運命のデュエル！Ｄ・Ｋの正体！⑩　作：はにわ

　
ーー３体目となるＴ・Ｆモンスター、リューゼリッド。
攻撃力３１５０にもなる女戦士を前にしながら、デュエル・キラーは至って冷静である。
その理由は２枚のリバース・カード。
そのカードたちが、これからの透矢の行動を予測したとき、高い確率で咎められるからだ。

（さあ・・・透矢！
どうする？
効果を使う？それともバトル？）

大きく２つの選択肢。
だがそのいずれにもデュエル・キラー側には対策がある。
故に、デュエル・キラーは狼狽したりせず、じっと透矢の動きを待つことが出来る。

ーーやがて、透矢はデュエル・キラーの様子をしばらく窺うようにしながら、ついに次なる行動に打って出た。

「ーー俺は、墓地の『蒼き槍迅』をデッキに戻しーー」

（ーー来た！
効果を使うのね。
それならばーーっ！）

デュエル・キラーの反応は素早い。
直ぐ様、対抗策であるリバース・カードの１枚に指を掛ける。

カウンター罠カード『破邪の旋風』。
フィールド上に鳥獣族モンスターが存在する場合のみ発動出来、フィールド上で発動した相手モンスターの効果を無効にして、その攻撃力分のダメージを与えるカード。

つまり透矢がリューゼリッドの効果の発動を宣言した瞬間、このカウンター罠カードが発動。
リューゼリッドの攻撃力３１５０が透矢を襲い、ライフを０にする。

ーーが、しかし。
透矢の策はリューゼリッドの効果の発動でも、『そのまま』攻撃のどちらでもない。
手札にいる『女帝』。
それが自らの能力で、姿を現そうとしていたのだ。

「手札から『女帝の聖杖』を通常召喚！」

「な、何っ？！」

思わず発動しそうになった『破邪の旋風』から慌てて指を離しながら、驚愕するデュエル・キラー。

透矢の宣言した通り、明暗を織り混ぜた不思議な髪を持つ、月を象る杖と太陽を象る盾を手にした『女帝』が、ついにその姿を現したのだ。
全身から発する目映い光が、街灯だけが頼りの暗い公園を、明るく染め上げる。

「ば、馬鹿な！
そのモンスターは最上級モンスター！
リリース無しで召喚、だと？！」

「『女帝』の効果さ！」

「効果？！」

「自分フィールド上にＴ・Ｆモンスターが存在するとき、その素材モンスターを１体デッキに戻すことで、女帝はリリース無しで召喚できる！」

「な、に・・・？！」

デュエル・キラーの言うように、最上級モンスターである女帝は、本来生け贄が２体必要。
だが条件次第ではそれを無くし、通常召喚できる効果を有していたのだ。

レベル７、攻撃力はミサギと同じく２５００を誇る。

「本当は前のターンに、召喚出来てたんだけどな。
あんたのリバース・カードを除去罠と思い込んじまって、それが出来なかったんだよ」

「む・・・ぅ」

「でも結果的には召喚しとけば勝ってたんだよな。
やっぱり直感を信じるのって大事かもしんないよな？」

と、透矢の言葉を単に聞いただけでは分かりづらい。
つまり前の前のターン、ヴァルバレア自身の効果と合わせて、今の女帝の効果を使うと、素材である『轟炎の剣』が墓地に１体となってしまう。
その状況で万が一、ヴァルバレアに除去罠カードが発動された場合、Ｔ・Ｆモンスターの除去耐性を発動するのにもやはり素材をデッキに戻す必要があるため、結局ヴァルバレアの存在は維持できない。

