生徒会書記 朝霧地影②　作：はにわ

　
「ーー説明は以上です。
何か質問はありますか？」

「要は生徒会メンバー全員をデュエルで勝てばいいってことだよな」

「はい。
私たち四天王と呼ばれている四人に勝った場合に、その証明としてカードを渡します。
集めた４枚のカードを刹那さんに提示すれば、刹那さんに挑戦する権利が得られます」

ーーその日の放課後。
透矢はまだ生徒がまばらに残る教室にて、生徒会大戦について地影から説明を受けていた。

会長・刹那と戦うには生徒会四天王を倒さなくてはならないこと。
刹那との決戦の際は、体育館のデュエルリング、全校生徒が見てるその前で行われるのだという。
透矢側は一度負けた時点で終了。
３ヶ月間、生徒会大戦に再挑戦することは出来ない。
生徒会大戦は確かにただ勝ち抜けば良い、と単純ではあるが、
単純故に困難な道でもある。

ちなみに刹那が会長になってから挑戦者は二十名弱。
そのいずれの生徒もーー。

「ーー私で終わりです」

そう、１番手の地影を越えること敵わず。
色んな種類のデッキを相手にしながら、揺るがない地影の牙城。
地影もこのアカデミアにおいて、正に最強クラスのデュエリストなのである。

「で、いつやる？」

にっ、と笑いながら持ちかける透矢。
今の地影の武勇伝を聞いて、全く気押されがない様子だ。

「・・・明日の放課後でしたら時間があります」

地影も特に気にする様子もない。
あるいは地影にとって透矢も、今まで苦もなく倒してきた挑戦者と何ら変わらないのかもしれない。

とにかく透矢の第一戦、地影とのデュエルは明日の放課後、ということになった。

「ーー遊戦名くん、私から１つ聞きたい、というか確認したいのですが」

「え、何？」

「遊戦名くん、本当に生徒会大戦に挑むんですか？」

心なしか厳しい視線が透矢を捉える。

「当たり前だろ。
でないと、流石を助けられないし」

「確かに流石くんの処分については私も行き過ぎだと思います。
ですが、そうして遊戦名くんがやろうとしていることは、権力で決まりをねじ曲げる事ですよ？」

「・・・そっか、そうだよな」

地影に指摘されて透矢は考え込むようにする。
流石を助けるために参戦、というのが大義名分ではあるが、裏を返せば権力の濫用である。

「それに、あなたがもし刹那さんに勝つようなことになれば、その瞬間からあなたが生徒会長なんです」

「・・・」

「遊戦名くんに務まりますか？
このアカデミアに来て、まだ１ヶ月の遊戦名くんに生徒の代表になるという大任が」

「そう・・・だな」

刹那に言われ、半ば勢いでこの生徒会大戦に参戦したが、地影の言うことは物事の倫理というものを訴えている。
流石を助けたあとで、自分には務まらないから辞める、などという勝手な事は出来ないのだ。

「刹那さんは強引な手口を取ることはありますが・・・私は刹那さんが生徒会長に相応しいと思っています」

ーー神楽坂刹那。
生徒会長になってから彼女は、このアカデミアにおいて様々な改革を行ってきたという。
その全てはとても言い表せることではないが、一番分かりやすい実績として、アカデミア全体のデュエリストのレベルが飛躍的に向上した事が挙げられる。

「私にとって刹那さんは憧れなんです。
デュエリストととしても、人間としても、そしてーー」

刹那の事を語りながら最後にそう言い綴った地影。
全ては言わなかったが、地影がいつも端末を片手にしながら仕事に励む理由がそこにはあったのである。

透矢は押し黙ったまま、答えを出すことは出来なかった。
地影を納得させられるような言葉も無ければ、覚悟もない。
透矢は軽い気持ちで挑もうとしていた気持ちを、戒めさせられる事となった。

「ーーまだ遅くありません。
明日の放課後、遊戦名くんの答えを聞かせてください」

「・・・分かったよ」

「それでは私はこれから生徒会のお仕事がありますので」

考え込んだままの透矢を置き去りに、地影はそう言ってその場から離れようとした。
だが、不意に足を止めると、透矢に背を向けたまま話し出した。

「ーーそういえば千歳さん、熱を出して寝込んでいるみたいですね」

「あ、ああ・・・」

「お見舞いには行くんですか？」

「この後、行くつもりだけど」

「そうですか。
ーーお大事に、と一言伝えて下さい」

「ああ、ありがとな」

それだけ言って再び歩き出す地影。
お大事に、と言った時の地影の寂しそうな笑顔。
それが見えた透矢は、その事が妙に印象に残るのだった。