デュエル・キラー現る②　作：はにわ

　
「ーーお前で最後だ、早く上がってこい」

「うぅ・・・う・・・」

生徒会四天王・風紀委員、通称『デュエル・キラー』と、ブルー生徒たちの戦い。
始まって３０分足らず。
５人いた彼らも、既に最後の一人を迎えようとしていた。

（ば・・・化け物だっ！
全員が全員ーー）

残った一人は抜けそうになる腰を何とか支える。
身体からは自然と脂汗が服を湿らせていた。

倒された四人は打ちひしがれるように地べたを這いずっている。
彼らは皆が皆、ある『法則』によって仕留められていたのだ。
その『法則』が四戦ものデュエルを３０分以内にこなした事に、大きく繋がってくる。

デュエル・キラーはこの戦い、ライフを引き継いで戦うルールだが、ライフは原点の４０００のまま。
すなわち、誰一人としてかすり傷一つ負わせることも出来なかったのだ。

「早くしろ。
それともデュエルを放棄するか」

「あ、あぐ・・・あ・・・」

「その場合はお前の不戦敗で、自動的にお前たちの負けだ。
何もせずに退学になって悔いは残らないのか？」

「うう・・・」

「お前もデュエリストの端くれなら、潔く勝負に首を賭けたらどうなんだっ！！」

一喝が最後の一人を震えさせる。

とてもではないが、勝てる相手ではないーー。
今の４戦を見れば、それが良く分かる。
噂通りの化け物。
いや、そもそも生徒会四天王のメンバーの誰もが、このアカデミアでは抜きん出た存在。
自分みたいなのが挑めるような相手ではない、と常々『諦めていた』。

ーーだが、闘うしかない。
闘わなくとも助からない。
闘って万分の一かもしれない奇跡を掴みとる以外に道はない。
既に敗北した友人たちの命運も自分の手に委ねられている。

ゆっくりとデュエル・リングに上がった彼は、震える腕でデュエル・ディスクを構える。
デュエル・キラーも同じく構え、遂にその時は来た。

「ーーデュエル！」

開始の合図を、同時に言い放つが声が重なることはない。
デュエル・キラーと比べて、震えた声では勢いは出せず、
既に気持ちの面では大勢は決していた。

（頼む・・・頼む！
ここ一番の引きを見せてくれーー！）

神に念じるようにしながら、最初の五枚をドローする。
自分が先攻。
敵の戦術・デッキの傾向は、先の４戦のお陰である程度は把握できているから、後は手札にそれへの対策をしつつ攻め味を残せるような、最高の引きを望む。

（よ、よし・・・先ずは全力で守備に回る・・・！）

引いた５枚を見て直ぐに作戦を決める。
先攻１ターン目は攻撃は出来ないから、相手の後攻を凌ぎながら次の自分のターンに繋げなくてはならない。
そこで彼は多めに引いてきた罠カードを活かすことにした。

「俺はモンスターを裏側守備表示で召喚！」

先ずは守備表示でモンスターを召喚。
しかも裏側表示。
裏側ならば相手にはそのモンスターの攻守、効果など全ての情報を隠すことが出来、攻め味を鈍らせる可能性がある。

「更にカードを３枚セット！」

そして魔法・罠カードゾーンに３枚のリバース・カード。
かなり固い布陣であると言え、これに踏み込める者はそうはいないのではないか。

（俺の裏守備モンスターは『マシュマロン』。
戦闘じゃ破壊されないし、攻撃してくれれば１０００ダメージだ）

『マシュマロン』。
攻守がとても低い代わりに、戦闘破壊耐性、更に裏側のこのカードを攻撃したプレイヤーに１０００ダメージを与える効果を持つ。

（そしてこの３枚の罠・・・これだけあれば何とか『１ターン』は凌げるはずだ）

３枚の罠。
彼から見て右から『奈落の落とし穴』、『神の宣告』、『激流葬』である。
いずれも強力な罠カードであるが、特に高いライフコストを要求するが、『神の宣告』は相手のカードを潰しやすいため、心強い。

何とかこの『１ターン』だけは凌いでみせるーー。

そう、彼はその『１ターン』を過剰に警戒していた。
何故ならば先の四人全てが、その『１ターン』を越すことが出来なかったからだ。

だが今回の自分の布陣は固い。
きっと守れるはずだーー。

「ターン、エンド！」

「ーー待て」

「え？」

ターンエンドを宣言するが、デュエル・キラーがそれを制止する。

「お前のエンドフェイズに、俺は手札から速攻魔法カードを発動する」

「はぁ？！」

「ーー『予期せぬ突風』！」

デュエル・キラーが突如発動させた速攻魔法カード。
驚愕する彼。

「ば、馬鹿野郎、今は俺のターンだぜ！？
何でお前が手札から速攻魔法を発動出来るんだよ！」

そうなのだ。
ターンエンドを跨いで、自分のターンに発動するなら何の問題もないが、今はまだ彼のターン。
デュエル・キラーも『お前のエンドフェイズ』と宣言していることから、それは分かっているはず。

ならば、手札から速攻魔法カードを発動できようはずがない。

「ーー馬鹿はお前だ。
『予期せぬ突風』は特殊な速攻魔法カードなんだよ」

「なんだと！？」

「相手の魔法・罠カードゾーンに３枚以上のカードが置かれている場合、『予期せぬ突風』は相手ターンでも手札から発動できる」

「あ・・・っ！」

自分の魔法・罠カードゾーンには伏せたばかりの３枚のリバース・カード。
『予期せぬ突風』はそれをトリガーとして、特殊な発動条件を満たしたのだ。

「『予期せぬ突風』の効果！
相手フィールド上に存在する魔法・罠カードを２枚まで選択し、手札に戻す！」

「に、２枚！？」

「俺はその２枚を指定！」

指定されたカード。
『奈落の落とし穴』、『神の宣告』。
『予期せぬ突風』から強い風が吹くや、その２枚を吹き飛ばし、彼の手札へと回帰させる。

「あが・・・く、くそ・・・！」

「どうした。
ターンエンドなんだろう？」

「う、うう・・・」

そう彼はエンド宣言をしている。
つまりエンドフェイズに入っているため、もうカードのセットは行えない。
鉄壁がいきなり崩されてしまったかのような感覚。
本来なら３枚のリバース・カードがあったはずなのに、今は１枚。
途端に心細いものを感じるのも無理はない。

ーーそして迎えるデュエル・キラーのターン。
始まりを告げたばかりのデュエルに、唐突な終わりが訪れようとしていた。