運命のデュエル！Ｄ・Ｋの正体！⑯　作：はにわ

　
ーー真希は遂に降臨させた。
本気で透矢を倒すために。
生徒会四天王が１枚ずつ保有する『四龍』モンスター、その最後の１枚。

ーー『閃絶龍 ゼルフィム・ハザード』。

神々しい白い肌を持ち、逞しい胸板から蛇のように細長く伸びる下半身。
上半身からは丸太のような腕を生やし、背中からは巨体を浮かび上がらせる一対の大翼。
後ろに向かって幾重にも角を伸ばした鰐のような顔、その鼻と口の間からは虹色に輝く髭を左右伸ばしている。

「ーーこれが、お前の龍か！」

「そう！
あたしがデュエル・キラーになったと同時に受け継いだ『四龍』カード！
あたしの切り札よ！」

近付くものを容赦なく吹き飛ばす、荒れ狂う風を纏う龍。
レベルは１０、攻撃力は３２００だ。

「真希、お前の場にモンスターが現れた事で、リューゼリッドの攻撃力が上がるぜ！」

リューゼリッドの永続効果が、真希の龍の召喚によって即座に反応。
その攻撃力の半分、１６００がリューゼリッドに加わり、攻撃力は６０００となる。

「攻撃力６０００か・・・ふふ、こりゃ自慢の龍も形なしって感じね」

（ーーこりゃ並大抵の事じゃ倒せない・・・か。
でも俺にこんなモンスターを倒す余力は残されてるのか？！）

攻撃力６０００のリューゼリッドを前にしながら、真希の余裕は失われない。
恐らく真希の龍も、今まで同様に凄まじい能力を秘めているのだろう。
もしリューゼリッドの力だけで何とかならないとなると、
真希の『ミサギ』を倒すために、透矢は既に全力とも言える力を尽くしているため、
果たしてこの『龍』を倒せるだけの余力がデッキに残っているか疑問なのだ。

「頼むぜ・・・リューゼリッド！」

とにかく今はリューゼリッドを信じるしかない。
期待の眼差しでリューゼリッドで声を掛けると、言われた本人はふん、と素っ気なく視線を反らした。
そんな態度を取りながらも、リューゼリッドは巨大な敵を前に立ち向かう姿勢を見せる。

「あたしの龍の力、見せてやるわ！
『ゼルフィム・ハザード』の効果、発動！」

「早速か！」

真希の宣言で、『龍』が天空に向かって轟きを上げる。
すると空の雲が異様な渦を巻くような動きを見せる。

「ーー何だ？！」

何が起きようとしているのか。
そう思った次の瞬間、渦の中心から一条の『白い光』がこちらに向かってくる。

「ゼルフィム・ハザードの特殊能力！
それはこのモンスターの『正面』に存在する相手のカードを全て破壊する！」

「正面・・・ってことは！？」

「そう。
ゼルフィム・ハザードの正面にはあんたのリューゼリッド、そしてリバースカードがある！
それをまとめて破壊するのよ！」

天空から降り注いだ『光』、それが大地に突き刺さると、
まるでレーザーのように地を削りながらリューゼリッドの方に向かってくる。

「・・・くっ、リューゼリッドの効果！
墓地の『蒼き槍迅』をデッキに戻して破壊を無効にする！」

咄嗟に透矢が動く。
Ｔ・Ｆモンスターの効果耐性を使い、リューゼリッドはその身に纏う水をバリアのように周りを覆い、そのレーザーから自らの身を守った。
だが、背後にあるリバース・カードは守れず、レーザーに撃ち抜かれて破壊、消滅する。

