運命のデュエル！Ｄ・Ｋの正体！⑫　作：はにわ

　
ーー夜の風に、普段はポニーテールにしていたロングヘアの髪が靡く。

遂にその正体を明かしたデュエル・キラー。
あるいは予感だったのだろうか、それは透矢がまさかと思って否定した推測の人物。

この１ヶ月半、千鶴を加えて会わなかった日はないというぐらいの大事な親友にして幼馴染み。

千歳真希である。

「真希・・・本当にお前なのか？」

「見ての通り。
双子、なんてオチはないわよ」

目の当たりにしても信じられない、という透矢に、小さく笑いながらおどけて見せるデュエル・キラーこと真希。
千鶴はそう確信した故か、いつもとは真希を見るそれとは違う厳しい眼差しの中に、哀しさを秘めてもいた。

「ま、驚くよね。
あたしがこんな格好して、潰し屋みたいな事をしてたんだからね」

ーー確かに異様な姿。
まるでデュエル・キラーという大柄の男の体格に、真希の顔だけを置いたような不自然な体型。
更に言えば足が不自然に長いかと見えれば、明らかに腕の長さが短すぎる。
今まではマントを羽織っていたから不自然に映らなかったのだ。

「この服ね、刹那が特注で作ってくれたのよ。
中から空気で膨らませてさーー」

電源を入れたままのデュエル・ディスクを１度取り外してから、首元から股下へと続くジッパーを下ろし、その服を脱ぎ始める。
その服は内に空気を入れる袋が仕込まれていて、それを膨らますことで体格の頑強な男を演出していた。
更に靴は上げ底のブーツ。

デュエル・キラーという『仮面』を脱いでいくその様はまるで変身。
因みに『男の声』は仮面の裏に施された小さな変声器を使用したものである。

そうして上げ底のブーツだけをそのままに、全ての仮面は剥がれた。
タンクトップに短パンのその姿はまさしく真希本来の身体である。

「あはは、この中、すんごい暑いんだけど、脱ぐとさすがにこの格好じゃ寒いね」

悪びれる様子もなく。
デュエル・ディスクを再び左腕に取り付けながら笑う真希。
だがそれに対して透矢も千鶴も、いつものように笑い返すことはない。

そんな露出した肌が感じる寒さ以上に、冷めた雰囲気を感じ取った真希。
ふぅ、と息をついた後で、ふと千鶴の方を見た。

「・・・千鶴ちゃん、１つ聞いていい？」

「お姉ちゃんーー」

「いつから気が付いてたの？」

「・・・」

「あたしの勘だと、結構前からだよね？」

尋ねられた真希。
千鶴は頷いた。

「・・・偶然、聞いちゃったの。
真希お姉ちゃんが、『私のために』生徒会に入った事・・・。
それを神楽坂会長とお姉ちゃんが話してるところをーー」

「・・・そっかーー。
聞かれちゃってたんだ」

「ーーど、どういうことだよ、それ！」

千鶴が話すその事実。
真希は天を仰ぐ。
だが透矢にはそれだけでは何にも分かるはずもなく、詳しくを求める。

「・・・ずっと何かの聞き間違いだ、って信じてたの。
でもお兄ちゃんから、デュエル・キラーが使っていたカードを聞いた時に確信したの。
ーー全部っ！全部っ、私のわがままのせいだって！！」

「ち、千鶴・・・？！」

己の内にある深い苦しみを、吐き出すように、あらんかぎりの声で叫び、膝を付いた千鶴。
しかしやはりそれだけでは事の全容をまるで把握できず、ただ戸惑う透矢。
一体、自分の知らないどんな秘密が千鶴に、そして真希にはあったのか。

そんな透矢に、今度は真希が冷めた表情を送る。

「ーーごめんね、透矢。
あたしたち三人の間、隠し事や嘘は無しだって言っといてーー最低だよね」

「真希・・・」

「でも知られたくなかった。
透矢にも・・・千鶴ちゃんにもーー」

真希の瞳が潤む。
必死に泣くのをこらえているかのような表情。
そんな幼馴染みの表情に、透矢も自分の中に膨れ上がるわだかまりをぶつけることは出来ない。
切れそうになる意志を必死につなぎ止め、透矢は冷静を努めた。

「真希・・・頼む、分かるように話してくれ」

とにかく知りたい。
今の透矢はそれだけであった。
真希は何を隠していたのか。
そして何故、デュエル・キラーなど演じなければならなかったのか。
その理由をーー。

「分かってる。
こうなった以上は全部話すよ。
覚悟はしてたし。
ーーでも」

粛々たる姿勢で、透矢の言葉に応じる真希。
だがそう言いながら真希はデュエル・ディスクを構えた。

「お、おい・・・真希！」

「デュエル・・・途中だったよね。
ーー続けよ。
続けながら話すから」

「馬鹿野郎！
もうお前と・・・真希とこんな形でデュエルしたくねぇよ」

透矢が怒号混じりの声を発する。
普段からデュエルを幾度も重ねてきたこの３人だが、
この見えない隔たりを埋めないままデュエルは出来ない、という透矢の気持ちであろう。

「駄目だよ。
このデュエルはあんたにとっては生徒会大戦、
あたしにとっては『けじめ』でもあるの」

「けじめ？何のだよ！」

「・・・続けよ、透矢。
デュエリストなら、デュエルを途中で放棄は出来ないはずよ？」

「・・・本気かよ、真希」

「あたしは本気だよ。
ていうか、ようやくあたしも『あたしのデッキ』で、あんたと戦えるんだもん。
こんな途中で終わらせるわけにはいかないよ！」

真希は退く様子はない。
そして自分が受けねば真希は何も話すつもりはないのだ。

ならば自分はどうするべきか。
正面からぶつかってくる幼馴染みに自分はどう応えるか。

ーー答えは１つである。

「お前がどうしてもそれを望むなら・・・俺も全力でそれに応えるしかねぇよな」

「あはは、それでこそ透矢よ！
このデッキを組み上げて・・・強くなって帰って来た透矢を見てからの夢だった！
あんたと全力でデュエルしたいってね！！」

透矢は再び気合いを高め、そして真希もそれに乗じるように気迫猛々しく言葉を発する。
だがそれでも、透矢には心にわだかまりを抱えながらのデュエル。

未だその全力の全てを見せていない真希に立ち向かえるのか。
そして真希から如何なる真実が語られるというのか。

ーーデュエルは後半戦へと移行するーー。