運命のデュエル！Ｄ・Ｋの正体！④　作：はにわ

　
「ーーお兄ちゃん・・・どこ行ったのかな・・・っ」

ーーその頃、嫌な予感に駆られて透矢を追っていた千鶴は町内周辺を寝巻き姿で走り回っていた。
他の同年代の子と比べて、特に体力に自信のない彼女。
激しく息を切らし、足が言うことを聞かないのか、もはや歩くにも苦難のようである。

それでもよたよたと歩きながら、町内を抜けると、彼女の目に遠くで何かが光るのが目に映った。
千鶴はその方向へと足を進ませるが、途中で電柱に寄りかかってしまう。

「お兄ちゃん・・・」

早く透矢を見つけたいのに、あまりに体力がない自分を呪う千鶴。
疲労が鈍い痛みとして伝わり、歩いてくれない足を叱りつけるように叩き、彼女は前へと進んだ。

ーーそしてようやく公園までたどり着いた彼女は街灯に寄りかかり、ポールを揺らす。
もう何年も訪れてはいないが、小さい頃、透矢・真希と遊んだ思い出の公園。
その公園に兄の姿はあった。

「お兄ちゃん・・・っ」

街灯の光に照らされた透矢。
千鶴は見つけた事に安心したのか、疲れた表情の中に笑顔を見せた。

ーーが、その透矢に向き合うもう一人の人物。
仮面にフードマントを羽織った、見るからに怪しい人物。

「あ、あれは・・・誰？
ま、まさか、あれがデュエルキ・・・」

『デュエル・キラー』。
そう言いかけたとき、ふとその頭上に浮くモンスターを見て、千鶴は驚愕する。

「あ、あれは・・・『ミサギ』！
や、やっぱり・・・あの人はーー」

見間違えようはずがない。

ーー『疾風の女王（ハイソニック・クイーン） ミサギ』。

そのモンスターはかつて自分のもっとも愛する人物が、エース・モンスターとして、
そして勝利をもたらすキー・モンスターとして起用していたのだ。

だがミサギはその召喚条件の厳しさ、そしてその能力故に、大きくデッキを制限するため、
プロデュエリストですら使う者を見たことはない。

千鶴にとって、あのミサギを自在に使いこなせる人物は彼女の知り得る限りたった一人である。

それはーー。

「ーーお兄ちゃん！」

ーー公園の入口に走り立ち、千鶴は叫んだ。

「えっ？！
ち、千鶴？！
ど、どうしてお前がここにっ？」

自分のターンを迎え、カードをドローし、ミサギをどう攻略するか、と考えていた矢先の出来事。
思ってもみない千鶴の登場に透矢は驚く。

そして『彼』もまたーー。

（ち、千鶴、ちゃん・・・）

心の中で動揺するデュエル・キラー。
彼とてこの千鶴の乱入は想定外であるが、それ以上にこの姿を見られた事に衝撃を受けたのだった。

「千鶴、お前、そんな格好で・・・！
どうしてこんなところに来たんだよ？」

「ーーお、お兄ちゃんが慌てて外に出ていくのが見えて、追い掛けてきたの！」

「馬鹿・・・んなのわざわざ気にすることもないだろーに！
いいから、早く帰れ！
おばさんやおじさんが心配すんだろ？！」

「ーー嫌っ！」

「ち、千鶴・・・っ？」

あの大人しい千鶴が険しい表情で大声を上げたのが意外だったか、透矢は一瞬驚かされる。

「お兄ちゃん・・・やめて。
その人と・・・戦っちゃだめだよ」

「え？
なんだよ、戦うなって」

「だって・・・だって、その人はーー」

「ーー待て！」

千鶴が何かを言いかけたところで、デュエル・キラーの怒号にも似た声が千鶴を震わせた。

「ーー確か、お前は１年の鳴瀬千鶴、だったな」

「あ・・・っ」

「このデュエルは生徒会大戦の真剣勝負だ。
これ以上の邪魔や横やりは許さん」

「・・・」

「そいつの言うとおり・・・早く帰った方がいい。
もう時間も遅いのだからな」

千鶴を諭すように言うデュエル・キラー。
透矢もそれに頷きながら千鶴を見た。
まだ暖かい季節とはいえ、夜になれば涼しい風も吹いている。
寝巻き姿なんかで外にいて、身体が強い方ではない千鶴が風邪でも引いたら大変だ。

だが千鶴はそのデュエル・キラーの言葉で何かの決心を深めたのか。
引き締めた表情で視線を返してきた。

「ーー私、帰らない！
このデュエルを最後まで見届ける！」

「千鶴・・・っ」

「お兄ちゃん、お願い・・・」

必死の表情で懇願する千鶴。

ーー自分を心配してくれているのだろうか？

いや、それもあるだろうが、それ以上に深い思いがあることを透矢は見抜いていたものの、それが何かまでは分からない。

迷った末、透矢は決断した。

「・・・分かったよ」

「お兄ちゃん・・・！」

「そこで見届けてくれよな、俺が勝つところをよ！」

「う、うん・・・」

透矢は力強く応えたつもりだったが、千鶴の表情は暗い。
何かの不安を抱えているような表情だ。
それも気のせいかーーと、思い直し、透矢はデュエル・キラーと向かい合う。

「良いだろ？
俺が負けた場合も、千鶴には黙っててもらうからさ」

「・・・」

千鶴の意志を確かめてはいないが、そう語って千鶴の観戦に同意を求める透矢。
するとデュエル・キラーはうつむき加減に考えているようだ。

（ーーもう、本当に覚悟を決めるしかない、かーー）

デュエル・キラーは千鶴を見ながら心の中でそう呟いた。
こうなってしまった以上、もう逃げることは出来ない。
それが今までの自分の行いに対する責任というものなのだろう、と。

「ーーよかろう」

デュエル・キラーも同意した。
透矢がそれを見て、千鶴の方を向くと、公園内に入るように促す。
そして自分の脇を通りすぎる時、千鶴は既にワイシャツを羽織っていたが、それだけじゃ足りないと更に自分が着ていたジャケットも貸してやる。

シャツ一枚になった透矢を気遣い、大丈夫だ、と千鶴は訴えるが、
デュエルでこれからヒートアップするからいらない、と透矢は笑いながら更に突き返した。

まだ温もりが残るそのジャケットを抱き抱えるように受け取った千鶴は、そのまま公園の左側にあるジャングルジムを背にして佇む。

「よし・・・んじゃ、再開といくか」

「ーーああ」

千鶴に１度笑顔を見せた透矢は、中断したデュエルを開始させる。
デュエル・キラーもそれに小さく頷いて応えた。

かくして本来、一対一のデュエルのはずだったこの場に、千鶴という観客を置いてデュエルは再開した。

だがその千鶴の不安げな視線。
それは透矢にではなく、デュエル・キラーに大して向けられていたのである。