天才少女・水花の極寒デュエル！③　作：はにわ

　
ーー魔法カード・『静止する日（ザ・レスト・デイ）』の発動。

それは水花の持つ『四龍』モンスターが姿を現すということを意味していた。
噂だけで、滅多に見ることのできない、アカデミア最強の『四龍』カード。
それが召喚されるということで、観客席ではかつてない盛り上がりを見せている。

「ーーうっふふ・・・水花ったらはしゃいじゃって。
あの子、久しぶりに自分と互角に戦える相手とデュエル出来て、気持ちが昂っているみたいね」

刹那が可愛い妹を見遣るように微笑む。

「水花のヤツ、相変わらずデュエルの時は人が変わったみたいに生き生きとするねぇ！
しかもいきなり『あれ』を召喚するたぁ、引きも冴え冴えじゃないか！」

「そうね。
序盤から退屈せずに済みそう！」

「いやいや、あれ、下手したらこのターンで終わっちゃうんじゃないのかい？」

「あら、私が推す透矢くんが、そんな簡単に終わるわけがないわ。
・・・でも、そうね。
透矢くんがどう凌ぐか見ものね」

デュエルの時しか見られない水花の姿に、刹那も炎魅子も心なしかいつもより声のトーンが高い。
だが水花のエース・モンスターが姿を現す事になる以上、透矢は開始早々に緊迫した場面を迎えるということ。
刹那は期待の眼差しで透矢を見た。

「・・・（遊戦名くん・・・）」

「ん？
なんだい、地影。
押し黙っちゃってさ」

「ーーえっ！？
い、いえ、何でもありません」

「くすくす・・・透矢くんが心配？」

「べ、別に心配などしていません」

「うふふ・・・地影ったら正直ね」

「な、何ですか！」

「うっふふふ・・・」

含んだ笑い方をする刹那に、地影は必死に平静を装う。
普段から見ている地影と、今の彼女の様子の違いを見れば、刹那の言葉が図星をついていたのは明らかなのだった。

ただ思わず地影が心配する眼差しを送ってしまった程、透矢は危機に陥っているということである。




ーーそして今、『静止する日』の発動により、水花の場にいた３体の水属性モンスターが生け贄となり、
水花の背後の地面から『四龍』がその姿を現した。

「ーー水花の龍、『凍獄龍 ゼロ・プリズナー』、召喚！」

「うおお・・・っ」

腕と同化した巨大な翼を広げ、頑強な体躯とそれを支える太い両足。
胴体からは首が長く伸び、それが顔へと繋がる。
そして一番の特徴は全身から針鼠のように突き出した、大小の鋭い氷柱である。
氷柱に身体が護られている、という言い方も出来、恐らく近付くだけで鋭い尖端によって肉を切り裂かれることだろう。

顔も例に洩れず氷柱に覆われているが、隙間から覗かせる黄色く光る眼が、透矢を見下ろす。

そして挨拶とばかりに、歯すら氷柱で出来ているのではないかという口を広げて、やたら甲高い咆哮を轟かせた。

ーー凍獄龍 ゼロ・プリズナー。
レベルは１０、攻撃力は神に並ぶ４０００である。

「す、すげぇ・・・この迫力、スリルがたまんねぇぜ！
しかも１ターン目からでてくるんだからな、敵わねぇよなぁ！」

と、そう言いながらも透矢は心にたぎる高揚感を押さえきれないかのように、両手を強く握りしめ、汗がにじむ。
こんなモンスターと戦えることに幸せすら感じるように。

対してエース・モンスターを召喚したというのに、その事自体に水花が喜ぶ様子はない。

ゼロ・プリズナーを召喚したのは、自分のデッキのコンセプトを淡々とこなして見せたに過ぎない。

少女が昂るのには、もっと別のところに理由があるのだーー。

「ゼロ・プリズナーの効果、使うよ！」

「さっそく来たな！
どんな効果だ！？」

「『悠久の投獄（エターナル・プリズン）』！！」

ゼロ・プリズナーがその力の一端を見せる。
するとゼロ・プリズナーは後に召喚された一回り大きい方の『守護の鎧』に狙いを付け、
その両翼を勢いよく羽ばたかせた。
するとその両翼に生えていた氷柱が、一斉に飛び出し、守護の鎧に襲いかかる。

恐るべきはその凍結能力。
氷柱が守護の鎧が纏う鎧や、盾に触れるや、そこから直ぐに凍り始める。
降り注ぐ無数の氷柱からは逃れるすべはなく、守護の鎧は声を上げる間もなく全身が凍りついたのだった。

それを見たゼロ・プリズナーが翼を引く。
射出した氷柱はすぐに元通りに生えてきた。
どういう身体に構造なのか。

「『守護の鎧』がーー凍った？」

「ゼロ・プリズナーの効果なの。
１ターンに１度、相手の表側表示モンスター１体をデッキに戻して、代わりにトークンを特殊召喚するの」

「モンスターをデッキに戻して、トークン召喚・・・？」

まず『誘発同盟』で出されたばかりの守護の鎧が再びデッキに消える。
だが場には凍りついた守護の鎧が残ったまま。

「そのモンスターは、もう氷の彫刻だよ？
攻撃力・守備力はゼロで、攻撃表示になってるの」

「こ、攻守０で、攻撃表示だぁ？！」

ゼロ・プリズナーの恐るべき効果。
それは相手モンスターを氷の彫刻に変えてしまう効果。
氷の彫刻となったモンスターは種族・属性を受け継いだモンスター・トークンとなるが、
真に恐怖すべきは攻守が０になり、攻撃表示だということ。

つまり、この状態でゼロ・プリズナーに攻撃されればーー。

「あとゼロ・プリズナーは、罠カードが効かないの」

「うえっ？！」

更にゼロ・プリズナーの驚異の能力。
『罠カードが効かない』。

つまり氷の彫刻となったモンスターがゼロ・プリズナーに攻撃されようというのに、罠で護ることは出来ないのだ。

「ーーもう、終わり・・・？
バトル、行くよ」

「ぐ・・・っ」

「ゼロ・プリズナーでトークンを攻撃！
『ブレイク・スカルチャー』！！」

そしてバトル。
攻撃命令が下されたゼロ・プリズナーが再び動く。
長い首は伸縮自在なのか、凍り付けとなった守護の鎧目掛けて、ゼロ・プリズナーの顔が襲いかかる。
口を大きく開けており、一気に噛み砕こうと言うのか。

ゼロ・プリズナーの攻撃力は４０００。
これが通ればそれでジ・エンド。

よもや１ターンキルか？

観客が透矢に注目する。
手段の有無や如何にーーと。