会長 神楽坂刹那の憂鬱　作：はにわ

　
「ーーはぁ・・・困ったわ」

ーーとある日の夕方、生徒会室。
整頓された、黒壇の大きな特注の机。
柔らかい座り心地の背もたれの付いた椅子に、深々と身体をあずけた会長・神楽坂刹那は大きくため息をついた。
つい今しがたまで、携帯端末で誰かと話していたらしい刹那。
話しているときの険しい表情を見れば如何に大事な話であったかは一目瞭然であった。

そして話が終わり、端末を切るや、刹那のその態度である。

ーー広い室内。
入り口の向かい側にある、高級そうな素材と独特の柄を持つカーテンで仕切られた大きな窓の前に刹那のデスクは位置し、
デスクの正面、部屋の中央にテーブルを挟んで二つのソファーが向かい合うように設置されている。

「ーー『例の件』かい、刹那」

そのソファーに座る３人。
そのうちの一人である副会長・紅月炎魅子が口を開いた。
豪快な性格がそのまま出ているのか、３、４人は座れるソファーに仰向けに寝転がり、上履きを脱いで足を組み、くつろいでいる、という様子である。

「そうなのよ、炎魅子。
早く答えを出せ、って先生に急かされてしまって・・・」

「ーー今、お茶を煎れます」

「ありがとう、地影。
ちょっと渋めにお願い」

「あ、あたし、オレンジジュースね」

「水花・・・牛乳・・・」

「はい。１分４２秒待ってください」

頭を悩ませているらしい刹那を気遣い、給士係を買って出たのは、３人のうちの一人、書記・朝霧地影。
すると炎魅子も頼み、更に３人の内の最後の一人、『ギゴバイト』のぬいぐるみを抱えた女の子、蒼井乃 水花（あおいの みずか）も頼む。
地影は慣れているのか、三者違うメニューにも嫌そうな顔ひとつせず、お盆を手に、空いたグラスを回収して、
部屋の右側・入り口側に位置している簡易キッチンに向かう。
よく見ると天井に届く大きな食器棚、小さいが冷蔵庫まであり、
他にも冷暖房を始めとしてかなり充実した設備となっている。

「ーーでもさ、刹那。
例の件って言っても、後はメンバーを決めるだけだろ？
確か３人だっけ？」

「ええ」

「だったら一人は刹那で確定として、後はあたしら四天王の内の二人でいいんじゃないのかい？」

寝転がっていた炎魅子が背を起こして刹那と何かを協議する。
ここにいる刹那以外の３人は、俗に『生徒会四天王』と呼ばれるメンバーである。
生徒会としての様々な職務に関わるのは勿論だが、彼女たちの場合はそれだけでなく、デュエルモンスターズの実力も秀でている。
その抜きん出た実力に評価と畏怖の念を込めて、四天王と呼ばれているようだ。
だが四天王という割にはここにいるのは３人。
もう一人の姿はないようだが、あるいは別の職務に出ているのか。

「・・・炎魅子の言うように、本当はそれで決めちゃってもいいんだけど・・・」

指に柔らかい髪をくるくる絡ませながら、口を尖らすように刹那。

「なにさ。この件に関しちゃ、えらく歯切れが悪いじゃないか。
一体、何を悩んでんのさ」

刹那の悩み。
それは炎魅子や他の四天王もまだ知るところではないらしく、刹那が頑なに口を閉ざしているようだ。

そんな中、宣言した時間通りに地影が淹れたお茶が刹那の前に置かれる。
アンティークカップに入った刹那の注文通りの味付けが為されたお茶。
地影にお礼を言いながら、早速それを一口、苦さを噛み締めるように含む。
そしてそれを飲み干し、１つ息を付いた刹那。
その口からついに悩みが語られた。