運命のデュエル！Ｄ・Ｋの正体！⑧　作：はにわ

　
「ーーお兄ちゃん！」

千鶴の声が響く。

ーー発動された『双翼の爆風』。
まず『疾風の担い手 サラサ』がその贄となり、白くうねる凪となって『ミサギ』の周りを覆う。
そうして更なる力を得たミサギは、頭上で槍を回転させると、周囲の空気を呑み込む強大な渦をその上に生み出す。

「ーー終わりだ、透矢！」

デュエル・キラーのその声の合図にミサギが槍を振りかざした。
生み出された風の大渦が影縫いの微刃に襲いかかろうとしている。

ーーもはや逃げ場はない。
影縫いの微刃は覚悟を決めたかのように、その場から動くことはない。

だがこの攻撃が決まれば、『双翼の爆風』の効果により透矢は影縫いの微刃の攻撃力、すなわち２３００のダメージを受ける。
そうなれば影縫いの微刃と共に、透矢のライフも尽きるのだ。

伏せカードのない透矢、打つ手はないのかーー。

「ーーこの瞬間、墓地の『炎の胎動』の効果を発動！」

「ーーなっ！？」

透矢が墓地から取り出したカード。
それは炎魅子からもらったカード、『炎の胎動』。
さっきは『三騎士 轟炎の剣』を手札に加えるために発動したカードだが、もうひとつ効果があったのだ。

「効果ダメージを与える、または効果ダメージを与える効果を含むカードが発動したときに、墓地のこのカードを除外して発動出来る！
墓地から炎属性モンスターを１体特殊召喚！
俺は墓地の『轟炎の剣』を復活！」

「ーーあ・・・っ」

双翼の爆風は『効果ダメージを与える効果を含む』カード。
よってそれにチェーンする形で、先にこちらの効果が発動し、墓地から轟炎の剣が甦った。

ヴァルバレアの魂の一部とはいえ、その気迫の強さは未だ失われていない。
手に持つ大剣をしっかりと握りしめて構えを取る。

ここにきてデュエル・キラーは気がついた。
自分の『読み落とし』にーー。

「そしてこの効果を発動後、最初に発生する効果ダメージを、
特殊召喚した炎属性モンスターの攻撃力分軽減する！」

「し、しまったーー」

一端、炎の胎動の効果処理を終えて、次に双翼の爆風の効果処理に入る。
影縫いの微刃は今際の際に、轟炎の剣と目配せを交わす。
これから先に逝く自分の代わりに、残る仲間にこれからの事を託すように。

そうして影縫いの微刃は大渦に呑み込まれ、その命を散らした。

「ーーくっ、済まない、影縫いの微刃！」

またも死なせてしまった戦士を悼む透矢。

ここで本来ならば影縫いの微刃のパラメーターの高い方の数値、２３００のダメージを受けるはずだがーー。

「炎の胎動の効果で、俺が受ける効果ダメージを轟炎の剣の攻撃力分、軽減！
差し引き６００のダメージだな！」

「く・・・そんなーーっ」

轟炎の剣の攻撃力は１７００。
その数値分の軽減値となり、透矢のダメージはかなり減り、
ライフは１６００まで削るに留まった。

「ひゅう・・・助かったぜ・・・。
先輩には感謝しないとなーー」

（・・・ちっ、炎の胎動の効果はは知ってたのにーーうっかり忘れるなんて！）

先ずは即死を免れて安堵しながら、炎魅子に感謝の念を送る透矢。

その一方でデュエル・キラーは心の中で自らに毒付いた。
ダメージを与えたとはいえ、今のは失敗に近い結果。
そしてその失敗が、更に追い討ちを呼ぶ。

「影縫いの微刃は無駄死にじゃないぜ！
影縫いの微刃が相手の効果によって破壊されたとき、デッキまたは手札から影縫いの微刃を墓地に送って、相手フィールド上の魔法・罠カードを１枚破壊する！」

「ーーなっ！？」

「ただ俺はこの効果のコストの代わりにこいつをデッキから墓地に送る！
『トライ・フェアリー』！」

「トライ、フェアリーだと？」

「カード効果を発動するために、『三騎士』モンスターを墓地へ送る場合、代わりにこのカードを手札またはデッキから墓地に送ることが出来る！」

手札に最後の一枚の影縫いの微刃を抱えながら、あえてその効果を使用した透矢。
デッキからトライ・フェアリーが墓地へと送られ、発動条件をクリアする。

「『ウインドミルレイジ』を破壊！」

死した影縫いの微刃の、断末魔の一撃とでも言おうか。
真下から突き上げた黒い杭が、ウインドミルレイジを撃ち抜き、それを破壊する。

「ウインドミルレイジがーー」

ウインドミルレイジは二つの効果で有利にデュエルを進められる大事なカード。
それが破壊されたのは大きい。
これにより攻撃力がアップする効果が消失し、ミサギの攻撃力は元々の２５００に戻った。

