炎魅子の覚悟　作：はにわ

　
「ーーこれはどういうことですか、『先輩』？」

デュエル・キラーが口を開く。
デュエル中に、しかも後は『ミサギ』の攻撃を残すのみ、と言うところで、突如乱入し、それを制止させた炎魅子。
透矢自身、炎魅子の誘致でここにいるわけだが、この突然の乱入には驚愕せざるをえない。

「ーーこのデュエル、あたしが預かる！」

「何っ？！」

そして炎魅子のその宣言に、更に驚かされる二人。
すると炎魅子は透矢の前に立ち、デュエル・キラーと向かい合った。

「悪いね、遊戦名」

「紅月先輩・・・？」

一言、謝った炎魅子。
ただそれが何に対して済まない、という意味なのかは透矢には分からず、ただ呆けた表情を向けるだけだった。

「・・・なるほど、全部先輩が仕組んだ、ということか」

「ああ、そういうことさ」

デュエル・キラーはどこからそう悟ったのか、全てを納得したように頷くと、
炎魅子も素直にそれを認める。

「だが既に終わりに近いデュエルとはいえ、
デュエルの最中に乱入するとは、デュエリストにあるまじき行動ではないのか？」

「んな事は、分かってるさ・・・。
ちゃんと責任はとるよ」

「責任・・・？
どう責任をとると？」

「明日、遊戦名はあたしとデュエルする。
だからーー」

そこまで言いながら、目を閉じて１度息を呑み込む炎魅子。
そうして内に秘めた気持ちを決するように、握った拳を自らの胸を強く打つ。

「そのデュエルの勝敗にあたしは副会長の座を賭ける！
それなら文句ないだろ！」

「な・・・っ！？」

「こ、紅月先輩？！」

一際大きな声、体育館中に響くぐらいの声ではっきりそう宣言した炎魅子。
これには再三、意表をつかれたように声を漏らしたデュエル・キラー。
透矢もまさかの宣言に、炎魅子に呼び掛ける。

