風紀委員＝デュエル・キラーという存在　作：はにわ

　
ーー炎魅子と透矢の決戦の翌日。

透矢、真希、千鶴がいつも通りにアカデミアに登校すると、
キャンバスの脇で珍しい光景を目の当たりにする。

体操着にジャージを履いた炎魅子が、草むしりをする姿である。

「ーーよぉ、お早うさん、三人とも」

周囲の目を引く中で、透矢たちが近づくと、首に巻いたタオルで汗を拭いながら炎魅子は変わらぬ笑顔を見せた。

「先輩・・・早速、『今日から』ですか」

「ああ、これかい？
ま、しゃあないね。
これでも罰にしちゃ軽い方さ。
いい運動にもなるしね」

透矢が訊くと、炎魅子は照れ臭そうに笑う。

ーーあの後、炎魅子に対する処分が気になった透矢が生徒会室を訪ねると、
ちょうどその場で彼女に刹那の口から処分が言い渡された。

内容は『一ヶ月間の奉仕活動』。
具体的には本来用務員が務めるアカデミアの清掃関連、先生たちの雑務を手伝える範囲でそれを担う、というもの。

処分はそれだけで、副会長の座を追われる事は全くない。

罰には違いないが、副会長を辞める辞めないの話に比べればかなり軽いと言えるだろう。

透矢も内心、ほっとしたのだった。

「ああ、透矢。
朝、生徒会室に顔出せってさ。
次の生徒会戦について話したいから、って刹那が言ってた」

「了解です。
じゃあ今から行きます」

まだ時は浅いが、呼び慣れたように透矢を名前で呼ぶ炎魅子。
デュエルを通じて一歩踏み込んだ関係になれた二人は、表情にも全く緊張がない。

「炎魅子先輩、俺に手伝える事があるんならいつでも。
元は俺のために、先輩が・・・」

「気にすんなよ。
あたしが勝手にやった事だ、って言ってるだろ？
透矢は次のデュエルに集中してりゃいいのさ」

「次のデュエルーー」

嗜めるように言われて、透矢は表情を引き締める。
次の相手は、恐らく刹那と戦う上で最大の障壁ーー。

「頑張んな、透矢。
応援してるからさ」

「ーーはい！」

炎魅子の再度の激励に、透矢は力強く頷く。
炎魅子からもらった秘策のカードを手に、透矢は迫る強敵との戦いに気合いを強めていた。



ーー生徒会室。

真希、千鶴と別れた透矢は一人訪れた。
小さく笑顔で迎える地影。
透矢を見るなり駆け寄ってくる水花。
もはや慣れたように室内に踏み込んだ透矢は、水花をあやしながら刹那の机の前に立った。

「おはよ、透矢くん」

にっこりと、見る者を惑わす笑顔を作る刹那。
ただしこれも透矢は慣れている。

「ーー会長さん」

「あら、なあに？」

「炎魅子先輩のこと、ありがとうございます！」

「あらあら、困ったわ。
透矢くんにお礼を言われるような事はしてないけど」

透矢は会長とは言え、同年齢の刹那に深々と頭を下げた。

「もし、俺のせいで炎魅子先輩が副会長辞めさせられてたら、どうしたらいいか・・・」

「ふ～ん、いつの間に炎魅子の事、名前で呼ぶようになったのかしらね」

「えっ・・・ダメっすかね」

「そう言えば炎魅子も『透矢』、って名前で呼んでたわね。
私なんて未だに名字ですら呼んでもらえないのに」

「う・・・こだわりますね」

「こだわるわよ。
名前で呼び合える、って大事な事なことなんだから」

だがこういう話になると、やはりペースを乱される透矢。
刹那の悪戯な笑みが憎らしく見えてしまう。

「ーーふふ、まぁいいわ。
時間もないことだし、さっそく本題に入るわね」

「は、はい」

深みに嵌まる前に解放してもらえた透矢。
本題、すなわち次のデュエルについての話に移る。

「次の対戦・・・最後の四天王だけど、その正体については分かってるよね？」

「ーーデュエル・キラー」

「そう。
正確には風紀委員なんだけどね」

風紀委員ことデュエル・キラー。

デュエルで負かした相手に、生徒会長・刹那の名のもとに退学を言い渡す過激な役職。
その存在を知る者は一部の人物と、退学を言い渡された者のみ、という言わば影の執行人。

その人物を先導するのは言うまでもなく会長・刹那だが、特に感情を表すことなくいつもの澄まし顔で淡々と語る。

「一応、デュエル・キラーっていう存在は秘密の扱いだから、
今まで通り体育館で観客を揃えてデュエル、って訳にはいかないの」

「噂になってますけどーー」

「表向きは著しく風紀を乱した者に対する、私からアカデミアを通しての退学通告、という事になってるから。
デュエル・キラーはあくまで『影』の存在なの」

「デュエルで負かす事に・・・意味はあるんですか？」

「う～ん、強いて言うなら『罰』かしら。
やはり悪い事をした人には罰を与えないと」

「罰・・・ですか」

「そう。
いかに自分のデュエルが疎かになっているか、身にも染みるでしょうし」

透矢の表情が険しくなるが、刹那は余裕の態度を崩さない。

さらにデュエル・キラーという存在が噂程度に留まっている今が丁度良い、とも語る。
デュエル・キラーが誰なのかが分からないように、風紀委員が誰なのか、それもまた虚ろな存在。

つまり生徒に紛れて監視が日夜行われている、という『見えない恐怖』を刷り込むのも刹那の狙いである。

「ま、『デュエル・キラー』についてはもし透矢くんが会長になったらまた考えて？
・・・まぁ、私は変えるつもりはない、とだけはっきり言っておくわ」

「・・・分かりました」

両手で顎杖を付きながら、挑戦的な表情で語る刹那。

透矢はそれに応えるように厳しい視線を送るのだった。