運命のデュエル！Ｄ・Ｋの正体！⑦　作：はにわ

　
（ーー今の失敗はかなり痛かったな）

「・・・ラグナシア」

ーーターンエンド直後。
透矢の頭の中に、女帝の声が響いたのだった。

（私を召喚し、私を突攻させ、ヴァルバレアに我が力を託せばお前は勝っていたわけか）

「・・・そうなるな」

（結果論だがな。
お前の判断も間違いとは言えまい）

「・・・済まない」

（いつまでも過ぎたことを気に病むな。
今は、いかに次のターンを凌ぎきるか、それだけに集中しろ）

「ああ・・・分かってる」

（相手にとっても、このターンはお前を倒す絶好のチャンスなのだ。
逆にそれを凌げれば、奴もペースを乱すはず）

「凌げれば・・・な」

言い回しはややきついものの、女帝は引きがちな透矢の心を励ましてくれているのだろう。
透矢もそれに気付き、心強い声援として心に留めていた。

（これだけは言っておく）

「ん？」

（我らは例え死しても、その力は失われない。
必ずお前の助けとなろう。
ーー最後まで諦めるな、透矢）

「ーーああっ！」

透矢は力強く頷いて女帝に応える。

ライフは半分。
こちらの最後の砦である『影縫いの微刃』も『ミサギ』の攻撃力に大きく劣っている。

ーーだが必ず活路はあるはずだ。
透矢はそう自分に言い聞かせ、じっとチャンスを待つ。

「ーー俺のターン、ドローだ」

ーーそしてデュエル・キラーのターンが始まった。
新たなカードをドローして、手札は３枚となる。

「ーースタンバイフェイズ。
永続魔法『ウインドミルレイジ』１回目のターンカウントだ。
破壊まであと２ターンある。
・・・もっとも、そこまでお前が持つまいがな」

「へ、そんなのやってみなくちゃ分からねぇぜ！」

「ふん・・・減らず口を」

永続魔法ウインドミルレイジ。
強力な永続魔法ではあるが、３回目のスタンバイフェイズに自壊する。

だがこのターンで決めるつもりのデュエル・キラーには、あまり関係ない、と言った感じだ。

「ーーお前は俺には勝てない」

「何？！」

これからメインフェイズ、というところで再び口を開くデュエル・キラー。

「俺は普段は他の生徒に紛れて、アカデミアを監視している。
転入以来、目立った動きを見せているお前も、俺は当然見ている」

「どういうことだ？」

「つまりお前のこれまでのデュエルも全て見ている、ということだ」

「・・・そういうことか」

「わずか１ヶ月程ではあるがな。
だがそれだけ見れば、お前のデュエルの流れ、癖、傾向といったあらゆる要素を把握できる」

「癖・・・か」

「前の俺とのデュエルから、この短期間にお前もデッキを調整したようだがな。
所詮は付け焼き刃に過ぎん、ということだ」

デュエル・キラーの言葉に言い返したい気持ちもあるだろう。
だが不利な状況に陥りつつある透矢にはその声は出てこなかった。

ーー顕著でもある透矢の精神。
透矢はじっとこらえていた。

「ーーそ、そんなことないよっ！」

我慢する透矢に代わってか。
千鶴が慣れない大声を響かせた。

透矢はもちろん、デュエル・キラーも意表をつかれたように、千鶴の方を向く。

「お兄ちゃんはそんな簡単に負けたりしないもん！
今までだって、ちゃんと勝ってきてる！」

「・・・千鶴」

「だから、その・・・何ていうか・・・うぅ、なんでこんな時にも言葉が出てこないんだろ・・・」

威勢のいい発言をしたものの、やはり本来の性格だろうか、徐々にどもっていく。
だがそんな千鶴を見て透矢は笑い声を上げた。

「千鶴！
ありがとな、もう充分だよ」

「お、お兄ちゃん・・・」

「心配すんな。
お前の言葉を嘘には出来ねぇからな。