結果としてその読みは外れたわけだが、透矢が前のターンに踏み込めなかったのにはそういう理由があったからだ。

「よし・・・俺のミスでむざむざ倒されちまったヴァルバレアの仇、ちゃんと討ってんやんないとな！
ーーバトルフェイズ！」

（バトルフェイズ・・・っ！
そのまま攻撃するつもりかーー）

透矢の声を受けて、デュエル・キラーは今度はもう１枚のリバース・カードを見る。

（リューゼリッドでミサギを倒し、女帝でダイレクトアタックーーか。
でも、そう上手くはいかせないよ？）

デュエル・キラーにはやはり自信があった。
この攻撃を弾き返す策に。

そして一方の透矢。
すぐには攻撃宣言を行わず、まず女帝の背中を見る。

「・・・いいか、ラグナシア？」

（構わん。
我もフィールドに現れたからには、一戦士に過ぎん。
お前の命（めい）に命を賭けて応えるのが、戦士たる我の務めだ）

「すまないなーー」

透矢はラグナシアと言葉を交わし、申し訳なさそうに顔を伏せる。

（ーー行け、透矢。
我が力を使い、奴に渾身の一打を喰らわせるのだ！）

「ーーああ！」

透矢の命に決意が篭る。
そして透矢の攻撃指令が下された。

「女帝で、ミサギを攻撃ーーっ！」

「なっ！？
リューゼリッドからではないのか？！」

デュエル・キラーにはまさかの展開。
ミサギより攻撃力が高いリューゼリッドではなく、攻撃力が同じ女帝で敢えて同士討ちをしようというのだ。

攻撃指令に従い、女帝が杖をミサギに向けて構える。
彼女の未知なる力なのか、杖の先に光が集束し、１つの巨大なエネルギーの塊を作る。
恐らく杖からそれを放ち、ミサギにぶつけようということなのだろう。

「く・・・っ！
リバース・カード、オープン！
罠カード、『パワー・フォース』！」

まさかの行動にたじろぎながらも、デュエル・キラーは予定通りにリバース・カードを発動させる。

「『パワー・フォース』は相手の攻撃宣言時に発動する！
エンドフェイズまで攻撃対象となったモンスターの攻撃力を、自身の攻撃力の半分の数値分アップする！」

「く・・・っ！」

「すなわちミサギの攻撃力の半分、１２５０が、ミサギの攻撃力に加わる！」

罠カード、パワー・フォースの発動に透矢の顔が歪む。
その効果により、ミサギの攻撃力は３７５０に上昇。
女帝を、そしてリューゼリッドをも上回る攻撃力を得たのである。

「迎撃せよ、ミサギ！
『ブラッディ・ディスマーダー』！」

パワーを上げたミサギ。
放たれた女帝の光弾の一撃を、空中で難なく回避し、そのままの勢いで一気に女帝に迫る。
そして突き出された槍が女帝の盾を貫き、その身体を貫いた。

攻撃力の差はパワー・フォースの上昇分。
つまり１２５０が透矢へのダメージとなり、残りはわずか３５０を残すのみとなった。

「お、お兄ちゃん！」

千鶴が泣き出しそうな顔で叫んだあと、顔を伏せる。
透矢のライフだけが削られていくのをもはや見ていられない、という振る舞いだ。

ーーだが、身体を貫かれ、破壊されたはずの女帝が、リューゼリッドの方を向く。

（ーーリューゼ。
我が力、お前に託す）

透矢にも聞こえたその言葉。
するとリューゼリッドは、崩壊する女帝に対してひざまずき、頭を垂れる。
そうして身体が崩壊した女帝は、大小無数の光の粒となり、それが直ぐに意志ある動きを見せて、リューゼリッドへと集まる。
するとリューゼリッドが女帝の力を引き継いだかのように、身体の周りから強い光を発するようになる。

「ーー女帝の効果！
召喚された女帝が墓地へ送られた場合、俺の場にいるＴ・Ｆモンスターにその攻撃力２５００を加える！」

女帝の身体は散れど、力は失われず。
その力は戦士の糧となり、引き継がれる。
リューゼリッドの攻撃力に女帝の力が加わり、合計５６５０となった。

「攻撃力５６５０ーーこれが狙いだったのか！」

超絶たる力を手にしたリューゼリッド。
その力を、そして意志を継いだ彼女は再び立ち上がると、槍を振りかざしながら、デュエル・キラーの元へ舞い戻ったミサギを睨み据える。
その瞳は、たくさんの仲間を葬った敵に対する怒りに満ちていた。

