天才少女・水花の極寒デュエル！⑩　作：はにわ

　
ーー水花は忘れていたーーいや、心の奥底に閉じ込めた感情を思い出していた。

それは『恐怖』。

『あの時』から自分はデュエルで負けた事はない。
自分と同じくらいの子供が相手でも、お兄さん、お姉さんーー果ては大人を相手にしたとしても。
ライフが半分を下回るような事にすら遭遇したことはない。

ましてこのアカデミアに来て、『ゼロ・プリズナー』の持ち主となってからは、よりそれは顕著となる。
『ゼロ・プリズナー』を召喚するのは難しいが、出せれば勝ち。
故にそれをメインとしたデッキ構築とすれば良く、『天才』・水花にはそんなことは容易なことだった。

ーーだが、しかし。

今戦っている透矢は、ゼロ・プリズナーの攻撃を２度に渡って防いでいる。
それも初見で。

更に今、ゼロ・プリズナーを封じ込め、反撃に転じようとしている。

ーー以前も、こんな『不思議』とも言える強さを持った者と戦ったことがあった。

そう、『あの時』にーー。



「ーー『影縫いの微刃』は、相手フィールド上にのみモンスターが存在する場合、リリース無しで通常召喚出来る！」

「ーーっ！
あ、あ・・・」

水花は透矢の声で、不意に現実に引き戻されたかのように身体を震わせる。
水花は本能で察知していた。
このターンで、自分は一気に大打撃を受けるだろうということに。
それが恐怖となって如実にあらわれている。

透矢の場に現れた黒装束に身を包んだ『影の三騎士』。
レベルは５、攻撃力は２３００。
その効果により、リリースモンスターが無くても召喚出来たのだ。

「更に、手札から装備魔法・『三剣の誓い』！
影縫いの微塵に装備して、攻撃力が４００ポイントアップ！」

影縫いの微刃の力だけでは、『凍土の狼（ブリザード・ファング）』を倒すことは出来ない。
そこで装備魔法の力を借りて、その攻撃力を底上げする。

三角のエンブレムを付けた影縫いの微刃の攻撃力は２７００。
攻撃力２８００の凍土の狼にはまだ届かない。
だがーー。

「更に三剣の誓いの効果！
装備モンスターと同名のカードをデッキか手札から墓地に捨てることで、攻撃力を次のスタンバイフェイズまで４００ポイントアップ！」

三剣の誓いは装備モンスターと同名のモンスターを墓地へ送り、その魂を攻撃力へと変える。
透矢がデッキから選んだ２枚目の影縫いの微刃を墓地へ送ると、フィールドにいる影縫いの微刃の攻撃力が上昇。
凍土の狼を凌駕し、３１００となった。

「あっ・・・」

水花は声を漏らす。
その表情は何かに絶望するような、弱々しさを滲み出させていた。

反して、一度は沈黙していた観客たちは再び熱気を帯び始める。
透矢が自らのモンスターを犠牲にドローに懸けてからというもの、場は完全に透矢のペースとなった。
この勢いのまま、一気に抜き去ってしまうかーー？
そんな期待が観客には込められている。

「行くぜ、バトルだ！
影縫いの微刃で、凍土の狼を攻撃！」

満を持して、攻撃宣言が行われた。
くの一というべき戦士が、自らの影の中に溶け込むように消える。
姿を消し、どこから攻撃をしようというのか。

「あ、あ・・・、え、永続罠、カード『絶対零度の凍壁』を、は、発動！
墓地のぜ、ゼロ・プリズナーをで、デッキに戻して、その攻撃力以下の、モンスターのこ、攻撃をむ、無効に・・・！」

しかし水花にはまだもう１つのバリアが残されていた。
だがそれを発動させようとする水花は明らかに取り乱していた。

ーー『絶対零度の凍壁』。
墓地の水属性モンスターをデッキに戻し、その攻撃力以下の相手モンスターの攻撃をこのターン、無効とする。
墓地には透矢が『異次元からの埋葬』で墓地へ送ったゼロ・プリズナーがいた。
その攻撃力は４０００。

正に絶対的たる氷の壁が水花のフィールドを包み、途中でその壁に弾かれたのか、くの一の戦士は再び透矢のフィールドに影と共に姿を見せる。

「そっか、忘れてたぜ！
ちぇ、決まったと思ったのになぁ」

「う・・・う・・・」

攻撃が通らなかったのに余裕の笑みを見せる透矢。
少なくとも水花には『そう見えた』。
それが水花の焦りを更に募らせ、そして皮肉にも今のバリアの発動が、水花を更に追い詰めるのである。

「俺はこれでターン、エンドだ」

そのまま何のアクションも無しにターンを終了させた透矢。
巡ってきた水花のターン。
声も無しに、震える指でカードをドローする。

「ーー！？」

目も眩むような現実がそこにあった。
引いたカード。
それはゼロ・プリズナーが万が一倒された場合の、保険となるカードである。
ただ発動するためにはゼロ・プリズナーが墓地にいなくてはならない。

しかしながらゼロ・プリズナーは『絶対零度の凍壁』でデッキに帰っている。
発動せずに攻撃を敢えて通していればーー。

水花の気持ちの底で嫌なものが、ざわざわと込み上げてきていた。