千鶴の憂い　作：はにわ

　
「ーーふ～ん、確かに不思議な話よね」

「なんかおとぎ話みたい・・・」

「ああ、自分でも信じられないんだけどな」

ーー明くる日の昼。
アカデミアの学食堂でいつも通り三人で昼食をとる。
その中でふと先日のデュエルにおける透矢の奇行の話題となり、
透矢は迷った挙げ句、『ここだけの話』、と銘打って幼馴染みに真実を打ち明けた。

『お姉さん』から預かったカードがいつの間にかデッキに入っていたこと。
更にその中の１枚が意志を持ち、自分に話しかけてきたこと。

現実的に体験している自分ですら、半信半疑に近い透矢だから、
二人に話したら一笑に伏されてしまうのではないか、と恐れを抱きつつ話すも、真希も千鶴も茶化すことなく耳を傾けている。

「ね、ね！
それってさ、アレ？
『カードの精霊』、ってやつ？」

「『カードの精霊』・・・ねぇ」

真希が言った『カードの精霊』ーー。
透矢も聞いた事があった。
どのカードにも『魂』というものが宿っていて、世界にはその声を聞き、姿を見ることが出来る者がいるという。

透矢自身、その話についてはどちらかといえば信じる方であり、
そんな事が自分にも出来たら楽しいだろうな、程度に思ってもいた。

「今にして思えば前から兆候、みたいなものはあったんだ」

「なによ、兆候って」

「ほら、俺、デュエルで勝ったりするとつい、モンスターに向かってお礼とか言ってたんだけどさ。
そうすると、みんな表情とかで反応示してくれてたからさ」

「わぁ、それってなんか素敵だね、お姉ちゃん！」

「う～ん・・・あたしにはそんな経験ないなー」

「ま、それも『お姉さん』からこのデッキをもらってからなんだけどさ」

端から聞けば、何とも信じがたいオカルトな話。
千鶴は素直な反応を示すが、真希は半信半疑のようである。
いや本来なら、頭から信じてくれないのが普通であろうから、
理解しようとしてくれる二人はやはり、透矢にとって何でも話せる存在である。

「ーーでさ、結局その『お姉さん』って何者なの？」

「名前も教えてもらってないしなー」

やはり原点はそこだろうか。
不思議な雰囲気を持つ『お姉さん』とは何者なのか。
何故、透矢に自らのデッキを託したのか。
名前など個人の情報から始まり、すべては謎に包まれている。

「私も会ってみたいな」

千鶴が呟いた。

「だってお兄ちゃん、その人のこと凄く好きなんだ、って分かるから」

「す、好きって、千鶴！
べ、別に俺はそんなんじゃ・・・」

「あはは、お兄ちゃん、顔赤いよ？」

「ホントだ！
あはは、照れちゃってキモーい！」

「き、キモいって言うな！」

千鶴のある意味、本心を射る言葉に透矢は動揺した。

だがしかし、落ち込んでいた自分を励まし、今のデッキと出会わせてくれた『お姉さん』は、
例えその存在が謎だとしても、彼にとって大きな存在なのかもしれない。


「ーーところでさ、デッキの調整は大丈夫なの？」

「まぁな。
何とか形にはなったよ」

それぞれ食事をとり終えて、腹休みをしていた中でまた真希が話題を切り出した。
迫る、デュエル・キラーとのデュエル。

「確か、向こうからメールしてくるんだっけ？」

「そうらしいけどな」

表向きは最後の四天王・風紀委員と透矢のデュエル。
だがこれは風紀委員側の都合、という名目で非公開デュエルとなる。
生徒たちには結果だけが伝えられることになる。

かくして肝心のデュエルの日取りだが、直前に風紀委員が透矢にメールをするという。
これは他の生徒たちに悟られないようにするための配慮だそうだ。

「観客なし、正真正銘の一対一のバトルかぁ」

「お兄ちゃん・・・大丈夫？」

「大丈夫だよ、心配すんな」

「でも・・・」

観客なし、とは正にそのままの意味であり、今回は会長の刹那ですらデュエルを見ない。
無論、審判もつかない。

一対一のバトル。
ただ二人きり、というのが千鶴の不安を駆り立てる。

「向こうだってこのアカデミアの生徒でデュエリストには違いないんだ。
デュエリストが二人きりでデュエルするだけの事さ」

「まぁ、それならいいんだけどね」

真希も口には出さねど、やはり不安そうである。

「ーーで、勝てそうなの？
前に戦って、相手のデッキは知ってるのよね？」

「まぁな。
でもあからさまな対策は立ててない。
自分らしくデュエルする、それだけだよ」

「ま、あんたらしいけどね」

「え？
お兄ちゃん、前にその人とデュエルしたの？」

『ーーあっ』

透矢と真希の声が重なる。

透矢がデュエル・キラーとデュエルしたのは、真希は知っているが、
千鶴には無用な心配をさせないように、と敢えて言ってなかったのだ。

もちろん口に出してしまった以上は観念するしかなく、二人は気遣いながら千鶴にその事を話した。

幸い、千鶴は怒ってはいない様子ーーだったのだが。

その話をしてから、どこか思い詰めた表情をしていたのが二人には気になっていた。