刹那とのデート それを追う者　作：はにわ

　
ーーそして翌日、日曜日の朝。
時間に余裕を持って支度を済ませた透矢。
結局いつも真希や千鶴と一緒に出かける時と同じ服装で、出かける事にした透矢。
その他に所持金を多目に持った事以外に、変わったものと言えば、刹那の指示で『四龍』カードを持った事ぐらいか。
先日、真希から最後の『四龍』カードを手にして揃った『キー・カード』。
このカードが刹那に挑むために必要な『証』であることは知っているが、何故今日それを持っていかなければならないのか。
それは刹那に会ってみなければ分からない。
４枚のカードをカードホルダーに入れ、更にそれを腰のポシェットに入れた。

「よし・・・行くか！」

まるでこれから強敵とのデュエルを控えたような気合いの入れようの透矢。
ただ透矢が未だに刹那を名前で呼ぶのを躊躇うあたり、彼も刹那を単なる同世代として見てはいないのだ。
そんな刹那と今日は二人で出かけるーー。
今の喝は緊張した自分をほぐす意味があった。

ーーそうして家を出た透矢。
就職の面接試験にでも行くような固い表情で、透矢は足を進めた。

しかし背後にそんな透矢を追う影が二つーー。

「ーーね、ねぇ、お姉ちゃん・・・やめようよ。
やっぱり良くないよ、こういうの・・・」

「何、言ってんの、千鶴ちゃん！
透矢の事が気になんないの？」

「気になるけど・・・でもぉ」

「刹那ったら、透矢とどこに繰り出そうってのよ？
この眼で確かめてやるわ・・・」

「大丈夫かなぁ・・・私、すごく嫌な予感するよぉ」

季節外れのロングコートに、ベレー帽、サングラスを付け、電柱に身を隠す二人の内の一人。
怪しいその人物の正体はーー？

「あら、真希ちゃん？
どうしたの、そんな格好して」

「しーっ！
ちょっと、おばさん、あいつにバレちゃうじゃない」

「お姉ちゃん・・・その姿見られたら、おばさんじゃなくてもバレるよ・・・」

町内の懇意にしているおばさんに話しかけられたコートの人物。
その正体は真希。
そしてそれに付き添う、いや付き合わされる千鶴。

透矢と刹那が二人きりで出かけるということで、真希は大胆な行動に出た。
ーー尾行である。

千鶴は止めるように説得したのだが、結局は自分自身にも少しある好奇心にも押されて、真希の横暴を許してしまった。
千鶴は真希と共に透矢をつけながら、大きな不安を抱えずにはいられなかった。


ーー駅から電車を乗り継いで、約束の場所へと赴いた透矢。
まだ朝方だというのに日曜の繁華街は、やはり人の密度がかなり濃い。
刹那はもう来ているのだろうか、それともまだか。
待ち合わせに指定した噴水広場の周辺をうろつき、その姿を探してみる。

「さすがに人が多いわね・・・見失わないようにしなくっちゃ」

「会長さん、まだ来てないのかなぁ？」

真希、千鶴もやはり同じ電車を乗り継いで、この地に足を運んでいた。
人通りの多さが逆に自分達を覆い隠してくれているが、反面見失うリスクもはらんでいる。
二人は付かず離れずの構えで、透矢の動向を見守った。

ーーそんな時、ふと、ある二人の人物と目が合う真希。
お互いに既視感のある顔立ち。
しばらく見つめ合った後、互いに気付いたのだった。

「ち、千歳さん？！」

「ち、地影！それに・・・炎魅子先輩！」

「あっはっはっ！
お前、真希か？
何だよ、その格好！」

「し、しーっ！
こ、声が大きい、先輩！」

なんという偶然だろうか。
あるいは気付かずにすれ違っていたかもしれない二人の正体は、炎魅子と地影の組み合わせだったのだ。
真希の格好を見て、素直に驚く地影、大声で笑う炎魅子。
真希は慌てて二人を自分の方へ引きずり込み、透矢の動向を見る。

「ふぅ・・・良かった、気づいてない」

「ちょいと真希！
一体何やってんのさ！」

「あれは・・・遊戦名くんですね」

透矢に気付かれていない事に安堵する真希に、炎魅子が声を荒げ、地影は眼鏡の位置を直しながら透矢の姿を確認する。
そして実はかくかくしかじかで、事情を説明する真希。

「へぇー、透矢と刹那がデートねぇ」

「千歳さん・・・尾行だなんて、さすがにどうかと思いますが」

「だって・・・気になるんだもん」

「鳴瀬は、真希に付き合わされてるってわけだ」

「私は止めたんですけど・・・」

興味を示す炎魅子に、呆れる地影。
いじける真希を見て、少なからずその心中を知る二人は、それ以上真希の行動を諌めたりはしなかった。

「よっしゃ！
あたしたちも付き合おうぜ、地影！」

「え、炎魅子さん！正気ですか？
それじゃあ今日の予定はーー」

「映画なんていつでも見れんだろ？
そんなんより、こっちの方が面白そうじゃんか！」

「で、ですが、尾行するなんてーー」

「地影は気になんないのかい？
透矢と刹那がどこでどんな事すんのか」

「そ、それは・・・」

「親友の真希のためじゃないか！
ここは協力してやろうぜ、な？」

「わ、分かりましたよ！
ただし、どうなっても私は知りませんからね！」

「地影、先輩・・・ありがとう！」

がっちり手を握り合う真希、地影、炎魅子の三人。
かくして地影と炎魅子は急遽、休みのお出掛けの都合を潰し、真希に付き合うことになったのだった。

「大丈夫かなぁ・・・益々、不安だよぉーー」

千鶴はただ一人、不安な思いを更に募らせるだけだった。