３ｒｄデュエル 秀才・地影の堅牢デッキ⑩　作：はにわ

　
「ーー全く、あの転入生には驚かされっぱなしだねぇ。
転入一ヶ月で生徒会大戦、そして地影を相手に善戦・・・。
そしてあたしらでさえ、カードの絵柄でしか見たことのない『龍』を使わせやがった」

「うふふ、私の目に狂いはなかったのよ。
透矢くんは炎魅子たちと同じく、類い稀なデュエリスト。
ああ・・・強い男、って素敵ね」

「でもさすがにここまでだろ？
あの地影の『龍』を攻略出来やしないだろうさ」

「あら、分からなくてよ？
現に透矢くんは『龍』の攻撃を受け止めたのだからね」

ーー観客席の生徒会メンバー。
炎魅子は予想以上の透矢の健闘ぶりに素直に感心し、刹那はこれが望む展開だったのか、すこぶる機嫌の良さ。

「地影の『龍』には確かに弱点があるさ。
でも実際それはあってないようなもんだろ？」

「まぁ、ね。
地影が『その気』にならない限り、弱点に気付いたとしても、それを突くのは不可能ね」

「後は地影はゆっくりドローすりゃいいのさ。
遊戦名は『龍』に手出しできないんだからね」

炎魅子はまだ断然、地影有利と見る。
それはやはり『龍』の存在によるところが大きい。
あれを攻略できずまごつけば、程なく地影が勝つ、と。

「ふぅん・・・ねぇ、水花？
あなたはどう思う？」

刹那はつまらなさそうに唇を尖らせると、横にいる水花の頭を撫でながら意見を求めた。

水花の視線。
それは地影と透矢、どちらを視点にとるかは分からない。
しかしーー。

「まだ・・・分からない」

「分からない？」

「地影は・・・戦って勝とう、とするなら・・・まだ分からない」

「『戦って勝つ』ーーなるほど、ね」

「そういやさっき一気にケリをつけるとか、『らしくない』こと言ってたねぇ」

水花の言葉。
あるいは的を射ていたのだろうか。
地影乗りだった炎魅子が、顔をしかめる。

「確かに『龍』を壁にすればきっと地影が勝つわ。
でも地影はーーそんな勝利を望んでいない・・・かもね」

刹那は地影の今の心境を読みきっていたのだろうか。
いつもなら手堅く勝利を掴む地影が、『龍』を召喚したことで変化をもたらした。
いや、あるいは『龍』を呼ぶまでにデュエルを繋げた、透矢の影響かーー？

どんな決着を見せるのか？
平凡な終わりでは決してない。
きっと自分を奮わせ、絶頂へと導くような刺激をもたらす。
刹那はその瞬間を逃さず堪能すべく、徐々に『昂り』を高めていた。




「ーー俺の、ターン！
ドローだ！」

透矢がカードを引く。
０からの手札一枚。
エニグマンを攻略する手掛かりを探し、そして求めるようにそのカードを見る。

「これはーー」

透矢は引いた。
『可能性』を繋げるカードを。
透矢はしばらくそのカードを眺めながら、彼なりに策を練る。
場には最後の砦たるベアトリーチェ。
強力なモンスターを前に余裕を崩さない彼女。
死地に立ち向かう彼女に、マスターである透矢が力を与えねばならない。

「俺は・・・カードを１枚、セットする」

幾ばくかの時の後、透矢はゆっくりそのカードを伏せた。

「ーー罠カード、発動！」

「ぐっ！なんだーー？」

「『岩投げアタック』！」

すかさず地影は動いた。
伏せたカードを何らか罠カードと見て、ならば少なくともこのターンは何もすることはないはずだ、と読み切り、相手の行動の牽制を担っていたリバース・カードを発動した。

