ｖｓＤ・Ｋ！ １ターンキルの恐怖！⑦　作：はにわ

　
「ーー出でよ、風を司る神の化身ーーっ。
『疾風の女王（ハイソニック・クィーン） ミサギ』！」

『女王の大翼』の効果で、疾風・砕破・烈風の３体の乙女が生け贄となり、今、ここに誕生しようとしている。
デュエル・キラーが持つ、最強のモンスター、風を司る女王がーー。

一際強く、そして荒ぶるような風が体育館全体を揺るがす。
透矢は吹き飛ばされぬよう身体を踏ん張らせ、裂くような風から顔を庇いつつ何とか正面を見据える。

するとデュエル・キラーの前に現れたうねる竜巻が一本、地上から天井へと突き抜けている。
やがてその内に巨大な影が１つ浮かぶと、竜巻は突如弾け飛ぶように霧散し、影の正体が露になる。

「あ、あれが・・・奴の、エース・モンスター・・・？」

赤黒い羽根で覆われたロングコートのような衣服に身を包む、長身の逞しい女性。
腰まで伸びた灰色の髪からは二対の角が天に向かって真っ直ぐ伸び、背中からは巨大な翼が、片方に三対ずつ生えている。
手には、先が鳥の嘴を象ったような切っ先を持つ槍が握られ、
つぶらな瞳が透矢を睨み据えるのと同時にそれを力強く振りかざした。
それだけで、再び地上から伸びる竜巻が三本、形成されたのだった。

「これが疾風の女王 ミサギ！
お前ごときを倒すには過ぎたモンスターだが、まぁいい。
良く目に焼き付けておくが良い」

「ち、ちくしょう・・・！」

ミサギのレベルは８、攻撃力は２５００。
その恐るべき能力は今回、発動されることはない。
何故なら透矢の場には何もなく、ミサギの攻撃を防ぐ術などないからだ。

「覚悟はいいか、遊戦名・・・」

「・・・とっとやれよ！
俺の・・・負け、だ！」

「ほう・・・潔いな。
今まで俺が葬ってきた奴は、決まって泣きわめいていたがな」

「ーーそうやって、弱い者いじめして・・・何が楽しいんだよ！」

「楽しいさ。
風紀を乱す者、秩序を乱す者をデュエルで嬲り、そして『合法的に』、退学に追い込む。
その度に俺の気分は晴れやかになるのさ」

「て、てめぇ！」

「ーーさて、おしゃべりはそこまでだ。
ミサギで遊戦名、お前に止めのダイレクトアタックだ！」

透矢は迫る最後の攻撃を前にして、未練、悔いが心に溢れ返る。

自分もまた、１ターンキルで沈められてしまうこと。

デュエルを続ければ負けることはある。
だから敗北は敗北として受け入れはする。

だが、このデュエルは勝ちたかったーー。
勝って己のデュエルに懸ける熱い思いを証明したかったーー。

透矢はミサギが突きつけた槍の切っ先を見つめながら、歯を食い縛る。

ーー俺は、負け、たんだーー。

「ーーそこまでだ！！
そのデュエル、ストップだよ！」

ーー不意に透矢の背後から響いた声に透矢が、そして仮面で表情は分からないが、恐らくデュエル・キラーも、驚きながらその方向を見る。

すると入り口のほうから早足で進み寄ってきたのはーー。

「ーー紅月、先輩・・・？」

「・・・」

透矢がその名を呼び、デュエル・キラーはどもるような息を漏らす。

今、正に終わりを告げようというデュエルに待ったをかけたのは炎魅子。
透矢の前に立った彼女は、デュエル・キラーと真っ直ぐ向かい合ったのだったーー。