始まる生徒会大戦　作：はにわ

　
ーー透矢と凌斗のリベンジデュエルから翌々日。
今日は日曜であるが、生徒会の仕事で刹那がアカデミアに登校していることを聞き付けた透矢は、休日にも関わらず生徒会へと乗り込んでいた。
まだ学園内の道に慣れていない透矢の道案内役として、真希がその役を自ら申し出てそれに付き合っている。

「ーー会長、流石の退学を取り消してやってください！」

半ば強引に室内に踏み込んだ透矢が、会長・刹那のデスクに詰め寄り、発した第一声がそれだった。

「突然、やって来たかと思えば何？
流石くんの退学を取り消せだなんて」

いきなり怒号を浴びせられたにも関わらず、変わらず済ました態度の刹那。

「なんで流石が退学にならなくちゃならないんですか！
あいつは別に何もしてないだろ？！」

「ちょ、と、透矢・・・落ち着いて」

デスクに腕を叩きつける透矢を、真希が刹那の顔色を窺いながら宥める。

「・・・だから、その事については前も話した通りよ？
彼は君とのリベンジデュエルを実現するために首を賭けたの。
結果、彼は負けたから、約束を守ってもらっただけよ」

「そんなの聞いてないです！」

「だって透矢くんには関係ないでしょう？」

「関係ないわけない！
流石とデュエルしたのは俺なんですから！」

「ふぅ・・・困ったわ。
透矢くん、感情的にならないで？
冷静にお話ししましょ？」

あくまで済ました対応、言わば営業スマイルを見せながら透矢と対する刹那。
すると後ろから透矢の肩を叩く者がいた。

副会長・炎魅子である。

「まぁ、聞きなよ、遊戦名」

「紅月先輩・・・」

炎魅子は透矢や真希、そして刹那にとって上級生にあたる。
その炎魅子の声には、透矢も声を荒げたりはしない。

「あのデュエルはね、流石の奴が望んだことなんだ。
刹那はね、それを実現させるために先生たちに根回ししたんだよ」

「だから・・・なんですか？」

「つまりさ、そこまでしてくれた刹那に流石は応えられなかったのさ。
何らかのペナルティぐらい、あってもおかしくないだろ？」

「でも、だからって退学は酷すぎる！」

「ま、まぁ・・・そりゃあ、ね」

炎魅子が困ったように頬を指でかく。
すると今度は地影が立ち上がった。
端末を指で操作しながら。

「流石くんは優秀ではありましたが、前々から素行に問題があり、生徒会にも被害届が寄せられていました」

「そ、それは、今の話に関係ないだろ！」

「その通りです。
ですが、遅かれ早かれ、そういった別件で何らかの処分は下っていたでしょう。
それにーー」

「それに、なんだよ」

「デュエルの勝敗に賭けた約束を守る、というのは『デュエリスト』、として当然ではないでしょうか、遊戦名くん」

「朝霧・・・」

冷静かつ冷ややかな口調の地影。
ある種の貫禄に満ちたその雰囲気に、透矢は思わず声を詰まらせる。

「ーーまぁ、でも確かに。
退学処分、というのは私も些か重すぎる処分かと思いますがーー刹那さん？」

「あ、朝霧！」

しかし地影は透矢を援護するような姿勢を見せた。
透矢の表情が明るくなる。

「でも、ね。
私も生徒たちの前で、正式に処分を下してしまった手前、そんな簡単に覆すわけにはいかないわ」

「そこを、何とかさぁ！
頼むよ、会長さん！
あれじゃ流石がかわいそうだろ？」

手を合わせて懇願してくる透矢を見て、人指し指を下唇に当てていた刹那が不意に笑みを浮かべる。
その表情を見た真希が、電気が走ったかのように背を震わせる。

「そうね・・・君の流石くんをそこまで思う気持ちは少し意外ではあるけど・・・、
その気持ちを無為に切り捨てるのも、生徒の代表である会長としてはあるまじき態度だわ」

「会長さん！じゃあ・・・」

希望の光が差した、とでも言うような透矢の明るい表情。
しかしそんな透矢を遮るように、上に向けた人指し指を前に突き出した
。
「ーー勘違いしないで、透矢くん。
私の結論は変える気はないわ」

「会長さん！」

再び声を大きくした透矢に、刹那は突き出した手の中指を立てて、人指し指と合わせて二本にする。

「ーー二週間、時間をあげるわ」

「二週間・・・？」

「流石くんの正式な処分決定を、二週間先延ばしにしてあげる。
でも、もう一度言うけど、あくまで私の決定は変わらない。
今も、二週間後も、ね」

「そ、それじゃ意味が・・・！」

「最後まで聞いて、透矢くん。
もし、どうしても流石くんを助けたいなら、あなたがそれを覆しなさい」

「く、覆す・・・？って？」

意図が分からない透矢。
すると刹那は突き出した手を引くと、両手で顎杖をつく。

「ーー透矢くん、君が生徒会長になるのよ」

「は、はぁああ？！
お、俺が生徒会長に？」

「せ、刹那・・・！？」

突飛でもない発言に、透矢が驚きを身体全体で表すように仰け反る。
真希も口を大きく開けて、刹那のデスクに駆け寄る。

「君がその二週間の間に生徒会長になれば、流石くんの退学処分を取り消せるわ」

「い、いや、そんな俺に会長って、大体、会長はあんただろ！」

「くすくす、落ち着いて、透矢くん。
私はデュエルで勝ち抜いて、今この席に座ってるだけ。
もし他の誰かが私に勝つようなことがあれば、その瞬間から会長はその勝者になるのよ」

「いや、でもさぁ、流石の話がなんで俺が会長になるとかって話に・・・」

「君に期待してるからよ、透矢くん」

「期待・・・」

底知れぬ思いが込められた刹那の笑み。
その表情にうすら寒いものを感じる透矢。

「透矢くん、やってみない？
『生徒会大戦』を」

「せ、生徒会・・・大戦？」

刹那から告げられた聞き慣れない言葉。
刹那は己の描いた絵の通りに事が進んでいることに、内心、興奮が押さえられないようだった。