キー・カード２枚目　作：はにわ

　
ーー話をしていて、更にそれに集中していたからだろう。
時間はあっという間に過ぎ去り、養護教諭が、刹那に迎えが来たことを知らせてくる。
刹那はそれに頷くと、透矢と向き合った。

「ーーじゃあ、透矢くん。
今日はお疲れ様。
こんなことになってしまったわけだけど、生徒会大戦２連勝ね」

「あ、まぁ・・・そういえばそうっすね」

「ふふ、私が会長になってから、ここまで勝ち抜いたのは君が初めてよ？
君に期待している私も、益々鼻が高いわ」

刹那が今日の『勝利』を絶賛してくれるものの、透矢は喜べない。
水花がこんなことにもなったのもそうなのだろうが、そもそもデュエルはまだ途中だった。
確かに水花は最後に負けを認めていたがーー。
むしろ、倒れる間際に負けを宣言した少女の、デュエリストとしての姿こそ、評価されるべきなのかもしれない。

ーー空しそうに、遠い目をしたままの透矢に、刹那は懐から取り出したカードを差し出す。

「はい、透矢くん。
これは君が持っていなさい」

「これは・・・」

手渡されたカード。
それは『凍獄龍 ゼロ・プリズナー』のカード。
思えば今日の透矢のデュエルはこのカードとの戦いでもあった。

「さっき水花のデュエル・ディスクから抜いておいたの。
地影の『四龍』カードと、水花のこの『四龍』カード。
合わせて２枚目ね」

「別に今じゃなくてもーー。
それにこれは水花の・・・」

「大丈夫よ。
このカードは元々学園の物だし、
それに水花のデッキはこれが無くなったからといって、潰れてしまうような柔なデッキではないもの」

刹那の言葉に頷く透矢。
確かに今日の水花は『ゼロ・プリズナー』をメインとした戦い方をしていたが、
その戦い方を見れば、『ゼロ・プリズナー』を手に入れる前のデッキもかなりレベルが高いものだったろうことは予想に難くない。
それは地影も同じである。

「受け取って、透矢くん。
君にはその資格がある」

更に前に差し出してくるそのカードを透矢は遠慮がちに受け取った。

２枚目のキー・カード。
地影から受け取った『エニグマン』は家に大事に保管してあるが、それと合わせて２枚目。
そして残りも２枚。
透矢は生徒会大戦において、折り返し地点に立ったのだ。

透矢が受け取ったのを見て、満足そうに笑う刹那。
すると席を立った刹那は、ベッドで眠る水花そっと身体を起こし、あまり衝撃を与えないように気を付けながら、背におぶらせる。

はっとした透矢も席を立つ。

「会長さん、俺も手伝いますよ！」

「ううん、私にやらせて。
元はといえば私が無理をさせたのが原因だから」

「でも・・・」

「水花はね、私にとって大事な存在だから。
だから私が責任もって連れていきたいの」

手を差し伸べる透矢を、やんわりと振り払いながら笑顔を見せる刹那。

その優しい笑顔を見て、透矢はまたふと考えてしまう。

ーー今日の朝に聞かされた生徒会が主導しているという『デュエル・キラー』の話。
デュエルで負かし、問題を起こした生徒を退学に追い込むという、強硬な手段を採るという刹那。
また凌斗の時を思い出せば、負けた彼に対する刹那の態度は正に容赦がなかった。

刹那は厳しさと優しさという二面性を持つ女性なのか、
あるいは優しさを振るう相手は彼女にとって、『選んだ者』のみなのか。

ーー他人に過ぎない自分に聞かせてくれた水花の過去。
そして刹那という、未だに本質が掴めない女性。

その二つを頭の中で巡らせながら、さよならの挨拶に芯のこもっていない言葉で応えながら、透矢は刹那と水花を見送る透矢。

ーーいつしか。
気付かぬ内に、透矢の中で刹那という存在が大きくなっているのに、
本人は全く気が付いていない。

透矢と刹那の宿命。
それが明らかとなるのは、まだまだずっと先の未来である。