男、遊戦名透矢、ここは踏ん張って見せるぜ！」

「う、うん・・・が、頑張って、お兄ちゃん！」

千鶴の声援に、握り拳を立てたポーズを返す。
一方、そんな千鶴の様子をじっと眺めていたデュエル・キラーは不意に透矢へ向き直ると、手札のカードに手を付けた。

「・・・終わりだ、透矢！
ファイナル・ターン、いやファイナル・フェイズだ！」

「ファイナル・・・フェイズだと！？」

宣言したデュエル・キラー。
『ファイナル・ターン』とはこのターンで終わらせる、という一種の勝利宣言だが、
ファイナル・『フェイズ』とはいかな意味か。
それが今から明らかになる。

「まず手札の速攻魔法をコストに、永続魔法ウインドミルレイジの効果を発動！」

「またデッキから新たな鳥獣族モンスターが出てくるのか！」

「そうだ。
俺は『聖鳥クレイン』を特殊召喚！」

ウインドミルレイジの効果を発動するために、速攻魔法を墓地に送ったデュエル・キラー。
そうしてデッキから現れたのは、白い肌が光輝いて見える鶴のようなモンスター。
翼を１度羽ばたかせると、宝石のような輝きが宙を舞う。

「聖鳥クレインが特殊召喚に成功した時、デッキからカードを１枚ドロー！
更にウインドミルレイジの効果で攻撃力が４００ポイントアップする！」

クレインの特殊能力でカードをドローしたデュエル・キラー。
これで実質、ウインドミルレイジのコスト分は取り戻したことになる。
更に攻撃力が上がり、攻撃力は２０００となった。

「そして、このクレインをリリースし、手札からモンスターをアドバンス召喚！」

「上級モンスターか！」

「出でよ、『疾風の担い手 サラサ』！」

クレインが生け贄となり、新たな風が呼び起こされる。
小さく渦巻く風の中から現れたのは物静かな雰囲気の、『疾風の乙女』によく似た女性。
祈りを捧げるように手を合わせた姿は修道女にも見えるが、やはり長い耳が人間であることを否定している。

レベルは６、攻撃力は上級モンスターにしてはかなり低い８００。
通常召喚だから、ウインドミルレイジの効果も受けない。

「そして、ミサギの特殊能力！
墓地の鳥獣族モンスターを除外し、デッキから速攻魔法カードを１枚手札に加える！」

そしてミサギの能力。
今、墓地へ行ったクレインがゲームから取り除かれて、手札に加わる速攻魔法カード。
そのカードとはーー。

「ーー『双翼の爆風』！」

「双翼の・・・爆風」

勝ちを確信したかのようなデュエル・キラーの口調。

「このカードは自分フィールド上に、鳥獣族モンスターが２体のとき発動出来る。
そのどちらか１体と、相手モンスターを破壊し、破壊した相手モンスターの攻撃力か守備力、高い方の数値分のダメージを与える」

「何！？
ってことはーー」

見るまでもないが、透矢は自分の場を確認する。
自分の場にいるのは影縫いの微刃。
そして高い方の数値は攻撃力の２３００。
これが自分の残りライフ２２００を直撃すればゲームオーバーである。

「ふふ・・・バトルフェイズは必要ない。
だから『ファイナル・フェイズ』と言ったのだ」

「く・・・」

ようやく先の言葉に意味を理解した透矢。
デュエル・キラーはこのメインフェイズで片を付けるつもりなのだ。

「ここまでよく戦ったが・・・残念だな、透矢。
終わりだよ」

「まだ・・・まだ分からないぜ？！」

「ふん、ならばその目で現実を見るがいい。
発動せよ、双翼の爆風！」

最後の透矢の言葉は単なる意地か、それともーー？

いずれにしても双翼の爆風がデュエル・ディスクにセットされ、その効果が発動する。
ミサギが、そしてサラサが同時に攻撃態勢に入った。

ーー標的は影縫いの微刃。

透矢はこの絶体絶命を切り抜けられるのかーー。