２ｎｄデュエル流石再び！次元竜の侵攻！⑦　作：はにわ

　
「ーーうっふふ・・・真希？
あなたの幼馴染み君は、どうやらユーモアのセンスはないようね」

「全くあのバカ・・・こっちまで恥ずかしくなってくるわよ」

ーー観客席。
真希と千鶴、そして刹那が肩を並べる一角。
その後ろの席に、炎魅子、地影、水花の生徒会メンバーが加わり、その一帯は更に近寄り難い、例えるなら聖域と化していた。

透矢の渾身のギャグを聞いた刹那は可笑しそうに笑い、真希は頭を抱えていた。

「ま、でもつまらないギャグを言うくらい、余裕があるってことじゃないのかい？」

短いスカートであるというのに、気にせず足を組んでいる炎魅子。
耳を指でほじりながら、にやにや笑う副会長・炎魅子と、上品な佇まいの会長・刹那とはまるで裏返しである。

「しかし流石くんの『次元の裂け目』によって、遊戦名くんはＴ・Ｆモンスターの特殊召喚を封じられました」

「そうね。
Ｔ・Ｆモンスターは通常、素材モンスターをフィールドに揃え、それらを墓地に送って特殊召喚するのだけど・・・。
同時にその墓地に送られたモンスターはＴ・Ｆモンスターをフィールドに維持するために必要だからーー」

「Ｔ・Ｆモンスターの特殊召喚自体は可能だけど、その素材モンスターは『次元の裂け目』で除外されちゃうから、
出しても維持できなくてすぐに帰っちゃう、ってわけね」

地影、刹那、真希が続けざまにそう口にする。
地影は左手に持った端末を耳に当て、更に腿の上に乗せたノートパソコンを右手で叩きながらの会話。
とてもデュエルなど見ていられる状況ではないが、そこは地影。
しっかり流れを追っているようである。

「ーー可愛い」

「・・・？」

そんな中、千鶴は後ろを向いて、背後に座る水花の持つギゴバイトのぬいぐるみの頭を撫でていた。
水花は不思議そうに千鶴を見ている。

「このぬいぐるみ・・・好き？」

「・・・（ふるふる）」

「嫌いなの？」

「・・・（ふるふる）」

「どっちでも、ない？」

「首、絞めやすい、から・・・」

「首、絞め・・・？」

よく見ると、水花はギゴバイトぬいぐるみの首を絞めるように抱えている。
千鶴はあっけらかんとして無表情の水花を見る。
結局、好きなのか嫌いなのかーーそれは千鶴にも分からなかったが、不意に水花に微笑みかけた。

「こっちに・・・おいで？」

「・・・？」

「おいで？」

「・・・」

手を上下に小さく振りながら水花に促すと、すこし考えた後で席を下りて、とことこと歩き、千鶴の側までやってくる。
そしてその腿の上に座ったのだった。
千鶴は嬉しそうに水花を羽交い締めにする。

「可愛い・・・」

「・・・苦しい」

ギゴバイトの首を絞める水花、その水花を羽交い締めにする千鶴、と不思議な光景。
ただ水花もそんなこと言いながら、嫌ではないようだ。

「あら・・・水花が私以外になつくなんて珍しい」

刹那が驚く。
炎魅子や地影も、自分たちにもしない行動だ、とやはり驚いている。

千鶴は可愛らしいお人形のような水花を愛でているようであるが、水花の本心は誰にも知れない。

「ーーさぁあて、あの遊戦名がどう動くか、楽しみだねぇ。
地影はどう出ると思うかい？」

「一番はやはりあの『次元の裂け目』を消す事ですがーーそれが出来ないと辛いですね」

「透矢くんのデッキは、Ｔ・Ｆモンスターの特殊召喚を狙うことに特化したデッキ。
それを封じる『次元の裂け目』を除去出来ないと、確かに厳しい情勢、かしら」

「・・・透矢」

炎魅子、地影、刹那がまた続けざまに話すのを聞きながら、真希は不安そうにデュエルリングの幼馴染みを見守る。
Ｔ・Ｆモンスターを召喚出来なければ、透矢に勝ち目は薄いーー。
普段から練習で幾度もデュエルしている真希だから、それが一番よく分かるのだ。