ーー『岩投げアタック』。
デッキから岩石族モンスターを墓地へ送り、相手に５００ポイントのダメージを与えるカードだ。

地影の場に投石機が現れる。

「私はデッキから『美神の石板』を墓地へ送り、遊戦名くんに５００ポイントのダメージを与えます！」

地影がデッキから選んだモンスターを墓地に送ると、投石機に岩が乗せられ、直ぐ様それが凄まじい勢いで放たれる。
投石はベアトリーチェの横をすり抜け、透矢に直撃する。

「く・・・っ、残り２００！
いよいよ後がねぇな」

透矢のライフは僅か。
風前の灯火。
崖から片足を踏み出しているような状況だ。

「『美神の石板』が墓地に送られたことで効果を発動。
カードをドローします」

抜かりなく地影は手札を増強。

（もし、今引いたカードが『岩投げアタック』系統なら・・・万事休すだな）

透矢は顔は笑っているが、心では緊張が一気にピークまで高まっていた。
何しろ吹けば飛ぶような残りライフ。
地影のドロー次第では次のターンにも終わってしまうだろう。

「ターン、エンドだ」

だが今さら足掻いてもどうにもならない。
覚悟を決めて出来ることをやるしかないのだ。
透矢はこれで最後かもしれない、という意識のもと、ターン終了を宣言した。

（ベアトリーチェが攻撃表示のままーー。
ということはあのリバースは・・・）

地影は自分のターンであるに関わらず直ぐにドローしない。
こちらには実質攻撃力４０００のエニグマンがいるにも関わらず、透矢はベアトリーチェを守備表示にしなかった。
表示形式の変更を忘れたのだろうか？

（いや・・・これは『エニグマン』の攻撃を誘っているーー）

透矢ほどのデュエリストがそんなミスをするわけがない。
地影は透矢の実力を『信用していた』。

誘っているするならばあのリバース・カードーー。
透矢がしばらく眺めていたあのカード。
『エニグマン』の能力に対抗できるカードか。

（まさか・・・『エニグマン』の弱点に気がついたーー？）

地影は透矢の思惑を読もうとする。

しかしそこでふと自分がカードをドローしていないことに気がつき、無言でカードをドローするが、意識はリバースカードの正体を探ることに集中している。

だが一度そのドローカードを見るや、地影は目を見開かせた。

「・・・私はカードを１枚、セット」

地影はゆっくり慎重に魔法・罠カードゾーンにそのドロー・カードを差し込んだ。

「ーーターン、エンド」

そして何もせずにエンドを宣言。
思考に時間を費やすことなく、その決断は比較的早かった。

「お、『エニグマン』で殴らないのか？
俺のベアトリーチェ、攻撃表示のままだぜ？」

透矢がわざとらしく笑いながらそう問いかけると、地影は小さく笑う。

「ふふ・・・見え見えの罠にはまりに行くほど、大胆ではありませんから」

「ちぇっ、ばれてたか」

地影の問いに対する透矢の言葉。
それはエニグマンに対する策があるということを認めたようなもの。

（やはり・・・攻撃を誘っていますね。
エニグマンの弱点をつくためにーー）

地影の中であのリバース・カードの正体の目星があらかたつきはじめていた。

（エニグマンの弱点ーー。
それは攻撃力と守備力が入れ替わるダメージステップの短いタイミングーー。
一瞬、守備力が０になる瞬間を狙って叩けばエニグマンを倒すことが出来るーー）

エニグマンの最大の能力は、自らが死ぬ際に守備力分のライフを相手から奪い取ること。
通常は守備力４０００だから相手は手出しできない。
だがーー。

「俺のターン、ドロー！」

透矢はこの瞬間、緊張が最高点に達した。
何故なら地影が伏せたあのカードが相手にダメージを与えるカードならばそれで終わりだからだ。

ーーだが、地影は動かない。
透矢は思わず安堵の息。

「ーー俺はこのターン、何もせずにターンエンドだ」

透矢はカードをドローし、そのカードを確認しただけでターンを終えた。
ーーそう、透矢からは決してエニグマンに手出しは出来ない。

だが、地影から仕掛けた瞬間。
すなわちエニグマンが攻撃した瞬間のみ隙が生じる。
攻守が入れ替わる瞬間、すなわち攻撃力が４０００、守備力が０の瞬間にエニグマンを倒せば、例え地影のライフが残っていても、透矢もまたライフを奪われずに済むのだ。

（ーー恐らくあのリバース・カードはエニグマンの攻撃力を下げるーーもしくはベアトリーチェの攻撃力を上げるカード・・・）

地影は心の中で透矢のリバース・カードに当たりをつけながら、自分のターンのカードをドローする。

そしてそのカードが再び地影を驚かせた。
いや、地影のデッキ・スタイル。
守りに徹し、じわじわ相手のライフを削るというスタンスが、そのカードをドローさせたか。

ドローしたカードは・・・『岩投げアタック』。
残りライフ２００の透矢に引導を渡せるカードだったのだ。