千鶴が知る真実　作：はにわ

　
ーーその頃、千鶴は寝巻き姿でベッドに座り、ぼんやりと窓から覗く外の風景を眺めていた。

（ーーどうしてあんなことしちゃったのかな・・・）

千鶴は己の行動を後悔していた。

お陰で大好きな真希と気まずい関係になってしまった。

（私が知らない振りしてれば・・・。
今までと変わらなかったのにーー）

ーー千鶴はずっと『ある事』を知らない振りをしてきた。
いや、『あの出来事』は自分の勘違いか、邪推であると信じていた。

だが皮肉にも先日の透矢の言葉で、それが確信へと変わった。
そして今、自分が３人でいつも一緒にいられるのは、真希のお陰だったのである。

ーーだから、そんな真希の気持ちに応えようとするならば。
『知らない振り』をしていれば良かったのだ。
そうすれば変わらぬ日常を送れたはずなのだ。
きっと真希もそう望んでいたのではないかーー。

でも葛藤があった。
今の生活が真希によって支えられているものだとしたら、本当に今のままでもいいのか、と。
だから確信したとき、自分が抑えられなかったのだ。
これ以上、真希に、お姉ちゃんに迷惑はかけたくない、と。

だが結果はーー。

ふと千鶴は携帯端末を見た。
透矢からのメールと、着信が数件来ている。

「お兄ちゃん・・・私、どうしたらいいのかなーー」

透矢に話すべきか、これも悩んだ。
だが話せば透矢の性格を考えれば黙ってはいないだろう。
それに透矢はデュエル・キラーという存在を嫌悪していた。
自分が嫌われるならまだしも、最悪、二人の仲が壊れてしまうかもしれないと考えれば、とても話せない。

千鶴は打ちひしがれたように頭を落とし、そして悩む。
自分に何が出来るのだろうかーーと。

ーーそんな時。
少し開けていた窓の外から、誰かが走るような足音が聞こえたのだ。

走る音が聞こえたからと言って、普段なら特に気にすることもない。
だがたまたまそれを捉えた耳に従うように、千鶴はまたぼんやりと外を眺めた。

「ーーあっ！
お、お兄ちゃんっ？！」

２階から覗く、向かいの家を挟んだ道路。
そこをあっという間に走り去っていく透矢の姿が、はっきりと目に映った。

「こんな時間にどこに行くんだろう・・・」

窓から身を乗り出して、走り去った方向を向く。
親に買い物でも頼まれたか、夜にジョギングでもしているのかーー。

「でも腕にデュエルディスクが付いてたように見えたけどーー」

いくら透矢がデュエル好きだとは言っても、買い物やジョギングにデュエル・ディスクは付けては行くまい。

「まさか・・・？」

幼い頃、ずっと一緒に過ごした者のシンパシーだろうか。
千鶴の中である『予感』が過った。

もしそうだとしたら放ってはおけない。
千鶴は上にワイシャツを羽織ると、寝間着のまま部屋を飛び出した。

（お兄ちゃん・・・お姉ちゃんーーっ！）

千鶴は高鳴る胸の動悸を手で押さえながら、家を飛び出す。
体力がない千鶴が息を切らしながらも全速で走り、透矢の後を追うのだった。