（まぁ・・・でも、このまま負けたりすることはないわよね、透矢くん？
あなたは久しぶりに私の胸を高鳴らせるデュエルをした、男の人なのだからーー）

刹那は情勢を巧く進める凌斗よりも、やはり透矢を見る。
そして期待している。
一体どんな方法でこの逆境を潜り抜けるのか、と。
そして再び自分を感動させてくれるのか、とーー。

（さあ、透矢くん・・・私に見せて、あなたの可能性をーー）

刹那の瞳に力が篭る。

そんな刹那の雰囲気を感じたからか。
真希は刹那をじっと横目で見据えていた。



ーーかくして、このデュエルでの透矢の２回目のドローフェイズ。

ライフにはまだ余裕があれど、今の内にこの状況を打開できる手段を見出ださなければ、本当に凌斗の次元に呑み込まれてしまうだろう。

そういう意味では大事なドローとなるそのカードはーー。

「このカードは・・・」

そのカードを見て、透矢は思わず小さく声が出る。
それはＴ・Ｆ召喚のサポートカードの一つだった。
だがーー。

（駄目だ、やっぱりあの『次元の裂け目』があるんじゃ、このカードも使えない！
かと言って、破壊できるカードも手札にない・・・）

今のドローで手札は５枚。
だがその中に『次元の裂け目』をどうにか出来るカードはない。
『次元の裂け目』が消えない限り、Ｔ・Ｆ召喚は出来ない。
凌斗のデッキはエースを欠いて、勝てる相手ではないだろう。

透矢は手札を睨みながら唸った。

「ーーどうした！
お前のターンだぞ！」

「わ、分かってるって」

「まぁ大方、状況が打開できないから困ってるんだろうがな。
でかい口叩いて、どうしようもないとはとんだお笑い草だな」

凌斗が野次を飛ばしてくる。
しかしあまり長考するのも、確かに流れを遮るから好ましくない。

（『お姉さん』ならどうする・・・？
あの人ならこういう時でもーー）

ふと透矢はこのデッキに入っているカードを託してくれた『お姉さん』に記憶を寄せる。
『お姉さん』は透矢とのデュエルにおいて、たとえ不利な状況に陥りながらも、カードの組み合わせで覆してきた。
そこにヒントはないのか。

（そうだ・・・出来ないことをやろうとしても無駄なんだ。
今、この手札で出来ることを考えるんだ）

無い物ねだりをしたところで始まらない。
今の手札で出来ることを考える、そう考えなければ前に進む道はいつまで経っても袋小路のままだ。

そこで再びさっきドローしたカードに目を遣る。

（あ・・・！そうだ。
まだ方法はある。
たとえ『次元の裂け目』があってもＴ・Ｆ召喚する道がーー）

透矢は気付いた。
そう、『お姉さん』はカードの組み合わせで不可能に近いコンボを可能にしていた。
如何にカードとカードを繋ぐか、それが大事なのかもしれない。

（でもまだ引けてない・・・。
千鶴にもらった『あのカード』がーー）

お昼休みに千鶴にもらったカード。
それがあればコンボを完成できる。
だが現在、それはない。
しかし打開手段を見いだせたのなら、それに向かって今から動くことは出来る。
霧の中をただ宛もなくさまようよりは、その中に見えた一点の光を目指す。

（しかも、あるぜ・・・『次元竜』の弱点を突くＴ・Ｆモンスター・・・。
その元となるモンスターが！）

そう、今回は単なる無い物ねだりではない。
透矢が導いた道。
そのゴールとなるＴ・Ｆモンスターが『次元竜』の弱点を突くカードとなっている。
そして『次元の裂け目』を掻い潜りーーいや、ある意味では利用し、繋げるためのカードたちが手札にはある。

後は足りないそのカードを引き寄せられるか。
それはドローの運次第だが、透矢はそんな不安はない。
人事を尽くして天命を待つ。
いや、きっと引けるはず。

透矢はついに動いたーー。