢。
自分で自分の気が狂ったのか、と疑う透矢だが、
現実に今もデッキのある１枚、そのカードは光を発し続けている。
透矢にはそう『見えるのである』。

（ーー落ち着きなさい。
あなたは喋る必要はない。
心で念じればいい）

（念・・・じる？）

（そう。
心を落ち着かせるの。
そして私の声に黙って耳を傾ければいい）

ーーやはり聞こえてくるその声。
やや高圧的な物言いが透矢を苛つかせるが、観念したようにその声の言うとおりにする。

（このままでは君は負ける。
でも勝つチャンスを得たいのなら、私を呼ぶしかない）

（いや、だからさ。
さっきから私を呼べ、私を呼べ、って。
そもそもあんたは誰なんだよ？）

透矢は目を閉じて言われた通りに、言いたいことを頭に思い浮かべるようにする。
これで意志疎通が出来るのなら不思議な話だが、もはや透矢はそんな事を気にしたりしない。

一方、透矢が急に押し黙ってしまったことで炎魅子とクロエは不思議そうに顔を見合わせている。

（君は私の存在に薄々気付いていたのではないのか？）

（え？なんのことだ？）

（私は君が昨日託されたカードの内の１枚よ）

（ーーカード！？）

（私は『三騎士』カードの一角。
それだけ言えば充分でしょ？）

（ま、まさか？！）

さすがにそこまで言われて察した透矢。
ということはこの声はーー。

「じゃ何か？！
あんたは『あのカード』で、『カード』が俺に話しかけてるとでも言うのか？！」

「ーーな、なんだい、急に！」

「あ、いや、その・・・」

思わず声に出してしまった透矢。
様子を窺っていた炎魅子が驚き、透矢は口を抑える。

（何だよ、それ、滅茶苦茶だ！）

（ーー事実よ）

（んな話、信じられるかよ！
じゃあんたの正体はなんなんだ！
幽霊か、妖怪か？！）

（あながち・・・間違いではないかな）

（げ・・・てことは、俺は幽霊に取り憑かれた・・・？）

突拍子もないことに頭をかきむしる透矢。
本当に気が狂いそうになっている彼の精神。

再び奇行を始めた彼に周囲の注目が集まり、中には失笑する者さえいる。
ある意味では苦しいデュエル状況に悩み苦しんでいるように見えるが。

（全く・・・面倒ね。
良いから早く私を呼びなさいな）

（いや、良くないし！）

（どちらにしても、私の力が無ければ手詰まりよ。
まぁ、負けてもいいというなら、別に構わないけど）

（ぐ・・・ぐぐ・・・）

（あなたにだけ見えるカードの光。
それが『私』。
わざわざ教えてあげに来たんだから、素直に引きなさいな）

そう言われてふとデッキを見る。
やはり『そのカード』は光を発している。

（でも、さっき『轟炎の剣』を探した時は無かったようなーー）

確信があるわけではない。
数十枚のデッキのカードをざっと見ただけで、また轟炎の剣をサーチすると決めていたから、意識はそこに集中している。
それ以前にも何度かデッキに触っているが、その時もまた然り。

透矢は迷いながら、ふとある視線に気がつく。
ーーアリアス。
透矢を真っ直ぐ見据え、それに気が付いて視線を返すと、彼女は頷いた。

何のサインか。
ひょっとしてアリアスも光るカードを引け、と言っているのか。

（ーーよし・・・分かったよ、宣言してやる。
お姉さんがくれたあのカードをーー）

光るカード。
それが『そのカード』だとするなら、アリアスの効果を使わなければならない。
だがもし宣言しながらデッキに無ければ不発なのは、前にも言った通り。

ーーこれは賭けだ。

「ーートーヤ？
ダイジョーブ、デスか？
Ｙｏｕノ、ｔｕｒｎ、デスよ？」

「遊戦名、どうしたんだい。
調子でも悪いのかい？」

かなり長い間が空いてしまった。
観客たちも騒ぎ始め、クロエが声をかけ、炎魅子が気遣ってくる。

すると透矢は決意の眼差しで炎魅子と向き合う。

「ーーすいませんでした！
ターンを続けます！」

「あ、ああ・・・。
本当に大丈夫かい？」

「大丈夫です！
俺はアリアスの効果を発動します！」

「アリアスの効果、っていうと、
『三騎士』を宣言して、手札に加えるか、特殊召喚する効果だね？」

「そうです！
俺は手札に加える方を選択します！」

（ふむ・・・特殊召喚できるのに、敢えて手札に加える・・・か）

炎魅子は最初は気遣いながらも、すぐに頭をデュエルに切り替える。
今まで見た三騎士に特殊召喚を制限するようなカードはなかった。
にも関わらず、敢えて手札に加える方を選択した透矢の宣言に、
そこにある『意志』を探ろうとする。

「ーー俺が宣言するのは・・・」

コストとして、墓地にいる『白銀の盾』をデッキに戻す。
墓地に『白銀の盾』はまだ２体。
アリアスを維持するには充分だ。

そして注目の宣言カードとはーー。

「ーー『三騎士 女帝の聖杖』！」

（ーー！
また、初めて聞くカード・・・それも『三騎士』ーー）

宣言するや、透矢はデッキの中身を見ることなく、光るカードを直接引き抜いた。
果たして光るカードは本当に宣言したそのカードなのか。

ーーデュエルの終わりが近付く。