「・・・つまり、その勝負に先輩が負けたら、副会長を辞する、と？」

「そういうことだね」

「な、何故、そこまで・・・？」

「言っただろ、責任をとる、ってね」

炎魅子は既に決めていたのだろうか、堂々とした、まったく揺らぎない振る舞いで答える。
デュエル・キラーも明らかに動揺しているのが、言葉の節々から伺える。

「ーー炎魅子さん！」

「朝霧まで・・・？」

するとこの体育館に更なる人物が姿を見せる。
こちらに走ってくるその姿を見て、透矢がその名を呼んだ。

すぐに自分たちの元まで駆け寄ってきた地影はすぐに炎魅子に詰め寄る。

「炎魅子さん、どういうことですか！」

「言った通りさ」

「ま、負けたら副会長辞める、って、そ、そんな・・・っ！」

「んな大したことじゃないさ。
元々、あたしの柄じゃないしね。
てゆーかさ、地影が副会長、って方が皆、納得しそうだけどね？」

「そんな勝手な事言われても困ります！
撤回してください！」

「冗談じゃないよ。
あんな高々と宣言しといて、やっぱり今のは無し、なんて言えるわけないだろ」

「炎魅子さん・・・っ！」

「それに負けたら、って言ったろ？
あたしが勝ちゃ、今まで通りなんだからさ」

「このデュエルを止めた責任を勝つ事で果たすと・・・？」

「そういうことになるかね」

いつも冷静な地影がかなり取り乱している。
彼女にも何も伝えられてなかったのは明らかだ。
そんな地影の箴言にも炎魅子は飄々とした口ぶりで返す。

「ーーいいわ、炎魅子。
あなたの覚悟、確かに聞き届けました」

ーーそして最後の人物。
右手に水花を引き連れた刹那が入り口からゆっくり近付いてくる。

「会長さん・・・」

透矢はその方向を見遣った。
刹那、そして生徒会四天王が揃い踏みしたこの空間。
自分は今日、何のためにここへ誘われたのか。
透矢は炎魅子に問いたい思いだった。

「全く・・・独断専行にも程があるわよ、炎魅子？」

「だからその責任を取る、って言ってんのさ」

「あなたが言うことをしたところで、本当に責任を取ることになるのかしら？」

「だったらどうする？
あたしも退学にするかい？」

「た・・・っ、退学って、こ、紅月先輩！」

炎魅子と向き合う刹那。
そして炎魅子の口からついに、『退学』という言葉すら漏れ、透矢が声をあげる。

一方の刹那は疲れたようにため息を吐いた。

「もう・・・あなたを退学になんて出来るはずないでしょ？」

「だったらどうしろってのさ」

「本当に言い出したら聞かないんだから・・・。
まぁいいわ。
あなたの覚悟は受け入れた、って言ったでしょ？」

「そうかい」

「ただし、最終的な決定は会長である私が下します！
それでいい？炎魅子」

「そうしてくれると助かるよ。
ーー悪い、みんな・・・迷惑かけちまったね」

刹那の裁断が下されて、炎魅子がそれに頷くと、
刹那、水花、地影に頭を下げる。

「遊戦名も・・・なんか悪かったね、こんなことになっちまって・・・」

そして透矢にも済まなそうな面持ちで謝る炎魅子。
だがもちろん透矢がそれで納得出来るはずもなかった。

「紅月先輩、訳が分かんないっすよ！
一体、何がどうなってんですか？！」

「あんたに期待してんのさ、遊戦名」

「期待・・・？」

「ああ。
だから今日、こうしてあいつと引き合わせたんだ。
あたしが独断で計画してね。
その責任は取らなきゃならない。
一応、これでも副会長だからね」

「引き合わせた、って・・・」

炎魅子が親指で、デュエル・キラーを指差しながら理由を語った。
だが説明が断片的過ぎて、まったく透矢には全容が掴めない。

「ーーふん、とんだ茶番だったな」

デュエル・キラーがデュエル・ディスクを納める。
すると場に出続けていたミサギも姿を消した。
そして入り口の方へ向かって歩き出すデュエル・キラー。
その途中、透矢の目の前で足を止めた。

「遊戦名」

「な、何だよ・・・！」

「その程度では、刹那と戦っても１ターンどころか、１分とデュエルは続けられないだろうな」

「う、ぐ・・・っ」

「悔しければ俺を倒してみろ。
・・・まぁ、まずは炎魅子先輩を倒せれば、の話だがな」

一方的にそう告げたデュエル・キラーは再び歩き出し、それぞれの脇をすり抜けて入り口へと向かう。
そして刹那の横に差し掛かったところで再び足を止めた。

「・・・期待、はずれか？」

「くすくす、まだ分からなくてよ」

「何故？」

「透矢くんが、今日の炎魅子の計らいを無駄にしなければ、ね」

「ふん、どうかな・・・」

一言、二言、刹那と言葉を交わしたデュエル・キラーはそのまま入り口の方へと姿を消した。
結局、何者だったのかーー？
それは分からず仕舞いだが、透矢はただその背中を見送るだけだった。

炎魅子によってデュエルは止められたとはいえ、自分の敗北は明らかだった。
ーー強い。
デュエル・キラーの存在を認めたくない気持ちは相変わらずだが、その実力は素直に認めていたのだ。

「ーーさて、解散よ！
もうこんな時間だし、透矢くんも帰りなさい」

「で、でも会長さん・・・」

「明日の昼休み、また生徒会室まで来てくれる？
その時、また話すから」

「・・・了解、です」

刹那の仕切りが入り、これにて解散となった。
もちろん、透矢も、そして地影も納得はしていない。
だが体育館内は既に日が沈んで、かなりの暗さであり、
それが今が大体どのくらいの時刻なのかを語っている。

それを考え見て、透矢も刹那の言葉に従った。
地影も同じ思いであるらしく、必死に我を押さえ、何も語ることはなかった。