「ーーそして、この瞬間、墓地の『女帝の鎮魂歌』の効果発動！
女帝がフィールドから墓地に送られた時、その攻撃力２５００分、ライフを回復する！」

「か、回復、だと？！」

女帝の魂は更に透矢へも託される。
墓地から柔らかく温かい、安らぎの光が透矢を癒し、
ライフを一気に２８５０まで回復させた。

「ありがとな、ラグナシアーー。
そして行くぜ！
リューゼリッドでミサギを攻撃！
白竜の一撃、『ラグナシア・エンハンス』！」

透矢の声を受けて、リューゼリッドが地を蹴り、一瞬の内に遥か高く、宙を支配するミサギよりも高く飛び上がる。
そして渾身の力で放たれた槍が、ミサギに反応すら許さず、その身を貫いた。
それだけでは終わらず、貫いた槍が内から光を発し、ミサギの身体を一気に焼き尽くす。
まさに龍が発した炎に焼かれたように。
そしてその炎は真下にいたデュエル・キラーへと襲いかかった。

「ーーぐうぁああああっ！？」

リューゼリッドとミサギの攻撃力の差は１９００。
それがデュエル・キラーへのダメージとなり、一気にライフを２１００まで削る。

「嫌・・・っ！」

また千鶴が顔を反らす。
その宙には、小さな雫が舞っていた。

そして放った槍は主の元へと自ら回帰し、リューゼリッドがそれを受け取る。
見事本懐を遂げたリューゼリッドは、透矢の元へと舞い戻った。

「ふ、ふふ・・・今のは効いたぞ、透矢」

「・・・女帝を特攻させたんだ。
効いてくれなきゃ困るぜ」

胸を押さえるようにしながら話すデュエル・キラー。
ライフが逆転したというのに、透矢は嬉しさ半分、と言ったところだろうか。

「女帝を敢えて特攻させるとはな。
俺のリバース・カードを読み切っていたのか」

「読みきってなんかないさ。
ただあんたは俺の戦術を知り尽くしてるからな。
単純は通用しないだろ？」

「ライフ回復コンボも・・・織り込み済みか」

「だからたまたまだよ。
ライフも俺が上回ったといってもそんな大差ないしな。
勝負はこれからさ！」

「ふふ・・・そうだな、これからだな」

『これから』。
二人はそう言うが、実際は透矢が情勢を逆転した、と言ってもいいだろう。
デュエル・キラーのエース、ミサギは倒され、
透矢の場には効果耐性を持つリューゼリッド。
ミサギがいなくなり、自身の攻撃力アップ効果は無くなったが、それでも未だ４４００を誇る。
これを覆すのは容易ではあるまい。

だが二人の戦意はいささかも衰えてはいない。
ここからが本当に互いのライフをすり減らす戦いーー少なくとも、透矢は簡単には勝たせてはくれない、と確信していた。

「もう・・・やめて」

そんな時、小さな声が二人の耳がかろうじて捉える。
声の主が誰かはすぐわかった。
ーー千鶴。

「千鶴・・・？」

透矢が呼び掛ける。
顔を伏せている千鶴。
だが次の瞬間、その顔を振り上げると、双眸から溢れ出た涙を散らす。

「ーーもう止めて！
私、私・・・もうこれ以上、見てられない」

「ど、どうしたんだ、千鶴？」

涙を浮かべ、嗚咽混じりの声でそんなことを言い出す千鶴に、透矢は戸惑う。

「お兄ちゃん、もう止めて・・・。
もう戦わないで」

「戦うな、って、千鶴？」

「お兄ちゃん・・・お兄ちゃんが今、誰とデュエルしてるか、分かってるの？」

「え？
誰と、って・・・」

透矢はふとデュエル・キラーを見る。
仮面とマントで身を隠した大柄な男。
一体、何者であるというのか、見当もつかない。

「もう止めて・・・私、あなたが誰なのか、分かってるよーー」

「えっ？！」

千鶴のまさかの発言。
透矢はなぜ千鶴がそんなことを言うのか、またどうして正体を知っていると言うのか、まるで分からない。
あるいは千鶴の知り合いだというのか？

そんな事を考えていた透矢は、次の千鶴の一言に耳を疑った。

「・・・お姉ちゃん、でしょ？」

「えっ？！」

「お姉ちゃんなんでしょ？
私、分かるよーー」

千鶴の言葉にただ驚くしかない透矢。
何も答えないデュエル・キラー。
いよいよ、その隠された正体が明かされようとしていた。