「さすがね！
でもこの効果でカードを破壊した場合、１枚につき１０００ポイントのダメージを受けてもらうわよ！」

「な？！」

白いレーザーは更に透矢さえも撃ち貫いたのだ。
破壊されたリバースカード１枚分、すなわち１０００ポイントのダメージを受け、ライフは１８５０となる。

「ーーまだよ！
ゼルフィム・ハザードがこの効果を使用した場合、別のモンスターカードゾーンに移動する！」

「い、移動だと！？」

あまり類を見ないその効果。

今までリューゼリッドの正面にいたゼルフィム・ハザードだが、その１つ隣に移動する。
一体、この行為に何の意味があるというのか。

「ゼルフィム・ハザードの二つ目の効果！
正面に相手のカードが１枚も存在しない場合、このモンスターは相手プレイヤーに直接攻撃できる！」

「ぐっ！
そのための移動か！」

「行くよ、透矢！
ゼルフィム・ハザードで透矢にダイレクトアタック！
『破滅の嵐気流（らんきりゅう）』！」

ゼルフィム・ハザードによる透矢への直接攻撃。
再び天空に向かって轟きを上げた龍。
それに応えるように激しく渦を巻く空の雲。
そしてすぐにその中心から空気を切り裂く風の渦、竜巻が明らかに透矢を狙いを済まして降り注いでくる。

攻撃力は３２００。
これを受ければひとたまりもない。

「ーー手札から、『影縫いの微刃』を墓地に送って効果を発動！
相手モンスターの攻撃力を２３００ポイントダウンさせる！」

手段は『二つ』。
その内の１つを発動させた透矢。
手札からずっと温存させていた『影縫いの微刃』を墓地へ送り、その効果を発動。
ゼルフィム・ハザードの真下から意志を持つ『影』が伸び、その身体を縛り付ける。
もがき苦しむように声を上げる龍、その攻撃力を９００までダウンさせた。

ただ、下がったとはいえ攻撃力は残っている。
残った攻撃力９００が透矢のライフを削り、残りのライフが９５０となる。

「ーーまだよ！
手札から速攻魔法、『デッド・ウィング』！」

「このタイミングで速攻魔法！？」

「場の攻撃力１５００以下のモンスターを対象に発動！
手札から鳥獣族モンスターを墓地へ送り、このターンもう一度続けて攻撃する！」

前のターンに、『疾風の担い手サラサ』で加えておいた『デッド・ウィング』。
それがこのターンのドローで引いた鳥獣族モンスターをコストに発動される。

結果、ゼルフィム・ハザードの二回目の攻撃が透矢を襲った。

「ーーうぁっ！！」

「ーーお兄ちゃん！」

再び９００ポイントのダメージが透矢を襲い、残りライフは僅かに５０。
千鶴の悲鳴のような声が上がる。

「首の皮１枚、ってとこね」

「ああ・・・」

「あはは！
面白いよ、透矢。
このデッキであんたと熱い勝負するのが夢だった！」

「真希・・・」

「今まではバレないように必死にその夢を我慢してたけどーーもう、そんな必要もないよね！」

「真希、俺はーー」

「このまま最後までやろうよ！
あたしの正体を知られた今、あんたとはもう、仲良くデュエル、なんて出来ないだろうしね！」

「真希、話を聞いてくれーー」

「ターンエンド！
さぁ、あんたのターンよ！」

真希が一方的に言葉をぶつけるようにして、そのまま言葉を紡ぐ。

（ダメ、だな・・・。
こんな状態じゃ、何を言っても聞く耳持ちゃしねぇだろ）

透矢は歯噛みした。
恐らく、真希は自分の正体を、最も知られたくない相手に知られた事と、そんな自分を認めてもらえなかった事で、精神が逆上している。

このままでは何を言っても無駄、真希を知る透矢にはそれがよく分かっていた。

（何とか・・・勝つしか、ない！
あの龍を倒してーー真希を、デュエル・キラーなんていう仮面から解放してやるんだ！）

透矢も覚悟を決めた。
とにかくこのデュエルに決着を、そして勝たねばならない、と。
勝ち、そして自分のありのままの気持ちをぶつけなければ、真希を説得出来ない、とそう確信していた。

「俺の・・・ターン！」

ライフは５０。
新たにドローしたカードで手札は１枚。
未だその能力の全てを見せていない真希の龍。

透矢の意志は真希に届くのかーー。