「ぐ・・・」

デュエル・キラーは２枚の手札を見る。
これ以上、このメインフェイズで出来る事はないのだが、
それを認めたくないのか、じっと手札を未練がましく見据えるばかり。

「へっへー、どうした？
ファイナル・フェイズ、とか言ってたよな？」

「く・・・っ！」

裏をかかれてデュエル・キラーが困っている、それが透矢にも分かったのだろう。
透矢が屈託のない笑顔で『煽る』。
悔しそうに声を漏らしたデュエル・キラーの、手札を持つ指に力が篭る。

「ーーば、バトル、フェイズだ！」

「よっしゃあ、やっぱデュエルはバトルしないとな！」

「ミサギで轟炎の剣にこうーーっ」

透矢の挑発に乗るように攻撃を宣言しようとしたデュエル・キラーだが、寸前で止まった。

この局面、攻撃力２５００のミサギで、攻撃力１７００の轟炎の剣を攻撃して、勝ちに見える。
だがしかし、事はそう単純ではないのだ。

（透矢は・・・手札にもう１枚、影縫いの微刃を持ってる。
ということは手札の誘発効果が使えるーー）

透矢は３枚の影縫いの微刃をサーチし、現在２枚は墓地へ行き、残る１枚は手札にあるはずだ。
さっきウインドミルレイジを破壊する際に、わざわざトライ・フェアリーを使用したのは手札に一枚温存するためだ。
この状況下では影縫いの微刃は、相手の攻撃宣言時に手札から捨てることで、相手モンスターの攻撃力をダウンさせる効果を発動出来る。

（墓地の速攻魔法は５枚ーー。
ミサギの攻撃宣言時の効果で、轟炎の剣の攻撃力は１５００ポイントダウンするーー。
でも同時に透矢も影縫いの微刃の効果を使えば、ミサギの攻撃力が２３００ポイントダウンするーー？）

ーーその結果、轟炎の剣の攻撃力は２００。
ミサギの攻撃力も２００となって同士討ち。
更にミサギは相手ライフにダメージを与える効果を有するがーー。

（ダメージは１５００・・・。
透矢のライフは１６００・・・？
１００、足りないーー）

何ということか。
ミサギで攻撃しても透矢を倒せないばかりか、ミサギも同士討ちで倒されてしまう。
何とか墓地の速攻魔法の数を増やせればいいが、生憎その手段もない。

「ーーへへ。
どうだ、俺はしぶといだろ？」

「こ、こんな・・・！」

透矢も現状のままでは死なない、ということを読みきったのだろう。
内心、デュエル・キラーの追撃の可能性に緊張しながらも、笑みを浮かべる。

一方、デュエル・キラーは過去のある出来事とこの状況を符合させていた。

（まるでこの状況は・・・刹那！
刹那とデュエルした時と同じーー）

ーー過去。
アカデミア最強デュエリスト、刹那と同等と囃された自分がデュエルした時の事。

（あ、あの時も・・・たった１００のライフが削りきれずに、負けた・・・っ！）

苦い思い出。
大差の負けなら実力の違い、と諦めもつこうが、微差の負けは余計に悔しいということもある。
だが微差であろうと、負けた以上はそれは絶対的な『差』なのである。

（透矢も・・・同じ？
あの刹那と・・・同等の力、
いや、デュエルの流れを生み出すことの出来るデュエリストーー？）

透矢を見つめる。

この奇妙な符号に、デュエル・キラーは透矢に刹那を重ねていた。

（あの刹那に・・・勝てる、とでもーー？）

刹那の実力を最もよく知るデュエル・キラー。
今までは刹那を倒せる者がいるとしたら、それは自分である、という自負があった。

だが目の前の透矢にもその可能性があるというのか。

四天王を３人倒し、そして今、自分が有利に進めていたデュエルに新たな流れを作ろうとしている。
過去の刹那の時のように、その流れに再び呑み込まれるというのか。

（いや・・・私は、負けるわけにはいかない！）

だがもうひとつの、デュエル・キラーの中にある思いが、それを否定した。
頭を何度か横に振ったあと、大きく息を吐いて冷静さを取り戻す。

「・・・バトル終了。
カードを２枚セットして、ターン終了だ」

結局、デュエル・キラーはミサギで攻撃しなかった。
倒せない以上は、同士討ちしても仕方ないと考えたのである。

「何とか凌いだかーー」

透矢も返ってきた自分のターンに、先ずは緊張の糸をほぐす。
女帝の言うようにピンチを凌いだ後は、チャンスが待っているというのは、得てして起きる出来事。

現に、新たなカードをドローする前から、既にある戦術を組み立てていたのだ。

「俺のターン、ドロー！」

透矢の反撃が始まるーー。