水花の過去　作：はにわ

　
ーー保健室。
透矢によって担ぎ込まれた水花は、すぐさまベッドに寝かされて養護教諭の診断を受けた。
その結果、急激な疲労に貧血が重なった事により、一時的に意識を失っているだけ、という診断が下される。

このまま寝かせておけば、時期に目を覚ますだろう、という事であるが、
刹那が大事を取るべく配慮をきかせ、家の車を呼んでくれるという。
十分から二十分ほどで到着の見込みであり、それまでは透矢と刹那が水花を診ることになった。

「ーー大丈夫よ、透矢くん。
水花は気を失ってるだけよ。
すぐに目を覚ますだろう、って養護の先生もおっしゃってたでしょ？」

「・・・はい、そうっすよね」

水花が横になるベッドの傍らに椅子を並べて座る透矢と刹那。
眠るように目を閉じている水花が心配な様子の透矢に、刹那が声をかける。
水花の胸はゆっくり起伏しており、表情は安らいでいる。
確かにただ疲れて寝ているだけにも見え、傍目からすれば心配ないように思える。

「それにしても透矢くんって行動力あるのね」

「へ？」

「水花が取り乱した時も、倒れた時も。
真っ先に走って介抱してくれて、判断も早かったし」

「いや、別に普通ですよ」

「ううん、普通、あんなことを目の当たりにしたらパニックになってると思う。
ーー透矢くん、頼り甲斐があるのね」

「そんなことないっす。
ーー水花が倒れたのは俺のせいですから」

透矢の動きは確かに迅速だった。
それを褒める刹那だったが、透矢は首を振って否定する。

「やっぱり何がなんでもデュエルを中止するべきだったんだ。
水花の様子がおかしいことに気づいてたのに・・・」

透矢は養護教諭に診断を受けたときにも呟いた言葉を再び口にする。
水花が倒れたのは、自分がデュエルを続けようとしたからだ、と嘆いているようだ。

「ううん、透矢くんは悪くないわ。
私があのデュエルを続けさせたのよ」

「会長、さんが・・・？」

打ちひしがれるように己を責める透矢の肩を、慰めるように手を置く刹那。
刹那は自分も早くから水花の様子がおかしいのには気づいていて、炎魅子や地影にも止めるよう進言されながらも、強行させた旨を偽りなく話した。
クロエにもその旨の指示を送っていたのだ、という。

「そっか・・・それでクロエ先生もーー。
でも会長さん、どうして止めなかったんですか・・・？」

刹那を非難するわけではないが、透矢が訊く。
もし止めてくれたなら、自分も迷うことなく中断しただろうに、と。

すると刹那はその問いに答えにくいのか、あるいは答えようか迷っているのか。
いずれにしても少し考えるようにしてから、口を開いた。

「それは・・・ね、透矢くん。
君が水花の心にしまいこんでいるものを、引っ張り出してくれる、とそう思ったからよ」

「水花が心にしまいこんでいるもの・・・？
何ですか、それ？」

「私は知りたいの。
水花の『過去』を。
そこに隠された真実をね」

語り始める刹那。
しかし現時点では、刹那の言わんとすることが透矢には理解できない。

「この間水花の両親のことに少し触れたと思うんだけど・・・」

「確か、事件に巻き込まれたとかでーー」

先日、確かに聞かされた水花の境遇。
すると刹那の表情は険しくなり、透矢が思わず身体を震わせる。

「実は・・・ね、私はただの事件ではないと思っているの」

「ただの事件・・・じゃない？」

「透矢くん、今から話すことは誰にも話しては駄目よ？
今回、透矢くんを思いがけず巻き込んでしまったから話すけど・・・」

「わ、分かりました」

他言無用、と釘を刺す刹那。
その射抜かれるような視線に、透矢の緊張は一気に高まる。

一体、刹那は何を語るつもりなのか。
水花の過去。
刹那が知りたがる真実とは。